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娘ちゃんと漢字50問テストとお友達と母

凸凹娘ちゃんの母こと山口ぐりこです。こんばんは。
うちの娘ちゃんの学校では漢字50問テストがあります。
このテスト、我が家では鬼門中の鬼門なんです。
娘ちゃんは漢字を覚えるのが苦手です。
それだけなら良いんですよ。
ありのままの姿でも私は良いんです。

ただ、娘ちゃんが許せないんです。
完璧に100点を取れない自分を。
間違えてしまう自分を。
練習の時に一問間違えただけでも、目に大粒の涙を浮かべ、顔を歪めて「覚えてたのに!!!」と言って大泣きをします。
連続して間違えたら悔しさのあまりプリントは涙で穴が開き、怒りを込めた消しゴムは本来の仕事をせずに、涙で柔らかくなった繊維を引き裂きます。
そのプリントを見てソファで突っ伏して大泣きをし、座面を拳で叩くのです。
私は「おいで」と言って娘ちゃんを膝の上で抱きしめて言うのです。
「悔しかったね。頑張ってるね。見て。前回書けなかった漢字が書けてる。すごいよ。」
娘ちゃんは嗚咽で途切れ途切れに「お友達の方がすごい」と言います。
私はことさら優しい声で言います。
「娘ちゃん、誰かに勝つのが大切なんじゃないよ。前の自分と比べてどうなってるかが大切なんだよ。少しでも前よりできるようになってるのが凄いんだよ。」
娘ちゃんは「でも100点を取りたい」と泣きます。
私は精神力を総動員して答えます。
「簡単にね、100点を取れる子もいるかもしれない。反対に、娘ちゃんみたいに間違えちゃう子もいる。でも娘ちゃんは悔しくても辞めないでしょ。ママは簡単に100点を取れる子よりも、君の方が凄いと思う。間違えても悔しくても諦めない娘ちゃんはものすごく頑張ってると思う。ママはそんな娘ちゃんが好きだよ。でも、嫌だったら辞めても良いんだよ。娘ちゃんは頑張ったんだから、頑張った分の漢字は書けるよ」
娘ちゃんは静かになって言うのです。
「いやだ。辞めない」
これは、母が教えると言う事も当然含まれますし、その間の落ち込んだ時の「おいで」も含まれます。私は肩を涙で濡らしながら、数日間娘ちゃんと共に戦うのです。
1日十個ちょっとずつ。文字の形を確認して、覚え方を一緒に考えて、定着するまで繰り返すのです。

今学期もそんな季節がやって来ました。
ただいつもとずいぶん様子が違います。
娘ちゃんは多動のお薬を出してもらうことになりました。日々座るのさえ苦行だった学校が楽しくなっているのです。
絶対母に見張られていないと完遂できない宿題(忘れるのは嫌)も、お友達とやったり、一人でやってしまいます。
ちゃんと理解できているのか、甚だ不安ではありましたが、「一人でやる」という意思を大切にしたかったので、私は見守ってみることにしました。

ある日突然娘ちゃんが「今日は好きな事以外はやりたくない」と言いました。母の100倍は真面目な娘ちゃんです。私は心配しつつも「そっか」と言って宿題の事には触れませんでした。
散歩に誘うとうれしそうについて来て、人通りの少ない道を手を繋いで歩きました。
秋の清々しい空気を吸い、娘ちゃんは幾分か緊張が解けたようで、ポツリと聞いてきました。
「ママ、娘ちゃんはお勉強が出来ないの?」
私は胸が抉れるようでした。誰かに言われたのかもしれない。字が汚い、音読がおかしい、計算が遅い、文章題が解けない、いろんな物事が覚えられない。娘ちゃんはとても善良で優しい子です。
私はたとえ無理でも娘ちゃんが傷つくものから少しでも遠ざけたいのです。
娘ちゃんの質問に真っ直ぐに答えようか迷って諦めました。
「娘ちゃんの学校に足が速い子いる?じゃあ、足の遅い子は?歌の上手な子はいる?娘ちゃんは耳がいいから歌も上手だね。ねぇ、足の遅い子はさ、一生懸命に足が速くなるようにならないといけないと思う?娘ちゃんはどう思う?」
この時、勉強に関する単語を出せなかったのは、娘ちゃんが悟るのが怖かったからだというのをよく覚えています。
娘ちゃんは「練習したらいいと思う」と答えた。
私は笑って「足が遅いなら他の事を頑張ればいいと思う。歌とか上手かもしれないし、そっちを頑張って伸ばしたらいいと思う」と言うと、娘ちゃんは「ずるい」と言って「娘ちゃんもそっち派!」と笑いました。
そうして私は娘ちゃんの質問に答えているようで答えない、ズルいことをしてその場を凌ぎました。
家に着くと、娘ちゃんは「宿題をする」と言いました。私は「うん」とだけ答えました。

宿題は、漢字50問テストの予習でした。
いつも通り、私は見ずに娘ちゃんが「終わった」と言うと「頑張ったね」とだけ言いました。

娘ちゃんは数日してどんよりとした顔で帰って来ました。曰く週明け月曜日に漢字50問テストがあるそうです。
私は「練習してたじゃん!」と言いましたが、85点以下は再テストだそうで、非常にテストを怖がっているのです。

私は土曜日に娘ちゃんと二人きりにし、漢字のお勉強の日にしました。朝、一緒にお勉強して、お昼は娘ちゃんの好きなところでご飯を食べて、午後はゆっくりするというものです。
私は怯えていました。一年前の恐怖の時間を思い出していたからです。
でもまぁ、再テストになってもいいや。と思って教えることにしました。

送り仮名のテストから始めると、娘ちゃんめちゃくちゃ嫌がっていました。いつもと違う順番で始めたからです。数問間違えながらも答えていく娘ちゃん。
私は気づきました。娘ちゃんが漢字をまるで覚えていない事もないし、突拍子のない漢字を書いて度肝を抜くこともありません。
あれ?結構覚えてるね…。
お母さん、覚え方から教えるのかなって思ったけど、そんな事なかった。しかも「間違えた漢字は覚えてる」との事。すごいじゃん。え?すごいのでは!?
練習テストは86点でした。
娘ちゃんは「ギリギリだなぁー」とニマニマしていました。私は「誰が、漢字テストが心配だって?」と笑いました。
娘ちゃんも笑いながら「心配だったんだよ!」と言いました。

次の次の日、漢字テストでした。私は気が気じゃありません。そうです。一番心配しているのは母です。泣きながら帰ってこないと良いなぁ〜。すごく落ち込んでないと良いなぁ〜。
「ただいま」
の声に一番に聞きたかったんです。
一生懸命、我慢しました。
いつも通り「今日、学校どうだった?楽しいことはあった?」と聞きます。
娘ちゃんは「んー。ふつう」と答えて、テストの事を教えてくれません。でも落ち込んでもないし、変に嬉しそうでもないし、返却は別の日なのかなと思って聞いてみました。
「漢字テストは?今日は返ってこないの?」
娘ちゃんは「ちょっと待ってて」と言って勿体ぶってランドセルからテスト用紙を出しました。
「待っててくださいねー」
と言って、少しずつ開いていきます。
間違いがほとんどない。
「じゃーーーん!!!」
97点でした。私は過剰に喜びすぎないようにすごいね!頑張ったね!!と言いました。
娘ちゃんは真剣な顔をして「お友達も頑張ったんだよ!」と仲の良い友達の名前を出しました。
「うん、そうなんだ」と答えると、「お友達も娘ちゃんと同じくらい頑張ったんだよ!でも、娘ちゃんよりも点数が低かったの。ちゃんと合格したけど、『才能ないかもしれない』って落ち込んでたから、『テストは人と比べるんじゃないよ。前の自分と比べるんだよ』って言ったの!お友達は頑張ったんだよ!」
娘ちゃんは涙目でした。
「そっか!みんな頑張ったんだね!すごいね!!」

私は娘ちゃんの成長っぷりに驚きました。
テストの点数が良かったのは正直に言うと嬉しかったです。
でも、それ以上に娘ちゃんの心がすくすくと元気に育っているのを感じました。
以前は自分の100点にしか見えなかった娘ちゃんが、お友達の事も考えられる子でびっくりしました。
そして、娘ちゃんの言葉の中に私の言葉が息づいていて、あの辛い日々も娘ちゃんの心の栄養になれたのだと思うと、ものすごく誇らしい気持ちでした。
娘ちゃん、ありがとう。

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