子どもの防げる事故がなくなってほしい——なぜ『子ども版 これで死ぬ』が作られたのか
「子ども」「死」など、不穏なタイトルですみません。
この本では、実際にタイトル通り、本当にあった子どもの事故を紹介しています。
ランドセルが遊具に引っかかって亡くなってしまったり、川でお菓子を拾おうとして溺れてしまったり、家族と山に行って先行した子どもが転落して亡くなってしまったりなど……痛ましい事故ばかりです。
でも、どうしたらこういった事故を避けられるのだろう? なくせるのだろう?と考えたとき、やっぱりまずは「知る」ということが一つの答えになるのではないでしょうか……と私は思います。
この本は知って事故を防ぐことをコンセプトに、「絶対に避けたい!」という事例をピックアップし、子どもの事故防止のために活躍されているプロの方に「どうやったらこの事故、避けられるでしょうか……?」と聞きに行ったものをまとめたものになります。
すでに起こってしまった事故から、どうしたらそういった事故を起こさないようにできるか——本書の文章を担当されたライターの大武さん、そして4人の監修者全員が「子どもたちが安全に外で楽しく遊べるように」「防げる子どもの事故がなくなるように」という一心で制作しました。
今回は、制作秘話……というところまではいかないと思うのですが、なんでこの本ができたのか? どうやって作っていったのか?というところを、本の紹介とともにできればと思います。
きっかけは「これで死ぬ」の子ども版が欲しいというコメント
実は「これで死ぬ」はシリーズになっていて、1作目である『これで死ぬ アウトドアに行く前に知っておきたい危険の事例集』は去年、2023年に発売されました。
著者の羽根田治さんが『これで死ぬ』の告知をX(旧Twitter
)にて行ったところ、ありがたいことに多くの方に拡散していただいたのですが、その中で「これの子ども版が欲しい」というコメントをいくつかいただいたのです。
ちょうどその頃が、梅雨が明けて夏休みに入ったタイミングだったのですが、子どもの水難事故が毎日のように報道されていて、確かに「これで死ぬ」の子どもバージョンをつくることで、何か事故防止につながらないだろうか……?と考えました。
早速、フリーライター・編集者で、育児や児童書の編集のほか、親子ハイクの本なども執筆されている大武さんに本書の執筆のご相談をし、『子ども版 これで死ぬ』の制作がスタートしました。
タコのナビゲーター
しかし、いかにコンセプトが「事故防止」としても、子どもの事故を読むのは、つらく悲しい……。担当編集の自分であっても、子どもの事故の資料を読んでいたりすると、沈んだ気持ちになりました。
でも悲しいからこそ、二度と起こしてはいけない事故なのだ……しかし、悲しいだけではなく、なにか学びとして面白く読める作りにはならないだろうか?
本書の想定していた読者は、子どもに関わる大人以外だったのですが、子どもにも読んでもらえたらなとイメージしていたこともあって、子どもでも楽しく読めるような学び漫画を入れることになりました。
今回、本書のイラストは素晴らしいイラスト・漫画をたくさん描かれているイラストレーターのコルシカさんに依頼。
打ち合わせで「本書は安全を学べるような何かしらの漫画を入れたいのですが……」とコルシカさんに相談したところ、「親子が山や川に遊びに行くときに、ナビゲーターがバッと出てきて色々教えてくれる漫画はどうだろうか」と提案をいただきました。すごく面白そう!
ナビゲーターは「物知りなおじいさん」「博士のカッパ」など色々なキャラクター案をコルシカさんにいただいたのですが、最終的に「アウトドアの格好をしたタコ」のナビゲーターに決定。
コルシカさんの素敵な漫画によって、楽しく学ぶこともできる本になりました。
「怖いから行かない」より、「危険を知って楽しむ」に
本書は「川の危険」「海の危険」「山の危険」「身近な外の危険」で構成されています。
それぞれの場所で起きた事故事例を紹介して、その後に「死なないためには」(どうしたらその事故を避けられるか)を紹介しました。
川の章はインストラクターとして活躍されている藤原さん、海の章はライフセービング協会の松本さん、山の章はライターで『これで死ぬ』の著者である羽根田さん、身近な外の章は小児科医の山中さんに監修を依頼しました。
どの方も、安全啓発をさまざまな方法で発信されているプロフェッショナルです。
制作の中では、「防げる事故を防ぎたい」「事故予防につながってほしい」という意見が出た一方、「ポジティブに外遊びを楽しんでほしい」という意見も出ました。ここはまさに、本書の最終目的だ……と思い、「はじめに」にも書いているところです。
子どもと一緒に山や川、海に行く機会がある人はぜひ、手に取っていただけたら幸いです。そしてこの本をきっかけに(この本がきっかけでなくとも……)防げる子どもの事故がなくなりますように。
●本の紹介
●監修者・著者の紹介
監修・羽根田 治(はねだ・おさむ)
フリーライター、長野県山岳遭難防止アドバイザー、日本山岳会会員。山岳遭難や登山技術の記事を、山岳雑誌や書籍で発表する一方、沖縄、自然、人物などをテーマに執筆活動を続けている。近著に『ドキュメント生還2 長期遭難からの脱出』『これで死ぬ』(山と溪谷社)、『山はおそろしい 必ず生きて帰る! 事故から学ぶ山岳遭難』(幻冬舎新書)など。
監修・藤原 尚雄(ふじわら・ひさお)
1958年大阪府出身。大雪山系の麓で、大自然に囲まれた生活を謳歌している。雑誌『Outdoor』(山と溪谷社)の編集、専門誌『カヌーライフ』の創刊編集長を務めたのち、フリーランスとしてアウトドア関連および防災関連の雑誌、書籍のライターとして活動する傍ら、消防士、海上保安官、警察機動隊員などに急流救助やロープレスキュー技術を教授するインストラクターとしても活躍中。
監修・松本 貴行(まつもと・たかゆき)
横浜国立大学大学院教育学研究科修了。成城学園中学校高等学校保健体育科専任教諭。公益財団法人日本ライフセービング協会副理事長、教育本部長。溺水事故はレスキューよりも、いかに事故を未然に防ぐか?が最重要であると、日本で初めて水辺の安全を誰もが学べるICT教材「e-Lifesaving」を開発。内閣府消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。
監修・山中 龍宏(やまなか・たつひろ)
1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長。
文・大武 美緒子(おおたけ・みおこ)
フリーライター・編集者。山と溪谷社で登山専門誌、ガイドブック編集に携わったのちフリーに。二児の子育て中、親子でアウトドアを楽しむ。著書に『不思議な山名 個性の山名 山の名前っておもしろい!』(実業之日本社)、編集・執筆を手がけた本に『はじめての親子ハイク 関東周辺 自然と遊ぶ22コース』(JTBパブリッシング)などがある。
●e-Lifesaving
本書の「海の危険」の章を監修担当の松本さんが開発された教材サイト。動画やクイズなどを通して、水辺で命を守るための方法を学ぶことができます。
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一作目『これで死ぬ』の著者、羽根田治さんのインタビューです。