僕とヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
最近、夢をよく見る。昨日の夢には吉田鋼太郎にそっくりのおじさんが出てきた。夢の中で僕は答えた。
「あなたは誰ですか?」
見知らぬおじさんは、眉間に皺を深く寄せ自信たっぷりに答えた。
「私はヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテだ」
イカれてる親父だ。変な夢。夢なんだから、からかってやろう。どうせ覚める。
「ゲーテってあのゲーテですか?本当ですか?証拠を見せてください」
ゲーテと名乗った男はポケットからタバコを一本取り出した。
「時よ止まれ、おまえは美しい」
「は?」
「きみは私の作品のファウストを読んでないのかね?あの森鴎外も翻訳したベストセラーだぞ。作者自らの言葉による渾身の名セリフを聞けるなんて、こんな機会めったにないんだから…ああ教養のないやつに聞かせて損したわ。信じられない。まじ帰りたい。帰っていい?」
機嫌の悪くなったゲーテは、僕に背中をプイとむけた。
気難しい。
「無知ですみませんでした…質問とかでもいいですか?」
「よかろう」
僕はすこし考えてこう答えた。
「あなたにとっての夢とはなんですか?」
ゲーテはタバコに火をつけた。
「その夢を失くして、生きてゆけるかどうかで考えなさい」
「すごい!もっと色々教えてください」
「いいよ。だだしこれより先は課金してな」
夢にしてはガメつい。いいさ、どうせ夢なんだからと僕はポケットにあったありったけの100円玉をゲーテに渡した。するとゲーテは、100円玉を数え深々と丁寧なお辞儀をした。
「まいど」
僕とゲーテ。二人だけの授業がはじまった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?