見出し画像

バトルロイヤル

『繰り返す!これより、この島で生き残りを賭けたバトルロイヤルを行う。繰り返す!これより、この島で生き残りを賭けたバトルロイヤルを行う』(ブーーーッ)

〈0年目〉
 真下からは、既に発砲や爆撃の音が聞こえる。そんな戦場の中へ、次々と突入していくパラシュートたち。それに見倣い、僕も(なるべく下を見ないようにしつつ・・・)バトルシップから飛び降りる。「おぎゃあ!おぎゃあ!おぎゃああああああああああ!」
 2002年、僕はこの島に生まれ落ちた。

〈1年目〉
 ラッキーなプレイヤーは、お金持ちの家に着陸し、いきなり御曹司というスーパーレアな称号を手に入れたりする。もしくは着陸先が都会エリアであれば、学習塾というレベルアップが図れるトレーニング場がある。いわゆる、「人生は運ゲー」というやつである。
 僕は、エリアCの辺境に不時着を遂げていた。ここは本当に何も無い。映画館、カラオケどころか、半径5キロメートル圏内にコンビニが一軒たりとも存在しないときた。この辺りでカフェといえば、コカ・コーラの自販機のことを言う末である。
 しかし、運ゲーなら仕方ないと思う他、仕方ない!来るべき戦いの日に備え、ひとまずは言語トレーニングに励む事とする!
「ぱあぱ、まあま、ぱあぱ、」

〈3年目〉 
 言語も二足歩行も安定してきたところで、バトルロイヤル開始以来の大きな壁に衝突する。そう、「暇」である。何もない土地では、何もすることがないのだ。僕はテレビばかりの毎日を過ごしていた。

〈4年目〉
『はい、タケコプター!』(ピッ)『バルス!』(ピッ)『ケロケロケロケロケロケロケロケロ』(ピッ)『あたしンち、このあとすぐ』(ピッ)『テストで3点、笑顔は満点!』(ピッ)『ポケモン、ゲットだぜ☆』(ピッ)『来週も観てくださいね、じゃんけんぽん!うふふ』(ピッ)

〈5年目〉
 この年から、顔立ちや地頭の良さが重要なステータスの一部となっていった。

〈7年目〉
 エリア毎に参加者が集められた。
「みなさんは今日から、友達と一緒に楽しくお勉強をしてもらいます。ここで沢山の思い出を作ってくださいね」
 『小学校』という名のバトルコロシアムである。

〈8年目〉
 このコロシアムでのルールは簡単だ。定期的に行われるテストをこなして、なるべく高いスコアを取りさえすればいい。流石、塾通いのA級出生者の殆どは、ハイスコアを納めていた。一般家庭にあたるB級、且つ、テレビばかりの僕はどうだったか。これには自分でも驚いたが、意外にもランキング上位に食い込めていたのだ。知らぬ間に、テレビ番組は、僕に知識のレベルアップをさせていたのだ。僕は、ますますテレビにのめり込んでいった。

〈9年目〉
「あぁ、そうだよ。俺、勉強しないでアニメばっか観てんだ」
「うそだあ、だってお前のテストさ、天才じゃん。俺はアニメ観てても、バカだぞ」
「ふうん」
「他にどんなアニメ観てんの?まどか☆マギカは?」
「なにそれ」
「うっそお!お前、頭いいのに、まどマギ知らねえの!」
「うん、知らない」
「今度、深夜の番組を観てみろよ。もっと面白いアニメやってるぞ」

〈10年目〉
 同級生が1人、小学校に来なくなってしまった。プレイヤーネームは木下沙彩。噂によると、クラスから孤立してしまったことが原因だそうだ。彼女は、このバトルロイヤルの敗北者となった。

〈11年目〉
 この島を生き抜くには、チョットしたコツがある事に気づく。例えば、「挨拶をちゃんとすること」、や「年上であれば何でもかんでも敬っておくこと」等だ。これらのコマンドを実行する事で、より円滑にゲームを進めることが出来る。また、「空気を読むこと」は強力な防具となる。早めに身につけておきたい。

〈12年目〉
(ピッ)『アムロ、行きまーす』(ピッ)『よろしくおねがいしまあああああ』(ピッ)『焼きサバじゃないよ、焼きそばだよ!』(ピッ)『心臓を捧げよ』

「修学旅行でもアニメかよ、さすが」
「今日の進撃は絶対に観たかったんだよ」
「うわ、ここの作画やばあ」「だろ」
「あぁー、早く続きみてえけどなあ」
「シーズン2やるときにゃ俺ら高校生かもね」
「ふふ。俺は頭いいから大丈夫だけど、お前は高校生になれるかな?」
「駆逐するぞ、お前」
「あれ。そういえば、エヴァンゲリオンの続編ってそろそろだよな」

〈13年目〉
 同級生の中にも、金色の髪でバイクを乗り回したり、上靴を隠され続けた挙句に自分の身を隠したりする者が出てきた。バトルロイヤルの脱落者は急激に増えていったのだ。
 そんな中で、僕のスコアも伸び悩んでいた。

〈14年目〉
「俺、受験まではアニメとか漫画を封印することにしたわ。
 だって、良い高校行きたいからさ。お前もいい加減に勉強始めた方がいいぞ。
 ウダウダしてたら、あっという間に負け組になっちゃうぜ」

〈15年目〉
「それではペンを取って、」
 信号弾が打ち上がる。(キーンコーンカーンコーン)
「はじめ!」
 戦闘開始の合図だ。即座に始まる銃撃の応酬。(ペラペラペラペラ)(ガリガリガリガリ)手が震えて、うまく照準を合わせることができない。(俺の漢字って、これで合ってたっけ)
 いちばん最初に成果を挙げたのは戦闘機集団だった。(あれは、スポーツ推薦組か!)上空をマッハで駆けてゆき、限りある勝者の枠を早々と獲得していった。中には、撃ち落とされる機体もあった。緊急脱出を図っているようだが、丸腰のパイロットが先の地上戦を勝ち残れるとは、とても思えない。(あいつ、部活しかしてなかったもんな)
 命懸けで戦地を走り抜ける。(第二問、第三問、第四問、)這ってでも、進み続けることを止めなかった。(第二十五問、とんで、第二十七問、)一年かけて準備し続けた、ありったけの弾丸をぶっ放した。そこから先は、殆ど記憶がない。
「合格おめでとうございます。」
 そう聞いた時、はじめて自分が生きている事を実感できた。僕は、あの地獄を生き抜いて、選ばれし勝者となったのだ。
 そういえば、アニメ好きの彼は地元の商業高校に進学したらしい。それを聞いたとき、ようやく自分が沢山の死体の上に立っている事に気がついた。
 
〈16年目〉
 レベル毎に参加者が集められた。
「皆様方に置かれましては、厳しい受験勉強を経て、晴れてこの学校に進学された事と、」
 『高校』という名の、新たなバトルコロシアムである。

〈17年目〉
「これ、この前やったタコパの写真」(ドドドドド)「彼女のLINEうるさくてさ、」(バーン)「模試の判定、Aだったわ」(バキューン)「いやいや、県大はたまたまだって」(ダーーン)「みんなには内緒だって言って、顧問が奢ってくれたんだ」(ダダダダダダダ)「修学旅行のあと、ディズニー行かなかったの?」(ドンドンドンドン)「俺らのクラスは、割と盛り上がったよ」(ズキューーン)「夏休みは遊びとバイトで忙しすぎて」(ズバァン)「え、あん時、おまえ居なかったけ」(ドババババババババ)

 学歴マシンガン、イケメンミサイル、人望の閃光弾、人間力のショットガン、コミュニケーション力のミニガンなど、各々がこれまで磨いてきた武器を以て、戦いの日々を過ごしていた。
 現状、僕は部活にも入っていなければ、人付き合いも少ない。いつかの友人も、すっかり知り合いとなってしまった。加えて、メインウェポンであったスコアも低迷を続けてる。思い返せば、これまでの人生で何かひとつでも人並み外れたことを成し遂げたことがあっただろうか。どれをとっても、中途半端に終わっていた。気づけば、手元には無数の竹槍しかなかった。

〈18年目〉
 これ、全部おれの血か。
 (今の超ありきたりなセリフだったなあ)とか思いながら、その場に倒れ込む。間違えたチャンネルを押してしまったときのような、砂嵐が視界を覆う。
(ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア・・・・)
(ピッ)
『そう、いつだって僕は一生懸命だった。高校生になってからも、必死に勉強をしようとして、必死に友達を作ろうとして、必死に部活動を続けようとして、必死に人と違う事をやろうとしてきた。社会から浮かない為には、馬鹿にされないためには、誰からも負けるわけにはいかなかった』
(ピッ)
『いや、本当は負けないように戦っていたんじゃないんだ。人から馬鹿にされない為じゃなくて、人を馬鹿にするために、僕は誰に対しても勝っていたかった。だから、意味のない揚げ足やマウントを取ることにまで一生懸命になってしまった。僕は、勝手に自分と他人を比較することで、優越感や安心感を手に入れていたのだ。僕はずっと向けられてすらいない他人の目を気にして生きてきた。つまりは単なる自意識過剰』
(ピッ)
『そうか、僕が気にさえしなければ、この世界から争いや戦いはなくなるんだ!』
(ピッ)
『違う。僕が生まれる前から、この世界には発砲や爆撃の音が鳴り響いていた。生きていく上で、避けて通ることが出来ない戦いは確かにあったのだ。どれだけ友達と仲良く学校で過ごそうとしても、スコア争いはしなければいけないのだ。他人が介在する以上、戦いの可能性は避けられない。この世界で生きていく以上、絶対的な平和は有り得ないのだ』
(ピッ)
『じゃあ、この先ずっと続く戦いの中で、誰からも負けないために他に必要なものって何?文句の付けようがない学歴に、整った顔立ちに、仲間が自然と集まってくるような人望に、内面に。ほんと、ため息が出るなあ』
(ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア・・・・)
 目を覚ますと、そこはまだ戦場だった。また今日も、くだらないことで人と人が争っていた。また今日も、つまらないことで人と人が戦っていた。足を引っ張り合ったり、意地を張り合ったり。その様を側から見ていると、酷くどうでもいい気分になってきた。
 すると、急に身に付けている装備が重くなってきたので、「自意識の鎧」をそこら辺に脱ぎ捨ててやった。あぁ、そうか、この世界における最強の防具は「空気を読む事」でも「無関心を装う事」でもない。パンツ一丁になることだったんだ。その格好のまま、僕は地面に向かって大の字になった。
(空が綺麗だなあ、)
(受験も思ったように上手くいかなかったなあ、)
(彼女も結局ひとりも出来なかったなあ、)
(好きなことを貫くことも叶わなかったなあ、)
(でも、まあいいや)と、心から思えた。さてと、この先も戦いは続いていく。じゃあ、この戦いから自由になるためにはどうすれば良いか。本当は、ずっと前から気づいていた。そして、今の僕ならそれが出来るのだ。
 腰につけた銃を、自分のこめかみに突き付けた。(ドガァン!)
(ピッ)
『壮絶なイジメから引きこもり生活を送り、ネットばかりの毎日。そんな中で、とある一本のボーカロイド動画が彼女を救う。そして、今や2.5次元アイドルとして、その才能を開花させたティーンのカリスマ、サーヤ。今日の情熱大陸では、そんな彼女の日本武道館公演を追っていく』
(パッパパーパパーパパーパパパララ・・・・)

〈再び0年目(19年目)〉
 目を覚ますと、そこは見覚えのある場所だった。白い雲を台無しにするほどの黒煙と、青い空を塗りつぶすほどの血飛沫。そして、足の骨に響いてくる発砲と爆撃の音。また、隣にも見覚えるのある顔がいた。
「おぉ、久しぶりじゃん!やっぱりお前もココに来たか!」
 戦いに勝利した戦士たちは、次の戦いへと向かっていく。そして、僕ら敗北者には、どうせ、またすぐに新たな戦いが用意されるのだ。ほんと、ため息が出るなあ。でも、これなら何回でも安心して、パンツ一丁のまま突っ込んでいけそうだ。
「おい、ちゃんとチケット持ったか?昔からお前は馬鹿なんだから」
「駆逐するぞ、お前」
 
『繰り返す!これより、この島で生き残りを賭けたバトルロイヤルを行う。繰り返す!これより、この島で生き残りを賭けたバトルロイヤルを行う。』(ブーーッ)

「さあ、そろそろ行こうか」
「うん、行こう!」
 勢いよく、バトルシップから飛び降りる。手を伸ばして、黒煙を掴み、頬に目一杯の煤を塗る。2021年、僕は再び生まれ落ちた。瞬間、浴びせられる激しい爆撃を諸共せず、一直線に走り出す。人望の閃光弾に目を眩ませることなく、学歴マシンガンをかわしながら、他人を押しのけて進んでいく。己の信じた竹槍を無鉄砲に振り回して突っ走っていく。
 そんなことよりも、シン・エヴァンゲリオンが楽しみで仕方ないんで!   了

著・まめたろう

こちらの作品は、「山田組文芸誌vol.6」に収録されているものです。

画像1

「山田組」とは、2019年に発足された文芸部です。現在は会員4人、準会員1人で活動しています。指定されたテーマに沿って小説を書き、季節ごとに文芸誌を発刊します。

最新号『山田組文芸誌vol.6「ライバル」』はこちらから無料ダウンロードできます。お読みいただく際には、PDFリーダーの使用を推奨しております。↓


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?