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SF笑説「がんばれ!半田くん」       ⑪ アッチッチ アッチチ 燃えてるんだろうか?

  僕たちの新しい冒険は、これまでとは違った形で始まった。これまで僕たちは、チリとチリ、隕石と隕石、小学生と小学生じゃなかった、小惑星と小惑星の衝突を経験してきて、いつもぶつかってばかり。生傷は絶えないし、衝撃でグラグラ揺れてばかりいた。こんな体を張った衝突の連続に耐えた僕たちなのに、運命は容赦なく新たな試練を用意していた。

  それは、熱だ。小惑星と小惑星がぶつかると、ぶつかった衝撃で熱が発生する。さらに、隕石や小惑星に含まれているウランなどの放射性物質が壊れることでも、熱が発生する。僕ら人間は病気になると37度から38度の熱を出すことがあるが、そんなものじゃない。衝突を繰り返す地球はどんどん熱くなって、地球の表面は摂氏1100度(1400K)を越す灼熱地獄になってくる。

「アッチチ アッチチ 燃えてるんだろうか?」と僕が聞くと

「ああ、燃えているね。地球が。」とカルシウムくんはこともなげに答えた。

「だんだん熱くなってきたけど、僕ら焼け死んだりしない?大丈夫?」

心配になってきた僕は、カルシウムくんに聞いた。

「大丈夫だよ。僕らは、特別の耐熱コーティングをしているから、平気さ。」

「でも、ぼくたちが生きていた21世紀には、そんな技術はなかったよ。」

僕はさらに心配になってきた。

「あっ、そうか!君たちは21世紀の生き物だったね。そりゃあ、だめかもしれないね。」

カルシウムくんは、怖いことを平気な顔をして言ってくれた。

「おい、カルシウムくん。そんなに脅かすなよ。大丈夫、つばきちゃん、君は僕が耐熱コーティングしておいたから、平気だよ。シリコンは軽率(ケイ素2)だから、山美ちゃんは大丈夫かな?」

「こらぁ、シリコン!ちゃんと耐熱コーティングしろよ。私のの大事な体が溶けたらどうするの?大切な納豆だって、炭になっちゃうのよ。そうなったら、透明球体も発酵させて食べちゃうからね。」山美は、かなり怒って、シリコンにどなった。

「コーティング材料足りるかな?山美は、表面積大きすぎだよ。」

シリコンさんは、ブツブツ言いながら、山美の体をコーティングしていった。

「カルシウムくん、僕にもちゃんと耐熱コーティングしてよ。お願いだから」

僕は、カルシウムくんに懇願した。

「分かったよ。じっとしてるんだよ。きちんとしないと、隙間ができて、そこから溶けちゃうからね。」

   僕は、言われた通りじっとしていた。脇の下や足の裏のコーティングでは思わず笑ってしまいそうになったけど、それでも我慢した。我慢が限界になって、もう笑っちゃう!と思ったとき、コーティングは終了した。

「よし、これで、みんな熱に強い体になったね。大きなひとかたまりになった地球はもうすぐ、マグマオーシャンと呼ばれる灼熱の海に囲まれるようになる。みんな、はぐれないように気をつけるんだよ。マグマオーシャンを一人で漂流するのは辛いよ。」

しっかり者のマグネシウム王子くんが、みんなに声をかけた。21世紀のしっかり者、笠山つばきちゃんには、しっかり者の守護球体がついているんだなあ。するってぇと、僕についてくれている守護球体のカルシウムくんは、大丈夫かなぁ?僕は、自分の性格を振り返って、とても心配になってきた。自分のことは自分が一番良く知っているからね。

 マグマオーシャンは、まさに火の海だった。テレビや新聞で、「そこらじゅうが火の海です」というニュースが流れるが、そこらじゅうと言っても、街の一部にすぎない。でも、マグマオーシャンに囲まれた地球は、そこらじゅうどころか地球全体が火の海になっているんだ。当然表面だけではなく、地球の内側も熱いので、地球は熱い熱い火の玉として、生まれたのだ。

 「半田くん、つばきちゃん、ついでに山美、みてごらん。地球はこうして熱い火の玉として生まれたんだよ。そして、これが次第に冷えていくことで、君たちが知っている美しい地球になっていくんだ。」

僕が頼りないと思っていたカルシウムくんは、意外にきちんと説明してくれた。ただ、ついでと言われた山美だけは、カルシウムくんの話を無視しているようだった。

 そのときだった、マグマの海の中から、突然新しい球体が現れた。

「おい、カルシウム、マグネシウム、それからケイソツくん。久しぶり。僕だよ。テッチャンだよ。おぼえてる?」

銀色に輝く球体は、自分のことをテッチャンと名乗った。

「おう、久しぶり。テッチャン、ほかの隕石にいたんだね。隕鉄って隕石だな。ありゃあ、鉄仲間だけ集まっているからな。それに乗って来たんだな。」

どうやら、このテッチャンは、鉄の球体のようだった。だからテッチャンなのか。僕たちはやっと納得した。

「みなさん、こんにちは、僕は鉄球体のテッチャンです。よろしくね。アルミニウム球体のアルミンは、カルシウムくんと一緒だと思ったけど、どうしてる?」

テッチャンは、カルシウムくんに、アルミニウムの消息を聞いた。

「ああ、僕は、石灰岩人間の半田くんを連れてくる任務で手一杯だったから、アルミニウムくんは、他のカルシウム球体と一緒に炭素質隕石に乗って、この地球にたどりついたはずだよ。」

カルシウムくんは、任務遂行の責任ある立場であることを強調して、胸を張って答えた。ただし、球体なので、どこが胸なのか、よく分からなかった。

「酸素くんや炭素くん、硫黄くんなども、このマグマオーシャンに到着しているはずだよ。またどこかで会えると思うけど、早く会いたいなぁ。」

そう話すマグネシウム王子の声を聞いて、僕はまだ見ぬ球体たちがどんな姿なのかを想像していた。しかし、そんな夢想をしている余裕は僕たちにはないようだった。僕たちの周囲を囲むマグマオーシャンは、どんどん熱くなってきた。

「カルシウムくん、この耐熱コーティングは本当に大丈夫?マグマオーシャンの熱に絶えられるの?」 僕は心配になって、カルシウムくんに聞いてみた。

「僕たちの時代の技術だから大丈夫だと思うけど、実際地球が出来たばかりの頃に来たのは、僕たちも初めてだから、分からないなぁ。。まあ半田くんが溶けても、僕らと同じカルシウムの元素に戻るだけだから、安心しなよ。」

  カルシウムくんにそう言われても、ちっとも安心できないし、球体の姿になって、元の世界に戻ったら、だれも僕のことを半田ライムだって分かってくれないよ。まだ玉手箱でおじいさんになる方がましな気がしてきた。

半田君が灼熱の地球に苦戦しながら、「火」と「ひぃ〜」と駄洒落してる。