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【表現辞典】霊石典/名作家の文章〈4〉長沢佑『レポーター』(全文無料)

霊石典

〈おしらせ・索引〉

 この記事は、私が編集している『霊石典』の派生記事です。名作家の作品の中から、『霊石典』収録の言葉が使われた印象的な文章を紹介します。言葉に興味を持つきっかけとして、あるいは、言葉をさらに深く理解する参考として、ぜひ本編の記事とあわせてお読みください。

長沢佑『レポーター』(青空文庫)

夜の十一月
北国はもう冬の寒さだ
硝子屑のような鋭い空ッ風が
日本海を越えて吹いて来る
荒涼とした夜の越後平野に
点々とみえるにぶい灯
あれはみんな仲間の住家だ

 空っ風は山を吹き降りてくる乾いた風で、この文章では、「硝子屑のような」と「鋭い」のふたつで修飾されています。寒い地域に吹く冷風には、身を切るような厳しさがありますが、それは生物の活動を許さない清浄さとも言えます。まさに無機質で美しく、「硝子屑」というたとえがぴったりです。
 長沢たすくは社会主義活動家なのですが、文芸活動も精力的に行った人で、この作品は活動仲間とのやりとりを描いたものです。当時、社会主義者にたいする世間や警察の目は厳しかったはずで、長沢たすくは、そんな社会からの苛烈な弾圧を、空っ風と重ねているのです。この作品からは、若者の汚れなき崇高な信念を感じますが、それとともに、あえて社会の逆風を生きることへの自己陶酔も感じられます。長沢たすくは23歳で死去しました。

 この記事では、[するどい(鋭い)]が使われた文章を紹介しました。

 ぜひ、本編の記事もお読みください。


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