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SF笑説「がんばれ!半田くん」 ⑫ 月とスッポン

  カルシウムくんは、突然恐ろしいことを言った。これまでも十分に恐ろしかったけど、それ以上の恐怖を与えてくれた。

「半田くんたち、今まで熱い地球にじっと耐えてきたけど、もうすぐもっと大変なことが起こるよ。このマグマオーシャンにいる一部のものたちは、地球に居られなくなるんだ。半田くんたちは、大丈夫かな?できるだけぼくたち守護球体の近くにいて、じっとしているんだよ。運が良ければ、地球に残れるから。」

  えっ?何が起こるんだろう?この灼熱地獄より、もっと大変なこと?運が悪いと地球に残れない?それってどうして?残れなかったら、どこに行っちゃうの?天国?地獄?ゲームセンター?僕の頭の中には次々と疑問が浮かび、不安が不安を呼んで、僕は叫んだ。

「一体何が起こるんだい?カルシウムくん。」

「その答えはあの星さ。」

カルシウムくんは、そう言いながら、球体から伸びた手を真上に上げた。

「あっ、あれは何?あの真っ赤な火の玉は?」

  僕は、頭上に広がる光景に圧倒され、言葉を失った。カルシウムくんが上げた手の指先には、大きな天体が見えている。しかも、どんどん大きくなってくるではないか。つまり、どんどん近づいてきているんだ。どうやらそれは、地球よりやや小さいが十分に大きい星だった。そして、その星は今まさに、僕たちのところに迫っている。このままでは、僕たちのいる地球、いや僕たちにぶつかってしまう。

「あれは、流れ星?地球にぶつかるの?流れ星だから、流れている間にお願いすると、きっとぶつからないで済むよね?」そう思った僕は、必死にお願いした。

「助けてください。なんでもします。これからは妹のおやつをこっそり食べたりしません。お父さんとお母さんの言うことはなんでも聞いて、家のお手伝いもきちんとします。お願いですから、地球にぶつからないでください。」

「半田くん、あの星”テイア”は、必ず地球にぶつかる運命なんだ。しかも、大きい。直径が地球の半分くらいあるんだよ。だから、あれが衝突すると大変な衝撃があるはずだよ。覚悟しておきなさい。」

マグネシウム王子は、そう言ったが、どのように覚悟すれば良いのだろう?

   僕の覚悟が定まらないうちに、流れ星の親玉は、どんどん大きくなって、近づいてくる。神様、仏様に拝んでもだめなら、笠山つばきちゃんに頼もうかなと思っていた頃には、もう地球のすぐ近くまで来ていた。

ドシーン!

   いままで経験したことのないものすごい衝撃が、僕らを襲った。真っ赤に燃えた地球全体が激しく揺さぶられた。地震?そんなものじゃない。地球全体が揺さぶられ歪むほどの衝撃だった。僕らは、真っ赤に燃えたマグマオーシャンの中で、体全体を激しく揺さぶられた。この激しい揺れがどのくらい続いたかはわからないが、今度は別の衝撃に襲われた。今度は何が起こったのだろう?そう思って、衝撃の起こった方角を見てみると、さっき衝突してきた星とは別の小さめの火の塊が、地球から飛び出して行くのが見えた。

「マグネシウム王子、あれは何?」つばきちゃんは、冷静に聞いた。

「つばきちゃん、あれは、月の赤ちゃんだよ。さっきの星が衝突した衝撃で、地球の一部がスッポーンと吹き飛ばされたのさ。21世紀でも”月とスッポーン”と言うだろ?」

それを言うなら、「月とすっぽん」だ。マグネシウム王子は、つまらないダジャレとともに、月の誕生を説明した。

  たしかに、先程地球にぶつかった天体の破片と地球から削り取られた真っ赤な固まりは、粉々になりながら、地球の外側で止まった。そして、ゆっくりと地球を回り始めたようだった。地球の周りを回っているこの破片たちは、地球が最初に出来たときに僕たちが経験したように、ぶつかり合って融合し、だんだん大きな固まりになっていった。しばらくすると、地球の4分の1くらいの大きさの球体つまり星になっていった。そうだ、あれはお月さまだ。僕たちは、月ができる瞬間に立ち会ったことになる。それは、すごいことだけど、十分に怖かった。まだ身体が震えている。といっても、寒くて震えているわけじゃない。だって、僕らはまだマグマオーシャンの中にいるんだから。

「地球に兄弟が出来たね。地球の一部が削り取られたけど、半田くん、つばきちゃん、山美、三人ともまだ地球に残っているよね。」

「うん。」「はい。」「ほい。」

マグネシウム王子の問いに、僕たちは無事であることを確認しあった。

「いやぁ、みんな無事でよかった。かぐや姫とうさぎは、さっきの星の塊に連れて行かれたって、もっぱらのうわさだよ。3人は無事でよかったねぇ。」

「シリコンさん、軽率にそんなデタラメ言っちゃだめでしょう。事実とおとぎ話を一緒にしちゃだめだよ。」

シリコンさんは、マグネシウム王子にそう言われて、頭をかいた。

   月ができるほどの巨大な星の衝突はこれでおしまいだったけど、小惑星や隕石などはその後も地球にたくさん降り注いできた。それらは、マグマオーシャンにどんどん取り込まれて、地球の一部となっていった。

昔巨大隕石が地球にぶつかり、地球の一部が飛び出して、月になったと言われている