山田組文芸誌

2019年に本好きが集まって結成された文芸部です。本は好きですか?

山田組文芸誌

2019年に本好きが集まって結成された文芸部です。本は好きですか?

マガジン

  • 山田組 夏号

  • 山田組文芸誌 第6号「ライバル」

    2019年に発足された文芸部です。現在は会員4人、準会員1人で活動しています。指定されたテーマに沿って小説を書き、季節ごとに文芸誌を発刊します。

  • 山田組文芸誌 第7号「映画」

    2019年に発足された文芸部です。現在は会員4人、準会員1人で活動しています。指定されたテーマに沿って小説を書き、季節ごとに文芸誌を発刊します。 第7号のテーマは『映画』

最近の記事

【山田組アカデミー賞】高平 九

私、高平九の大好きな映画2本を紹介します。 『ポケット一杯の幸福』(1961年アメリカ) 原題 Pocketfull of Miracles 監督 フランク・キャプラ 出演 グレン・フォード、ペティ・デイヴィス、ピーター・フォーク他  初老のリンゴ売りアニー(ペティ・デイヴィス)はイギリスにいる孫娘に自分はホテル暮らしの裕福なレディだと嘘の手紙を送っていました。あるとき孫娘が婚約者をアニーに引き合わせるためアメリカにやって来ると手紙をよこします。婚約相手の父親はスペインの

    • ドリーム座の休日(著:高平 九)

      ドリーム座の休日 高平 九  夢見橋の石の欄干にもたれて川の流れを見ていた。昨夜の大雨のせいでいつもよりずっと水面が近く見える。寛之は濁った水の勢いに焦りのようなものを感じて川の終点である港の方角に目を移したが灰色の空以外には何も見えなかった。  午前七時。雲が空を覆っているので今はそれほど暑くはない。予報では昼にはまた晴れるそうだ。寛之はショルダーバッグからペットボトルを取り出しマスクを顎に下げて水を少し口に含んだ。  この町で散歩を始めてから1週間になる。東京にいる

      • 【山田組アカデミー賞】千秋 明帆

        定期的に観てしまう映画ってある。お気に入りのシーンだけ見たり、作業中に流したり、とりあえずみたいやつとか。今回の原稿中はメイドインアビスとか竜とそばかすの姫とかプロメア、天外者、あと原稿のためにローマの休日も観てました。サブスクはいいぞ。 定期的に、というと『コンスタンティン』が好きだ。キアヌ・リーヴス主演の映画で、2005年製作、原案はアメリカンコミック『ヘルブレイザー』(Wikipediaより)、中高生の頃に見たのだが、エクソシストってピンポイントに心を弾ませる要素です

        • 十二年越しの伏線回収 (著:千秋 明帆)

          『十二年越しの伏線回収』 千秋 明帆  隣で動く気配がしても、前を見つめつづけた。  白黒しかない画面の中で浮かび上がるThe Endの文字と共に右側だけ沈み込むソファーも、薄暗い部屋に落ちる衣擦れの音も、左頬を照らした蛍光灯の眩しさも、何もかもを無視して前だけを見つめる。 「じゃあね。」  静かな声は、肩をひと撫でして去っていった。  エンドロールすら無い、余韻に満ちた物語の終わり。止まるテープの音だけが空しい。  閉まる時だけ軋むドア。ガダン。鍵を回して、やや

        【山田組アカデミー賞】高平 九

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        • 山田組 夏号
          0本
        • 山田組文芸誌 第6号「ライバル」
          3本
        • 山田組文芸誌 第7号「映画」
          6本

        記事

          【山田組アカデミー賞】二宮 弘人

          「めぐり逢えたら」を推す。一九九三年、アメリカ映画。妻を亡くした男サム・ボールドウィンにトム・ハンクス、新聞記者アニー・リードにメグ・ライアン。冒頭のシーンはメモリアルパークに立つ父と幼い息子。カメラワークはクレーンでスライド。シカゴの大都会が遠景に現れる。BGMはピアノソロの「Stardust」。最愛の妻を失い一年半、シアトルに引っ越しして心機一転を図るも、眠れない夜を重ねる主人公サム。   時はクリスマス・イブ。父を心配する息子のジョナは、ラジオ番組の人生相談に電話する。

          【山田組アカデミー賞】二宮 弘人

          ロードショー(著:二宮 弘人)

           灯りの落ちた客席の椅子から、思わず腰を浮かしそうになった。大画面に繰り広げられている仮想現実と、シートに座っている現実。あちらとこちら。私は徐々に、その境目を見失いつつあった。  肘掛けをつかんだ右手の上に、あたたかく柔らかな手がふわりと添えられた。ほっとゆるんだ次の瞬間、「突撃!」という、声にならぬ絶叫が、シアターに轟いた。銀幕に映し出される戦闘場面。息を飲む。かろうじて立つのは控えた、と言うより身じろぎもできなかった。それでいて居ても立ってもいられない。  おかしい

          ロードショー(著:二宮 弘人)

          バトルロイヤル

          『繰り返す!これより、この島で生き残りを賭けたバトルロイヤルを行う。繰り返す!これより、この島で生き残りを賭けたバトルロイヤルを行う』(ブーーーッ) 〈0年目〉  真下からは、既に発砲や爆撃の音が聞こえる。そんな戦場の中へ、次々と突入していくパラシュートたち。それに見倣い、僕も(なるべく下を見ないようにしつつ・・・)バトルシップから飛び降りる。「おぎゃあ!おぎゃあ!おぎゃああああああああああ!」  2002年、僕はこの島に生まれ落ちた。 〈1年目〉  ラッキーなプレイヤー

          バトルロイヤル

          マネキン・コンプレックス

           手元のマスクを二枚持って仕方なく立ち上がり、俺は玄関に向かった。  いや、玄関とは名ばかり、扉一枚の向こうはもはやアパートの廊下である。古ぼけたアパートに似つかわしい木製のドアを、誰かがせわしなく叩き続けており、それがあまりに鳴り止まないせいだろうか、音はいつしか俺の内部でこだまになっている。  とんとんこん、こんこんとん、こんとん。  名前が呼ばれない以上、彼女のわけがない。あの娘はまだここの住所も知らないのだ。住所を教えていなかったのは迎えに行けばいいと思っていたからで

          マネキン・コンプレックス

          初恋

          「あたし松山に行く」  美沙子がそう宣言すると食卓が静まりかえった。 「美沙ちゃん、急にどうした?」  夫の高志がご飯茶碗を手にしたまま当惑顔で言った。 「行けばいいじゃん。たまには水入らずでのんびりして来なよ」  次女の佳音は長い腕を伸ばしてきんぴらごぼうを取ろうとしていた。韓国のテーマパークでダンサーをしていたが、祖母の葬儀に帰って来たまま戻れずにいた。今は近くのコンビニでアルバイトをしている。韓国に付き合っている相手がいるらしい。そろそろ孫の顔がと思っていたらコロナ騒ぎ