山形小説家・ライター講座(書評note部)

山形小説家・ライター講座は、有志による自主運営で1997年4月から開催している文学講座…

山形小説家・ライター講座(書評note部)

山形小説家・ライター講座は、有志による自主運営で1997年4月から開催している文学講座です。第一線で活躍されている様々なジャンルの作家や編集者の方を講師としてお招きし、毎月開催しています。こちらのnoteでは、書評家豊崎由美ことトヨザキ社長の書評講座に限定して紹介しています。

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山形小説家・ライター講座とは

山形小説家・ライター講座は、1997年4月、直木賞作家である高橋義夫先生を講師としてスタートしました。その後、山形市在住の文芸評論家・池上冬樹先生に講師兼世話役をお願いして、現在までたくさんの受講生とともに歩んできました。「真剣かつカジュアル」をモットーに、有志による自主運営で開催している文学講座です。 書評note部とは講座では毎月、第一線で活躍中の作家や編集者の方を講師としてお招きしています。その中で2021年から、書評家の豊崎由美ことトヨザキ社長を講師として書評講座が

    • 2024年2月 『寝煙草の危険』 マリアーナ・エンリケス著 / 宮﨑真紀訳

       表題作「寝煙草の危険」では、近所で焼け死んだ老女の最期を想像する女が描かれる。彼女は汚れたシーツに煙草で穴を開ける。シーツの下には電気スタンド、穴から漏れる光。どこか幻想的な、夜現れる蝶たち。この短編集の12の物語は、その一つひとつが異界の穴から漏れる暗い光のようである。  少女の自分本位な嫉妬が呼び寄せる恐怖「湧水池の聖母」、母親が哀れな老人をかばったおかげで、地区全体にかけられた呪いを免れた家族の結末「ショッピングカート」、すべてのものに対する度を越した恐怖に翻弄される

      • 2021年5月 『星の時』 クラリッセ・リスペクトル著

         二十世紀の文豪、クラリッセ・リスペクトルの『星の時』はブラック・コーヒーのような小説だ。苦みがきいていて後味が重い。  ヒロインのマカベーアはリオデジャネイロに住むノルデスチ出身のタイピストだ。社会の底辺で虐げられながら生きる彼女の現実は、この小説を執筆する架空の作者として登場するロドリーゴによって語られる。彼は作家としての葛藤についても独白し、物語に浸ろうとする読者にジャブを放つ。  美容クリームを食べてみたいと夢見るマカベーアの無知と危うさを残酷なまでの率直さで描きなが

        • 2024年2月書評王 『寝煙草の危険』 マリアーナ・エンリケス著 / 宮﨑真紀訳

           メチは、ブエノスアイレスで、死亡したり行方不明になった子供たちの記録を管理する仕事をしている。彼女の記録庫には〈年上の男についていってしまう子、妊娠して怯える子、レイプの恐怖から逃げる子、誘拐されて売春組織にとりこまれ二度と見つからない子、自ら命を絶つ子…〉そんな子供たちの記録が溢れている。メチは淡々と、几帳面にファイリングをするだけだ。でもバナディスという、ひと際美しい少女だけはなぜか気にかかっていた。バナディスが拉致されて殺害されたことを示唆するビデオを見たメチは激しく

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          2024年2月トヨザキ社長賞 『半暮刻』月村了衛著

          〈ヤクザ、半グレ、広告代理店。(略)この三者が密閉された狭い部屋で顔を突き合わせ、国民の税金を簒奪するための手配を黙々と進めている。(略)黒と灰と白。これこそが社会を表す三原色だ〉月村了衛の新作「半暮刻」に書かれたこのくだりは、日本社会の現状を端的に言い当てているのかもしれない。 主人公は二人の青年、山科翔太と辻井海斗。翔太はシングルマザーに育児放棄され施設で育った元不良で、海斗は経産省のキャリア官僚を父にもつ有名私立大学の学生だ。二人は新宿の会員制クラブ「カタラ」に同時期に

          2024年2月トヨザキ社長賞 『半暮刻』月村了衛著