見出し画像

夏目漱石『文鳥・夢十夜』を読んで 

『文鳥・夢十夜』夏目漱石  2002.9.1 発行 新潮文庫

内容
 人に勧められて飼い始めた可憐な文鳥が家人のちょっとした不注意からあっけなく死んでしまうまでを淡々とした筆致で描き、著者の孤独な心持をにじませた名作『文鳥』、意識の内部に深くわだかまる恐怖・不安・虚無などの感情を正面から凝視し、〈裏切られた期待〉〈人間的意志の無力感〉を無気味な雰囲気を漂わせつつ描き出した『夢十夜』ほか、『思い出す事など』『永日小品』等全7編。

『文鳥』

 喪失感と孤独が漂う話でした。友人に勧められて文鳥を飼い始めた主人公は、美しい女の姿を文鳥に重ねます。

 日常の場面を切り取ったように淡々と書かれており、最初は、世話をしていたものの、寝坊したり、小説を書くことが忙しくなるなど、世話が行き届かず、文鳥は死んでしまいます。

 淡々と書かれているため、心の奥底を流れるような悲しみを感じました。

「家人が餌を遣らないものだから、文鳥はとうとう死んでしまった。たのみもせぬものを籠へ入れて、しかも餌を遣る義務さえ尽さないのは残酷の至りだ」

夏目漱石『文鳥・夢十夜』p.26

 やり場のない感情を下女にぶつけてしまうところや、葉書に自分のせいで亡くなったわけではなく家の者のせいで亡くなったと書くあたり、そこに人間味を感じました。


『夢十夜』

 十編の短編からなる作品で夢の物語。各話の分量は短いながらも、凝縮された内容で読み応えがありました。

 特に『第一夜』が印象に残り、美しい話でした。

 この話では、女性が百年後に再会する約束をして死んだ後、埋葬し、待つ間に百合の花になって男性の前に現れるという幻想的な物語です。
 

自分が百合から顔を離す拍子に思わず、遠い空を見たら、暁の星がたった一つ瞬いていた。「百年はもう来ていたんだな」とこの時始めて気が付いた。

夏目漱石『文鳥・夢十夜』p.33

  百年後に再び合う(会う)から、百合の花が選ばれたと思うと、素敵だと感じました。白骨の上に花が咲くように、花は死体の上に咲くとなると、百年経って百合の花に魂が宿るという意味合いにも取れるなと思いました。


『永日小品』

 多岐にわたるジャンルで、日常生活が書かれている一方で、「蛇」や「声」など、夢のような独特の雰囲気漂う作品もありました。



 ここまでお読みいただきありがとうございました。また次の記事でお会いできたらと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?