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【創作童話】さんかく教授の大予言

さんかく教授の大予言

 遠い昔の西洋に、さんかく教授と呼ばれる偉大な学者がいました。彼はとんでもない変わり者で、なんと言っても三角形が大好きなのでした。帽子も三角形なら、靴も鞄もみんな三角で、使っている机も椅子も三角、さらにコップまでも三角形の特注品というこだわりようでした。理由は「見ていて美しく、落ち着くから」という単純なものでしたが、それならば、自分では見えない帽子まで三角形にする必要は無さそうなものです。
 とはいえ、さんかく教授は学者としては当代一の碩学で、彼の研究は常に世の注目を浴び、遠方からも教えを請いに若い学者がやってくるほどでした。彼の専門はもちろん幾何学でしたが、それ以外にも歴史、天文、物理など、あらゆる学問を修め、その知識の広さと深さは地中海に例えられるほどでした。

 しかし、このところ、さんかく教授の様子がおかしいのです。彼は血眼になって分厚い百科事典のページを繰り、異民族が残した古文書などを夜遅くまで解読しています。その行為自体は、熱を上げられる研究対象を見つけたということですから、学者としては、むしろ喜ばしいのかもしれません。しかし、この研究を始めてから、さんかく教授は日に日にやつれていき、挙句の果てには、悲痛な嘆きを研究室から漏らすようになりました。
「ああ、巨大な三角形が失われる」
 すぐに、このことは学者仲間や世間の人達に伝わりました。みんなが心配して、さんかく教授の元を訪ねましたが、教授は「巨大な三角形が失われる」と言うばかりで、元気づけようとする相手の言葉も耳に入らないようでした。偉大な学者の病は大いに関心を呼び、みんながその真意を推測しました。
「巨大な三角形とはピラミッドのことだろうか?」
「幾何学に関する問題では?」
人々は「巨大な三角形」の正体を熱心に議論しましたが、明確な結論は出ず、そのうちに「天才にしか分からない悩み」として、考えるのを諦めてしまいました。
 しかし、そんな世間の雰囲気とはうらはらに、さんかく教授の悲壮感は際限なく強まり、とうとう昼間から家の外に漏れるような大声を発するようになりました。
「間違いない。我々を包む巨大な三角形は必ず失われる。地球上どこにも逃げ場はないんだ!」
これを聞いて、世の中の人々は恐怖しました。これまでは、さんかく教授の嘆きを単なる学問上の問題と考えていましたが、「地球上どこにも逃げ場はない」という言葉から、教授の嘆きは天変地異など、人類の存続に関わる大問題であるように思えたのです。人々は教授の元に押し寄せ、その真意を問いただしました。教授はもう抜け殻のようになっていて、目は虚ろ、全身はガタガタと震え、今にも地面に崩れ落ちそうです。それでも訪れた人達に向け、最後の力を振り絞るように言いました。
「今日から三日後の、日の出から五時間十分二十三秒すぎたとき、我々を包む大いなる三角形が失われる。それは避けられないし、逃れようもない。おしまいだ!」
 この破滅の大予言は瞬く間に世に伝わり、それを聞いた人々は狂乱のうちに一日一日を過ごしました。教授の発言は、世界の終末を予告するものと解釈され、世の中は大いに荒れ、人々は嘆き悲しみました。しかし、幸か不幸か、その瞬間まで三日しかなく、また「逃げ場はない」という教授の発言もあったので、人々はどこへも逃れることはなく、只々その日を待つことしかできませんでした。

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