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青森でワーケーション体験

トンネルを抜けて、窓から景色が観えて、扉が開くと体が感じる。

あ、違う土地に来た。

母の実家が福島なので、来慣れたはずの東北。

でも少し違うのは、空の色。
ややグレーがかった湿気を帯びた秋の色。
しんと落ち着いている、そんな空気感。

初めて、青森に来た。

友人からの誘いで、ワーケーション体験に参加する。

子ども2人連れて。

・・・働く気あるか?

一応PCは持ってきたので、やる気だけはあるつもり。

でも、友人から青森を提示された時、その引き寄せにも似たご縁を感じて鳥肌がたった。

とにかく、子どもたちがりんごが好きで、日本地図に書かれた青森県を指さしては、りんご食べに行こうね、と口酸っぱく言われていたのだ。

日本の中で息子が認識している都道府県は、
自分が住んでいる、東京。
私の実家がある、福岡。
主人の実家がある、鳥取。
弟が住んでいる、大阪。
恐竜が沢山いる、福井。
そして、
りんごがたくさん食べられる、青森。

本当にこれくらいなのだ。

まさか、こんなに早く青森に行くことになるなんて。

その提案は乗るべきだ、そう感じて2泊3日のワーケーション体験がスタートした。

このツアーの全体を仕切り、プラン立て、すべての対応をして下さったKさんがとても親切で優秀で、本当に有り難い存在だった。

そのおかげで、この3日間は多くの学びがあった。

その日々を書いて行こうと思う。

まず、初日のりんご狩りは、雨のため中止。
早くも息子に絶望が走る。
でも、相手は天気。
しょうがないんだよ、また来よう。

その後、ねぶた祭りの絵付け体験を行った。

細い竹で作られた骨組みに和紙を貼った、金魚の提灯の土台が用意されている。
それに本物のねぶたを作るのと同じやり方で絵付けをし、金魚を完成させるのだ。

大きさは、サッカーボールくらいだろうか。

この絵付けを教えて下さった絵師の先生は、全身を赤で統一した服装をしていて金魚を彷彿とさせるおじさま。
赤いベースボールキャップに達筆な刺繍で「風」の一文字が書かれていた。
それが何の帽子なのか非常に気になったが、聞けなかった。
でも、いくら赤の帽子だとしても、その文字が「A(ロサンゼルス・エンゼルス)」では何か違う。
文字の内容に意味が無くとも、日本語の漢字で書かれた文字であること、そこへの配慮がきっとあったのだろう。
ねぶたへの愛かどうかは分からないが、「先生」としてのおじさまの配慮に、私は勝手に胸を熱くした。

まずは、筆を使い、黒い墨で目・口・えらなどの、金魚の顔を描いていく。
書けたら乾かす。
その後、温めた液体状のロウを筆で取り、黒く描いた線の上をなぞり、うろこを書いていく。

このロウがとてもポイントで、書くときは透明に固まっていくロウが、提灯にとなって光に照らされるとそれはとても綺麗な光を放ち、くっきりとした線が出来たように見えるのだ。

ロウで絵を描くなんて初めてのこと。
どうやって用意したのかが気になった。

先生:これはね、とても太いろうそくを削って火で溶かすんですよ。

液体のロウを買うのではなく、削って溶かす。

なんて原始的なんだ。

先生:昔からずっと変わらずに、こうやってねぶたを作っているんですよ。

あぁ、確かにそうだ、これは変えてはいけない大事な文化なんだ。

私の作る金魚、息子が作る金魚、絶対に作り上げられない娘の金魚。

3匹の金魚を作る。

つまり、私がめちゃくちゃ頑張らなくてはならない。

幸い、こういった手作業は苦手ではない。
むしろ、大好物。

時に、家でお留守番している金魚のはなちゃんのことを思い浮かべ、主人が餌をあげてくれているか、気になった。

夢中になって約2時間。

息子や娘が楽しく書いて、塗った、自由な色で塗られた金魚。
それをドライヤーで乾かすと水気がなくなり、色がよりくっきり出て既に可愛いく綺麗だった。
和紙の醸し出す味わいなのだろう。

たぶん、生まれて初めて祭りというものに興味を持った。

博多では「博多どんたく」という祭りがあるが、近すぎるからか行きたいと思ったことはあまりなく、ちゃんと観たことも無いと思う。
どんたくは、男性が中心となって神輿を担ぎ走る祭りなのだが、きっと人間のパワーみたいなものをめちゃくちゃ感じられる祭りなのだと思う。
一瞬のとてつもないエネルギーが集結する感じ。

それに対して、ねぶたはまた違う魅力がある気がする。

アテンドして下さったKさん曰く、ねぶたは約8~9ヶ月ほどの月日をかけてやっと完成されるのだそう。
職人が下絵を描き、それを立体にしたらどうなるか、考え計算され、ベースを作る。
骨組みを作る。
和紙を貼る。
色を塗る。
それだけではない。
電灯を組み込む。
ねぶたを運ぶ土台を作る作業もいる。

それぞれに、それぞれの職人がいて、分業したりしながら長い時間をかけて作る。
まさに大作なのだ。

なので、費用もすごい。

金額を聞いた時は、想像を超えすぎていて声を出して驚いてしまった。

それだけの時間と人の手を尽くした青森の夏は、色んなものが一気に動く。

人が踊ったり歩くのではなく、人が作り上げたねぶたという名の”作品”が、道を練り歩き魅了する。

なんて芸術的なんだろう。

ねぶたの時期は宿が取れないそうだが、なんとかしていつか必ず観たい。
観る。

そう思って金魚を大事に袋に詰めた。

2日目は、八甲田山に行った。

青森は、都心から山・海へ行くのに全然時間がかからない。
かかっても車で25分くらいだろうか。
自然が豊かで驚いた。

ロープウェイに乗って山の上の方まで上がる。

下を見下ろすと、少し紅葉が始まっていて、山の高い位置に行けば行くほど紅葉が進んでいた。

今年は、寒さが一気にきたので、紅葉も徐々に徐々にではなく、一気に来たのだそう。だからなのか、観光客もどっと押し寄せていた。

頂上では気温が4℃くらいでなかなかの寒さ。
私たちは間違いなく軽装だったが、歩いたら体も暖まり丁度良かった。
ウォーキングコースを1時間ほど歩いて終了。

1500m無いくらいの山なので、キツくも無くとても丁度良い高さ。
岩でゴツゴツもしてもおらず、緑や紅葉が楽しめ素人でも歩きやすいコースだった。

夜は、宿舎に近い「かっぱの湯」という温泉に。

この温泉、水質がとても良くお肌がつるっつるっと滑った。

この温泉の効果だろう。

娘は肌は弱く毎日塗り薬をぬっているが、それいらずで過ごすことができた。

青森は温泉施設がとても充実していて、町中でもどこでも本当に色んな場所に温泉があった。

どこで自然遊びをしてもすぐに温泉に入れる。
これはなかなかない魅力だ。

最終日は、青森の海エリア「浅虫」に行く。

子ども2人がいるので、浅虫水族館という水族館へ。

この水族館、すごい。

入っていきなりとんでもなくどでかい亀3匹がお出迎えしてくれた。

水族館に入って、まず初めのファーストインプレッションって重要で、この水族館は「どでかい亀」ときた。

これは、絶対にすごいぞ。

期待を膨らませて歩き進めた。

水槽の中にいる魚の紹介の仕方が面白い。
まさかのまさか。
その魚がどのように調理され食べられるのかを、写真付きで紹介していた。
フライやどんぶりなどの写真に付けられ「こんな風に食べられるよ」というようなコメント。
すごい。
みたことない。
攻めている。
その魚の行く末が書かれたリアルさ。
でもそれは、いかに青森の生活の中で魚の存在が大きいかを象徴している。
これは、大事な食育なのだ。

オットセイの餌やりのショーを観たあと、イルカのショーも観た。

イルカのショーを観る場所は、外ではなく室内。

え、どういうこと?と恐る恐る足を踏み入れた。

水槽は見えない。

劇場にいるかのように、垂れ幕で隠されている。

そこには、幕が開くのを今か今かと待つ、多くの子ども達が既に座っていた。

この子ども達は地元の保育園?幼稚園?生で、先生達と一緒に団体で来ていた。

いよいよ幕が上がる。

その余興ともとれるようにリズミカルな音楽が鳴り、アニメーションが投影された。
可愛いイラストで描かれたイルカが踊り、音楽に合わせて手拍子をしていた。

そして、またも驚かされる。

手拍子のリズムが
♪パン パン パン パン
と一定なのだが、
何かのとあるタイミングで
♪パン パン パン パパパン
と、独特なリズムに変わる。

そのタイミングが一切掴めないが、ここにいる多くの団体の子どもたちはあっさりやりのける。

♪パン パン パン パパパン

そして、会場中がこの独特の手拍子で活気づく。

別にアナウンスもされていない、指導もされていないのに・・・!!

♪パン パン パン パパパン 
が出来ている。

青森っ子、何度このショーを観ているのだろうか。
恐るべしすぎる。

完全にアウェイな我ら東京人。

幕が開き、敢えて薄暗い中をスポットライトを浴びたイルカが飛び回る。

BGMは太鼓や笛の音で作られた和風の音楽で、非常に特徴的。

更に、イルカのバックに映し出された映像が「ねぶた」の映像ですごいムード。

なるほど、和風の演出はねぶたから来ているのか。

金魚の絵付けを教えてくれた先生の帽子に書かれた「風」を思い出させた。

イルカとボール遊びをしたり、鳴き声で曲を奏でたりと観どころ満載な中、ショーはクライマックスへ。

会場がより薄暗くなり、和風の音楽もテンポ良く盛り上がる。

すると、またも青森キッズたちが誰の指示も受けずに動く。

とあるタイミングでいきなり声を出したのだ。

”らっせいらー!らっせいらー!”

え、なぜ、タイミングが合うのか?
どの合図だ?
どこからだ?
”らっせいら”を言うのは。

この青森の祭り慣れした一体感。
すごい、すごいぞ。

絶対に他にない、唯一無二のイルカショーを楽しんだ。

水族館を出た後、Kさんに教えてもらったお寿司屋さん「あすか」に行った。

本当に、お寿司が、生魚が美味しかった。

Kさんが教えてくれるお店・スーパー・温泉は、間違いが無かった。

Kさんは都心部から青森に移住した方だが、本当にこの土地に馴染んだ地元民になっているようだった。
そこに行けと命じられた訳でも、何か行く必要があった訳でもなく、自分の意思で自由に生きる場所を選び変えたのだ。
勇気と度胸もあるのだろう。

「青森は新鮮な魚が安く買えるから、店に行かなくて良いんですよ。白飯さえ炊けば、あとは魚切って刺身で食べるで十分。魚卵も旨くて、すじこ・たらこも安く買えるから、それと飯で旨いです。」

あー、確かに。最高だ。

「山のものもすごく美味しいんですよね。○○って店のきのこ汁。あれは、絶品っすね。」

この方の話しの流れで聞いた”絶品っす”は、なんでこんなにも美味しそうに聞こえるのか。

「道路は雪かきすることを前提に作られているので、基本広い。だから、ペーパードライバーには優しいところですよ。」

確かに。

「僕もこっちにきてこういった仕事をして分かったんですけど、祭りは、観るだけではつまらないですね。参加してなんぼです。」

はい、きっと、間違いなく、間違いなくそうなのでしょう。

そんな楽しいバケーションの時間は、あっという間に過ぎて行ってしまった。

言った。
完全に認めた。

ワークは、ほぼ無かったことをここで懺悔する。

でも、子どもが小学生になった夏休み、絶対に良い。
それは間違いなく確信した。

宿泊兼仕事場となった「青森公立大学」の交流ホールは、本当に素晴らしかった。

部屋にはキッチンもあり、料理ができた。
家具家電も充実している。
部屋も何部屋かあり、子どもも大人も自分の時間を持てるようになっていた。

綺麗な緑で囲まれたこの敷地内で自由に子どもは遊び、それを眺めながら仕事をする。
都会には無い、涼しさや自然、子どもたちが思い切り遊べ、動画やテレビに頼らなくても良さそう。
自由に遊びなーと、言えば、大声を出して遊んでも誰も何も気にならない。
もしそれが出来たら、まさに最高。

そんな可能性を感じながら、お世話になった皆様にお礼を言い、新幹線で東京へ帰った。

東京に着く。
新幹線の窓越しに見える人の数、ビルの数、電灯の明かり。
都会に帰ってきたことがすぐに分かった。

早いスピードで通り過ぎる人に右往左往する。

数日しか青森にはいなかったのに、体はそちらに完全に馴染んでしまっていた。

リハビリをするかのように、我が子の手をギュッと握りしめ、人の迷惑にならぬよう気をつけながら歩いた。

少しずつ体を東京に馴染ませる。

良い意味で期待せず、調べず、前準備もほどほどに行ったからか、そこで偶然出会ったものへの感動がすごい。

胸の奥で和の音楽が小躍りしていた。

そのリズムが寝るときまで残っていて、布団に横になりながら天井を見上げた。

頑張って作った金魚の提灯ねぶたが、天井から吊され一定のリズムを刻みながらゆらゆら揺れた。

心の中で小さく言ってみる。

らっせーら。らっせーら。






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