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『こんなの見たことない! 海のエイリアン図鑑』制作の裏側をご紹介!

6月18日に発売された『こんなの見たことない! 海のエイリアン図鑑』の魅力を紹介する記事の後編です!

不思議な生き物いっぱいの『海のエイリアン図鑑』


この本は、水中カメラマン・堀口和重さんが海に潜って撮影したエイリアンのような生き物たちを紹介していく本です。
文章は、ダイビングメディアで活動してきたライターの山崎陽子さんと私、山本晴美で担当しました。

『こんなの見たことない! 海のエイリアン図鑑』は、小学生から楽しんでいただけるように、工夫しながら作った一冊です。

★前編はこちら

エイリアン感をもっと!

この本は、堀口さんに出会った時の様子や生き物のおもしろいところを取材し、ライターの山崎さんと私で書くという方法で制作しました。

企画や構成を練り、取材を済ませ、いよいよ原稿提出。山と溪谷社の担当編集者であるヤマノさん原稿を送りました。
すると、「エイリアン感が足りません!」という修正指示が入ったのです。

ライターをやっていると「もっと細かく」「情報をなるべく入れ込んで」といった修正指示を受けることが多いものですが、この修正指示は真逆……!
情報を入れ込むよりも、おもしろさを優先して良いという判断がとても新鮮で、胸がワクワクしたのを覚えています。

制作にかなり苦労したリュウグウノツカイのページ。ここでテイストを掴んでからはスムーズに!

堀口さんの出会いの感動がのせられるように。
その生き物の生態が伝わるように。

そして、未知の生物の不思議さ、つまり「エイリアン感」が醸せるよう、文章は工夫しました。みなさんに、「何この生物!?」という驚きが伝わったらうれしいです。

メガロパの乱

「Part6 メガロパ幼生」にて、「コシオリエビの仲間の変身」としてゾエア幼生、メガロパ幼生、成体の写真を掲載しています(103ページ)。

【Before】制作途中の同ページ
左ページに今と大きく違う部分がありますが、わかりますか…?

当初、このページは「コシオリエビの仲間の変身」ではなく、「カニダマシの仲間の変身」として紹介していました。
海の中で撮影した写真のみで成長段階を紹介していくのはとても大変なことなのですが、「カニダマシの仲間」の写真が揃ったぞ〜〜!とワクワクしながら進めていたのです。

そして、甲殻類の監修をお願いした広島大学大学院統合生命科学研究科の准教授・若林先生に写真を送ったところ、「このメガロパはコシオリエビ科の一種です」というご指摘をいただきました。

ひゃーーーーーーー!!
小さな浮遊生物たちと言えば、ほんの些細な違いが見分けるポイントになるんです。
いやほんと、これを見分け、即答できる若林先生ってスゴイ……!
そんな尊敬を新たにしながら、すぐに堀口さんに伝えました。

詳しくは割愛しますが、「逆に、コシオリエビの成体の写真はありますが、ゾエア幼生の写真はもっていません。実は今、青海島にいるのですが、ちょうどコシオリエビのシーズンなのです。明後日撮影に行くので、撮影してきます」というメッセージが。

え。
あれ?
撮影してくるって言ってるーーー!!!!!!

皆さん、ご存知でしょうか。
このゾエア幼生って、数mmの大きさなんです。

広大な海の中で、米粒より小さな個体を見つけるなんて不可能だと思うじゃないですか。しかし、青海島には小さな生物を見つけるのが得意な凄腕ダイビングガイドがいらっしゃるんです。
とはいえ、チャンスは一日。堀口さん、正気か?(おっと、心の声が。笑)

実はこの時、デザインはほとんど決まっていて、印刷所にお願いする直前のタイミングでした。
「今から……?間に合わなかったらどうする!?」という動揺を押し殺しながら、「分かりました。撮影できること願っています」と返信。

1枚の写真を求める気合いを肌で感じると共に、今、この時にコシオリエビが狙える青海島にいるというヒキの強さ、そして、締め切りギリギリという現実に、色々な意味で鳥肌が立ちました。(笑)

後日、宣言通り、コシオリエビの写真を撮影してきた堀口さん。
若林先生に見ていただいたところ、「コシオリエビの仲間ですね」というお言葉をいただき、無事掲載に至りました。
その後、速攻でデザインを仕上げていただいたのも、今は良き思い出です。

【Afore】実際に掲載されたページ
若林先生のご指摘に合わせて、ゾエア幼生と成体の写真が「コシオリエビの仲間」のものに!

おわりに

ここに書かせていただいたのは、ほんの一部です。
今、どのページをめくっても、それぞれに制作時の興奮を思い出します。

デザイナーの若井さんからこのレイアウトを受け取った時はしびれた……!

堀口さんが18年に渡って撮影してきた水中写真を出し惜しみすることなく使わせていただき、各分野のプロフェッショナルと「子どもに分かりやすいように」「楽しく読めるように」と頭をひねった制作期間でした。
ご協力いただいた皆さま、本当にありがとうございました。

そして、この『こんなの見たことない! 海のエイリアン図鑑』を手に取った皆さんが、いつか本物のエイリアンに会いに海へ潜ってみてくれたら幸せです。

【著者プロフィール】
■写真/堀口和重(ほりぐちかずしげ)

水中カメラマン
1986年 5月 22日東京都中央区日本橋生まれ 。 日本の海や生き物の素晴らしさを伝えるため活動中。カメラマンになる以前はダイビングガイドをしながら数々のフォトコンテストで⼊賞。現在はダイビング・アウトドア・アクアリスト関連の雑誌やウェブサイト、新聞などに記事や写真を掲載し、水中生物の図鑑や教書にも写真を提供している。 2022年には Nature Photographer Of The Year 2022(オランダ)で日本人初の水中部門グランプリを受賞。

■文/山崎陽子(やまざきようこ)
編集者・ライター。大学卒業後、ダイビング専門誌出版社へ入社。月刊『マリンダイビング』等の編集部勤務を経て、フリーランスに。書籍の企画・編集のほか、スクーバダイビング専門メディア「オーシャナ」で記事を執筆中。

■文/山本晴美(やまもとはるみ)
本とWEBの編集者。 月刊誌やムックの編集を経て、 WEB編集へ。スクーバダイビング専門メディア「オーシャナ」「スクーバモンスターズ」元編集長。現在は、児童書、写真集、 WEB記事の編集・執筆など、幅広く活動中。