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幻桜   2024/4/5

ある春の夜
つきあいで遅くなり
タクシーで家に向かった

ふと見ると みごとな桜

「すみません 止めてください」

タクシーが路肩に止まる

「ここで待っていてください
 すぐ戻ります
 かばんを置いていきます」

スマホを持って車を降りた
数枚撮って戻るつもりが
間近で見るとつい見とれた

花びらが淡く光って
まるで浮かんでいるようだ

桜に限らず およそ花びらというものは
実はかすかに発光しているのではないか

私はつねづねそう思っているのだが
だとしたらこの無数の花は
夜空からつり下げられたシャンデリアだろうか

もしかすると舞いおりたのか
今の今 空の上から

きっとそう
だってこんなあえかな優しい色が
こんなどす黒い土の中から
生まれ出ようわけがないもの

舞いおりたんだ
今ここに 私のために

「お客さん そろそろいいですか」

我に返った
写真を撮って 再び車中

見返すと
ごくありふれた桜の写真
光っても浮かんでもない

きっと私は見たのだろう
写真にはうつらないもの
オーラとか神と言うもの

ふりむくとまだあった
小高い丘のひな壇に
昔見たぼんぼりのよう

やがて ふっと消えた

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