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気候変動への対応に気を遣う大統領選挙からみえる人類の本音

Kamala Harris will not seek to ban fracking if she becomes US president, campaign officials have confirmed, with the de facto Democratic nominee expected to focus instead on aggressively promoting the stark contrast on the climate crisis between Joe Biden’s administration and Donald Trump.

訳:カマラ・ハリスが大統領に就任しても、フラッキングの禁止は求めないと関係者が確認。民主党は、その代わりにジョー・バイデン政権とドナルド・トランプの気候変動に関する対照的な姿勢を強調することに注力する。(The Guardianより)

【解説】

最近つくづく思うのは、人類の種としての寿命と科学の発展が反比例しているのではという現実です。科学の発展はヒトの寿命を伸ばします。でも、それと反比例するように種としての寿命が短くなってきているのではと懸念するのです。

アメリカのカマラ・ハリス副大統領が民主党の大統領候補になったとき、彼女には大きな課題がありました。それは、大統領選挙で8人の選挙人が割り当てられているペンシルバニア州で勝利するために、彼女が主張してきた地球の環境を守る活動を抑制するかどうかという決断です。ペンシルバニア州はフラッキングという新たな化石燃料の採掘技術の導入で、テキサス州に続いてアメリカでもっとも化石燃料の採掘とそれに関連した産業が成長している州だからです。
これは、彼女が今まで主張してきた地球温暖化対策の推進政策に大きなブレーキをかける決断です。これは、民主党と共和党の支持が拮抗しているペンシルバニア州を守ることで、接戦が予測される大統領選挙で勝利するための妥協です。

フラッキングは、岩盤に特殊な溶液を注入し、その水圧で化石燃料を取り出す技術で、今世紀になって本格的に導入されました。この技術の導入でアメリカはエネルギー資源の枯渇に悩まされることなく、産油国への外交的な影響力を発揮できるようになったのです。イスラエルのガザ侵攻に対して、産油国を気にすることなく軍事支援ができたのも、一部にはこうした背景があったからです。
実際、今ではアメリカ自身が世界有数の産油国です。そして、それに関連した就労人口が目立って増えてきたのがペンシルバニア州だったのです。
フラッキングは化学物質を地下に注入することから環境汚染のリスクが問題視されている技術です。また、強力な水圧で岩盤を粉砕することで、地震や地盤沈下などへの懸念も残る技術なのです。さらにハリス氏の方針転換がもし本格的な政策転換となったなら、化石燃料を削減して2035年までに内燃機関による自家用車を大幅に規制しようというアメリカの方針も大きく後退するかもしれません。これが最近テスラなどの株価が低迷している遠因の一つなのです。

ある意味で21世紀は人類史上最も深刻な選択を迫られる世紀だといえます。
それは、このまま人類がものを燃やすことで築き上げた文明を享受し続ければ、今世紀末までに地球の平均気温が2度から4度高くなるのではと多くの科学者が指摘しているからです。この予測を真剣に捉えて対策を講じられるかどうかは、人類が即刻決断をしなければならない大問題です。当然のことながら万が一4度気温が上昇すれば、人類が生存できる地域が大幅に縮小され、食料危機のみならず異常気象による激甚災害も現在とは比較にならないほど増えてしまいます。もちろん、この指摘は極端すぎるという反論もあり、実は地球は寒冷化に向かっているところを、温暖化によってバランスをとっているのだと主張する専門家がいることも事実です。
しかし、一つだけ言えることは、人間は自らの身辺に危機が迫らない限り、常に地球規模の課題については他人事として、目先の利益の享受に夢中になりがちだという事実です。そんな人々の支持がなければ選挙で勝利することも困難になるわけです。
実際、ハリス氏が大統領候補となった直後に、彼女の関係者が即座にハリス氏が大統領になった場合でも、すぐにフラッキング産業の規制に乗り出すことはないとコメントしました。すると、それは選挙に勝つための口実に過ぎないとトランプ陣営が反論する一幕もあったのです。
もし目の前に大きな利益をつきつけられたとき、その誘惑に勝てるかどうかといえば、誰でも自信がなくなります。また、我々は仮に直接地球の汚染に関与しないにしても、株などへの投資を通して、そうした行為に間接的に加担しています。そもそも文明を享受することを拒絶する人は少ないはずです。人権が全く保障されていない中世や近世に戻ることを肯定することはできないからです。

さらに、科学が殺戮に利用されてきた事実も忘れてはなりません。
ガザやウクライナでの戦争を、未来の軍事産業のあり方を考えるモデルとして観察し、算盤を弾いている人も少なくはありません。しかも、そうした利益を追求する行為が人類の発展の原動力だと多くの人は思っています。実際、この発想の原点は、アメリカ合衆国の建国の理念である独立宣言の中に、人間には「幸福を追求する権利」があると明記されていることに遡れるのです。
この価値観を共有する国家として、イスラエルがアメリカの同盟国となっていることが、ガザの問題をよりもつれさせています。
先週、パレスチナ難民が居住するヨルダン川西岸地区でユダヤ系入植者による大規模な暴力行為があり、世界中から非難の声があがりました。こうした行為に対して、イスラエルがそれを犯罪として調査することは稀で、逆にパレスチナ難民のイスラエルへの抗議活動は常に警察からの抑圧の対象となっている不平等を、多くのメディアが指摘していました。
こうした世論の変化にさらされるなかで、さすがのバイデン政権も出口の見えないガザ問題には苛立ちを隠せず、ときには頑なな対応を続けるイスラエルへの非難も口にするようになりました。しかし、イスラエルを支援する方がパレスチナを支援するよりも遥かに経済的恩恵にあずかれると思っている有権者が多いためか、アメリカがきっぱりとイスラエルの暴力行為に異議を唱えることは今のところありません。それが、例えば長崎の原爆記念日にイスラエル大使を招待しなかったことで、西側主要国の外交官が参列を見送った大きな原因でした。

人々が地球のあちこちで起きていることを他人事として傍観し、自らの利益の享受を地球や人類の課題と切り離して考えている以上、環境問題にも世界各地でおきている紛争や戦争にも有効な解決手段がなくなることを我々は知っておかなければなりません。よく選挙のときに一人一人が投票することが大切だといわれますが、これと同じように大切なことが、一人一人が地球の問題に目を向けることなのです。
ヒトの種としての寿命を考えるとき、当然それは他人ごとではないはずだと自覚することを求められているのが、21世紀を生きる我々のおかれている現実なのです。

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