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創作 勇者と魔王

「超熱魔法を使う」
魔法使いのアガイベタは叫んだ。すぐにポーションをあおると空瓶を床に叩きつけた。空瓶は粉々にくだけ、ガラスの破片になる。アガイベタは一歩前に右足を出すとガラスの破片がジャリと嫌な音を立てた。

勇者ウルフガレンダはすぐに詠唱を始める。防御の魔法だ。超熱魔法は精霊イフリートが使う灼熱のブレスに次ぐ超高温を発生させる。範囲は狭いが高温のため、あらゆるものが融解する。それとともに高温になった中心から衝撃波が発生し周りのものをなぎ倒していく。衝撃波からパーティーを守らなければならない。こんなところでくたばってたまるか、俺にはまだやることがある。眼の前にいる魔王はまだ余裕を見せている。この魔法が効かなければ次にどんな手を打てばいいかわからない。今はやるしかない。

戦士ハルガーは巨大な剣を振り回して眷属から皆を守っている。眷属の数は多い。剣は剣というよりも鉄の板でできた棒のようにも思える。その巨大な質量で触れるものを砕く。一撃一撃が重く、防御しようと受け止めるのだが、受けた獲物もろとも吹き飛んでいた。一匹、二匹と血祭りにあげていた。

アガイベタの詠唱が終わったようだ。魔王に向けて魔法が放たれる。小さい火球状のものが魔王に向かって飛んでいく。魔王の近くに行くと急激に大きくなり、閃光を放つ。すざまじい轟音が響く。それとともに衝撃波が襲う。魔王の周りにいた眷属たちは高温と爆風でたちまち消滅していく。アガイベタとハルガーはウルフガレンダの作った防御魔法の中になんとか飛び込むことができた。一匹敵が入り込んだがハルガーの一撃で粉砕された。

魔王の周囲は超高温のため石は溶け出していた。魔王の豪華な衣装は燃え上がった。魔法具のアミュレットさえ溶けていく。魔王自身も融解していく。魔王の表面は溶け出し、指も落ちていく。

魔王に痛みという感覚はない。痛みを認識できないのだ。人間とは違って魔王は魔王から生まれたりはしない。魔王は魔王種という個体種であり、無から生じるのだ。人間は悪意の塊から魔王が生まれると考えているようだが、悪意などは関係なかった。人間が生まれるはるか昔から魔王種は存在し、生まれた。

魔王にとって時間とは短くもあり、長くもあった。人間にとって1秒位が持続した時間の感覚なのだ。魔王にとってはそうではなく自在だった。瞬間とは1秒のこともあったし、10年のこともあった。

魔王は消滅しかかっていた。最後の力を振り絞って転生の魔法を行った。転生の魔法は使えば、転生するが魔王以外の者になる。そして、無からまた次の魔王が生まれてくるのだ。

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