Instagramで人気の「自然ガイドのネタ帳」。実際にネタ帳はあるの?
体験からこそ学ぶことができる
——「環境教育」とは、どんなものなのでしょう?
くますけ 「環境教育」と聞くと、理屈を机に向かって学んでいくイメージがあるかもしれませんが、「ホールアース自然学校」のやり方はまったく違っていました。
ホールアースが重視していたのは、体験すること。プログラムを通じて、自然がいかに雄大で人間の手に負えないものなのかを、五感を使って感じ、その体験をそれぞれの学びへと変えていく。自ら経験したことこそが真の学びになる、という考え方なのです。
それまで環境問題など意識していなかった僕が、カナダで雪が降らない冬を体験したことで、行動がガラッと変わっていったように、やはり人間は自ら経験しなければ変わらないものです。ホールアースは、それをプログラムとして提供している。大きな意義を感じましたし、自然さえあればどこでも仕事ができる点にも惹かれました。
——自然学校に学びに来るのは、やっぱりナチュラリストの人が多いのですか?
くますけ 大きく2種類いるのですが、中心となるのは、学校の修学旅行生たちです。とくに関西から関東への修学旅行の場合、中間地点に当たる静岡で、休憩するケースが多い。休憩がてら、富士山麓に広がる樹海での洞窟探検プログラムに修学旅行生が参加する、というのが多かったですね。
社会人向けとしては、主に都心からくる人たちに向けたキャンプ企画やエコツアー、自然とともにある暮らしについて学ぶ年間講座などを開催していました。
——都会のコンサルティング会社から郊外の自然学校に転職されて、実際どうでしたか?
くますけ めちゃくちゃ面白かったです!
オフィスビルの中で1日中パソコンに向かって、温室効果ガスの排出量を計算する日々から、いきなりロバや羊の糞の掃除や、焚き火をする日常になったのですから。世の中にはこんな仕事があるのか、これで給料をもらえるんだ! と衝撃を受けましたね。
とはいえ、東京時代もフルマラソンを走ったり、スノーボードをしたりと、身体を動かすことは好きだったし、慣れていたので、そんな変化にも意外とすんなり溶け込めました。そりゃそうか、もともと田舎者だしね。こっちのほうが合っているわ、と(笑)。じつは東京のほうが合っていなかったのではないかと思うほど、スムーズでした。
——勤務地はずっと静岡だったんですか?
くますけ 「ホールアース自然学校」は、各地に分校があって、僕が静岡にいたのは最初の1年です。その後、新潟県柏崎市の自然公園「柏崎・夢の森公園」に派遣され、自然公園の職員として勤務することになりました。
待望の雪国! なのにスノボをやめた?
——新潟といえば、雪が豊富です。スノーボード好きのくますけさんにとってはよかったのでしょうか?
くますけ そうなんです。本校のある静岡県富士宮市周辺にはスキー場がほとんどなくて、唯一あるところも遠かった。仕事は楽しい反面、その点は残念に思っていました。
だから上司から「新潟に行ってくれないか」としんみり打診されたとき、僕としては願ったり叶ったり。「やったー! 行く行く!」と、喜んで荷物をまとめましたね。
誤算だったのは、雪国では大量の雪が日常だったことです。
新潟に越したらスノーボード三昧になると期待していたのですが、雪が身近になりすぎて、休みの日まで雪のあるところに行きたいとは思わなくなってしまったんです。今はもうスノボはやっていませんし、新潟時代も年に1度行くか行かないかという感じでした。
——えっ! スノボやりたさにカナダまで行った方が……?(笑)
くますけ だって、本当に雪だらけなんですよ! 一晩で数十センチも積もるので、毎朝それをどかして車を動かし、職場に着いたら、また車を停めるために除雪をする。もう見たくない、懲り懲り、となる僕のような人は多いと思います。
10足の草鞋時代に培ったもの
——くますけさんは一時期、いくつものお仕事を掛け持ちしていて、10足の草鞋状態だったとのことですが。
くますけ 新潟で7年勤務した後、故郷・結城市に戻ることになりました。でもここは関東平野のど真ん中、山も川もないし、自然といえば田んぼと畑くらい。自然ガイドの仕事はできません。
そこで就いたのが、車で1時間ほどのところにある観光協会の仕事です。観光関係なら自然ガイドとも近いですから。副業として自然にかかわる仕事ができないかと、自分にできそうで仕事になりそうなことを手当たり次第試す時期が2、3年続きました。二足の草鞋ならぬ10足の草鞋状態だったのは、この時期ですね。
今はだいぶ絞れてきて、茨城県の移住・定住に関する委託業務と、SNSの運用管理や取材発信、撮影・編集・配信等の映像制作の3つを行っています。僕自身が故郷を一度出てから戻ってきたUターン組なので、コロナ後に増えた移住関係の仕事は実感をもって取り組めています。
かつては自主事業として自然体験教室や手作りハンモック教室なども主宰していましたが、コロナ・パンデミックですべてが頓挫。そこで、対面以外でできる仕事を探していった結果、現在のような仕事をいただけるようになって、徐々に増えていった感じです。
あの10足の草鞋時期に、手当たり次第自分にできることをやっていくという働き方をしていたからこそ、今生き残れているのだと感じます。
SNS「くますけ」は、自分のためのネタ帳?
——ご自身のSNSはいつ頃始められたのでしょう?
くますけ InstagramやTwitter(現・X)を始めたのも、コロナがきっかけです。アカウント自体は以前から持っていたのですが、さほど真面目に更新してはいませんでした。
それがコロナの感染拡大で家から出てはいけない、となってすることがなくなったことで、真剣に取り組み始めた感じです。
最初は「自然遊びが幼児に与える影響とは」といった、硬めの内容を書いていたんです。でも、どうもウケないんですよ。「メジロは、こんな鳥」というホワッとふわふわした可愛らしいイラストと豆知識を載せたときのほうが、ずっとウケがいい。「いいね」がたくさんもらえるのはうれしいので、どんな投稿に「いいね」が多くつくのかを追求していったら、やっぱりみんな自然の豆知識を知りたいんだな、とわかってきた。
そこで思い出したのが、柏崎・夢の森公園勤務時代に利用者に配布していたフィールドガイドシートです。当時も「今日の公園で見られる動植物」を写真と文字で解説するプリントを作っていた。あの延長線上だと考えれば、自分のスキルが活かせるのではないか、と前向きになり、徐々に今のような豆知識系の発信へと移行していきました。
——Instagramのアカウント名には「自然ガイドのネタ帳」とつけられていますね。実際にネタ帳をお持ちなのですか?
くますけ 読んだ本の面白かった箇所に付箋を貼っていたり、走り書きしたメモがあちこちにあるのは確かです。ただ、全然整理はされていなくて。Instagramは、表向き「僕のネタ帳を公開するので、みなさん見てくださいね」と謳っていますが、実はあれは自分が自然ガイドをする際のネタ帳を作るつもりで投稿しているんです。
それまで付箋などで適当に管理していたけど、この機会にちゃんと整理すれば、コロナが明けたとき、このネタ帳をもとに自然ガイドの仕事ができる。今はまとめる時期だ、と。そういう意味での「自然ガイドのネタ帳」なのです。
1日1種類ずつまとめていけば、1年で365ネタができる! との意気込みで、当時は毎日、土日も休まず投稿していました。それぐらい暇だったんですよね(笑)。現在は土日祝日と夏休みと冬休み以外は、毎日アップしています。
(第3回は2/5公開予定です)
(構成:高松夕佳)
第1回はこちら
くますけさん、初の著書!
⾝近な⿃の意外な姿や生態にまつわるトピックが満載です!
絵・文 くますけ
監修 上田恵介
定価 1650円(本体1500円+税10%)
四六版 本文192ページ
内容紹介
「さえずりが止まらない 毎日2000回」 ウグイス
「にじみ出るジャイアンらしさ」 シメ
「国立競技場でも席が足らない」 アトリ
「翼を広げたら改札2つ分が通れない」 アオサギ
思わず「へぇ!」と唸らされ、人に話したくなるような身近な鳥の知られざる姿や魅力を、ユーモラスなイラストと解説でたのしく紹介。
ふだんの散歩やバードウォッチングが、いっそう楽しくなること間違いなし! 日頃から鳥を見ている人にも、鳥のことは詳しくないけど興味があるという方にもオススメの1冊です。
「街の鳥」「公園・緑地の鳥」「野山の鳥」「水辺の鳥」と見かけやすい環境ごとに、80種類ほどの鳥を紹介しています。
著者紹介
絵・文 くますけ
子どもたちに、自然の楽しさを、やわらかく伝える専門家。自然ガイ
ド歴15年。関東平野の真ん中で筑波山を眺めながら、すくすくと育つ。
20代最後の挑戦で、体験型環境教育を実践するホールアース自然学
校へ転職。柏崎・夢の森公園での勤務を経て独立。ふざけすぎない、
くだけ方で、行政・企業・先生のウケがいい。おうち時間が増えたの
をきっかけにイラストを描き始め、公園や庭で見られる自然の「へぇ!」
という発見や「そうそう!」と言いたくなるネタをSNSで発信している。
影響を受けた本は『自然語で話そう』(広瀬敏通著)と『足もとの自
然から始めよう』(デイヴィド・ソベル著)。 一番好きな鳥はヒヨドリ。
インスタグラム https://www.instagram.com/kumasuke902/
X(Twitter) https://twitter.com/kumasuke902
Note https://note.com/kumasuke902
監修 上田恵介
鳥類学者。日本野鳥の会会長、立教大学名誉教授、山階鳥類研究
所特任研究員。生態学者として著書多数。日本動物行動学会会長、
日本鳥学会会長なども歴任。2016年第19回山階芳麿賞、2020年日
本動物行動学会日高賞を受賞。