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ハリス氏の副大統領指名でアメリカ選挙の行方に変化

Biden made Trump bigger. Harris makes him smaller.

訳:バイデンの時は、トランプは大きく見えた。しかし、ハリスになって彼は小さくなった.。(New York Times への投稿より)

【解説】

アメリカの友人が、「 She is getting ground.」とカマラハリスのことを評価していました。カマラ・ハリス副大統領が着実に支持者を増やしているという意味です。
彼は夏頃までは、バイデン大統領、トランプ前大統領双方に対して投票をする意欲をもてないでいました。トランプ氏にはいくつもの疑問を抱くものの、バイデン大統領の失言などにうんざりして、結局はトランプ氏に投票するかもしれないと、私にぼやいていたのです。
アメリカには、こうした有権者が多数いたはずです。「 He is idiot(あいつは愚か者だよ)」とトランプ前大統領を酷評していた人々が、今回の民主党の変化にほっと胸を撫で下ろし、これでアメリカは安定するだろうと思っているわけです。

この友人は元はといえば、共和党支持者だったのです。
しかし、共和党が右傾化し、トランプ大統領への一極集中現象がおきたことで、ここ数年民主党支持にまわっていたのです。
スイングステイトと呼ばれる、共和党と民主党支持者が拮抗していた州で、前回バイデン大統領が勝利したのも、彼のような元々共和党を支持していた人々の鞍替えの影響が大きかったのです。

GOPという共和党を示す言葉があります。これは偉大なる伝統的な政党(Grand Old Party)という意味の略語です。この由緒正しい政党が、コロナ禍のときのマスクの着用の義務化をめぐる論争などを通して、トランプ派によって席巻されたことで、元々の共和党の穏健な政策を支持していた有権者が戸惑いをみせていたのです。
この変化は、最初は地方の議会でおこりました。地方都市の伝統的なアメリカの価値を重んずる人々に支持された共和党議員が、軒並みトランプ支持に靡(なび)いていったのです。これは明らかに有権者の間に巻き起こったトランプ旋風のあおりでした。アメリカに無数にあるコミュニティ意識の強い田舎町で、トランプ氏の歯に衣きせない演説に、今までもやもやしていた不満が爆発し、共和党でトランプ氏を支持しなければ地方議会の議員にもなれないほどに、熱烈な支持者が結集したのです。
この影響は民主党にも及びました。民主党は伝統的に労働組合を支持基盤にもっていました。しかし、地方都市の工場で実直に働く人々は、仕事が終われば家族と共に過ごし、週末には教会に行って知人との会話を楽しみます。そうした人々に移民によって仕事が奪われず、地方の伝統的な文化に他所の人間がはいって混乱をおこさないようなアメリカ第一主義を唱えるトランプ氏の声は心地よく響いたのです。つまり、共和党にせよ民主党にせよ、トランプ氏がおこした旋風が、有権者に新たな政治意識を植え付けていったことへの対応に追われたのです。

やがて、この傾向は地方都市での共和党の内部分裂にまで発展します。そして、今ではトランプ前大統領への支持を拒否すること自体が不可能ななでに事態が変化したのです。簡単にいうならば、共和党はすでにGOPをスローガンにしていた頃の共和党ではなくなったのです。そして、民主党もこうした共和党の変化に対して、単に2大政党の政策論争で対決するのではなく、従来のアメリカが歩んできた民主主義の道を守る党として、共和党の変化への危機感を訴えることで民衆へのアピールをはじめたのです。
そして、このアピールに同意したのが、都市部を中心とする従来の共和党支持者だったのです。この変化が4年前にバイデン政権を生み出しました。

しかし、今回の選挙で、バイデン大統領の指導力が弱体化していったことに失望した彼らは、今の共和党に疑問を抱きながらも、トランプ前大統領支持に傾きはじめていたのです。
そうした状況に危機感を抱いたのは民主党に他なりません。
こうしたハードルを乗り越えるために、バイデン大統領が出馬を諦め、カマラ・ハリス副大統領が民主党の正式な大統領候補となりました。状況が大きく変化しはじめたのは、カマラ・ハリス氏が副大統領候補にティム・ワルツ氏を指名したときのことでした。
カマラ・ハリス氏はインド系の黒人で、人権や移民政策に対して極めてリベラルな人物というイメージを有権者は持っていました。そんな左寄りの女性大統領を支える人物として、穏健で実直なアメリカ中西部の男性の典型ともいえそうな60歳の人物を副大統領候補としたことで、共和党に靡かけていた白人系男性の票が大きく戻ってきたのです。ハリス副大統領の絶妙な人事作戦が的中したことになります。

このあと、守勢にまわったトランプ陣営は急激な巻き返しを画策します。おそらく民主党候補のスキャンダルを暴き、全米に放送される大統領選挙のディベイトなどで、激しい舌戦をしかけてくるはずです。
すでに共和党のバンス副大統領候補が、ワルツ氏がイラン戦争の前に退役したことを兵役詐称だとして、メディアで彼のことを痛烈に批判して話題になっています。ただ、トランプ前大統領自身が様々なスキャンダルにまみれている中で、こうした論争がどこまで効果的かは疑問が残ります。
「誹謗中傷をすればするほど、自らが品位を落としてしまう」
とある有権者は指摘し、トランプ氏とバンス氏の行う民主党候補への攻撃にうんざりしてきている人も多くいるのです。
我々がみていかなければならないのは、ハリス陣営が大きな失言や、こうしたスキャンダルに巻き込まれないよう、残りの選挙戦をどう乗り切れるかという一点にかかっているように思えます。こうした「さよならゲーム」を防ぐことが、カマラ・ハリスが大統領になる切符を獲得できるかどうかの分岐点になるでしょう。
それには、共和党がしかけてくる誹謗中傷によって同じレベルの土俵で戦うことへの注意が必要です。より建設的な政治的ビジョンを、ロジックをもって繰り広げながら、要所要所で共和党の弱点をついてゆければ、今回の選挙の勝敗はおのずと見えてきそうです。

好むと好まざるとに関わらず、アメリカの大統領選挙の行方は世界情勢に大きな影響を与えます。日本は選挙の行方に一喜一憂するのではなく、日本が何をしてどのように世界の中に自らを置きたいのかをしっかりとアピールする「不動の姿勢」が必要です。
アメリカと距離をおくのではなく、アメリカと友好国として対等に付き合えるリーダーが求められているのです。もしハリス陣営が勝利した場合、外交政策がどう変化するかはカマラ・ハリス自身の外交手腕が全く未知数なために予測が困難です。イスラエルのガザ問題へのアプローチには変化があるかもしれません。しかし、その他の局面では従来通りの政策を踏襲するのではというのが一般的な見方です。その点トランプ氏はアメリカのごく平均的な一般市民の意識に沿った外交政策を展開するはずで、わかりやすいといえばその通りですが、日本に今後どのような注文をつけてくるか警戒も必要です。
であればこそ、日本は自国の利益をしっかりと見極めた「不動の姿勢」を貫くことが今まで以上に重要になってくるのです。

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