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京の学び「磯田多佳という女の魔性」
まえがき
京都検定二級過去問を解いていた時のことです。
へえスゴい女将がいるもんだと答えを確認し、息抜きに葉室麟さんの古都再見を読んでいたらなんと!?
さっき解いてた問題の答え、祇園の御茶屋、大友の女将のことが書かれているではございませんか。ウソとかフィクションとかアクセス稼ぎとか、全然そんなんじゃなくって本当に偶然でした。
Wikipediaを見てさらにビックリ。"かにかくに碑"は大友の跡地に建てられたんですね。吉井勇が祇園に魅了されていたことは知っていたけどこれは知らんかった。
夏目漱石をはじめ谷崎潤一郎、吉井勇など多くの文学者との交流し、文学芸妓、文芸芸妓と呼ばれるようになった磯田多佳。その人について少し考えてみようと思います。
オタサーの姫
今風で例えるならば文学サークルの紅一点。"オタサーの姫"といったところでしょうか。歴史に名を残す文豪たちを手玉に取る御茶屋の女将。花街で文学を理解できる人はほとんどいなくて、唯一理解を示していたのが磯田多佳だったのでしょう。
今だとSNSで承認欲求を満たすことができますが、昭和の時代まではホステスに話を聴いてもらうことしか成功者たちの承認欲求は満たせませんでした。奥さんや恋人に仕事の話をしても共感してくれることってほぼありませんよね。芸者さんやホステスさんのお仕事は話を聞くことです。愚痴や武勇伝を彼らは彼女たちに話し、その見返りに莫大なお金を支払う。夜の街はそういうところでした。(占い師さんもその一種に含まれますかね。)
漱石晩年の片思い
ー 木屋町に宿をとりて、川向の御多佳さんに(前書き)
春の川を隔てて男女哉
夏目漱石は知人の紹介で祇園の女将磯田多佳と交流をもちます。ある日多佳から北野天満宮の梅を観に行こうと誘われました。しかし約束の当日いくら待っても多佳はやってきません。御茶屋大友へ行き確認したところ、多佳はある人と宇治へ出かけたと言われました。
裏切られた漱石は帝室博物館(今の京都国立博物館)、伏見稲荷大社、新京極を歩き回り、そして上の句を詠みました。東京に帰った夏目漱石は磯田多佳に苦情の手紙を何度も送りつけ粘着していたそうです。身体を壊した漱石は翌年亡くなりました。
俳句には多くの人に伝わるよう前書きを書いてもいいというルールが存在します。わたしはプレバトで知りました。
木屋町の宿から川向うにいる祇園の磯田多佳さん。私の想いは鴨川に遮られて届かないのだろうか。意訳するとこんな感じでしょうか。素晴らしい句ですよね。
皆様は夏目漱石と磯田多佳についてどう思われますか?
いわゆる男女の行き違いというやつですが、もしかしたら漱石は多佳の社交辞令を本気で受け取ったのかもしれません。
こういうのって自分事と他人事で大きく意見が分かれますよね。粘着するほど憎悪を燃やした漱石の気持ちは理解できるし、入れ込んだほうが悪いという見方もできます。粘着された側の磯田多佳さんはとても可哀想ではありますが、死期が迫っていた人の恋心を弄んだ罪としては妥当なのかなと思ったりもします。
まぁ自分が漱石の立場だったら三年は引きずりますね。多佳の立場であれば勝手に勘違いして勝手に恨んできて迷惑極まりないと思うことでしょう。
弱者男性の姫として現在ネットで話題にあがっているのがたぬかなさん。彼女が身長発言で炎上する前から私はテレビで拝見していました。
"YUBIWAZA"というEスポーツ番組で格ゲー界の姫としてほぼ毎週出演していたんです。今もそうですがプロゲーマーって男性ばかりで有名な女性プロゲーマーはたぬかなさんくらいでした。レッドブルが彼女のスポンサーになっていましたが、日本で一番注目されている女性プレイヤーという理由があったと思われます。
花街で唯一文学を知っていた磯田多佳さん。夏目漱石が夢中になったのも、結果フラレたのも必然だったのでしょう。紅一点って魔性の魅力がありますからね。
磯田多佳を知りたい
松花堂庭園で吉井勇のことを知り、葉室麟さんの随筆で磯田多佳のことを知りました。"世間は広いようで狭い"といいますが、京都の花街も思っていたより狭い世界でした。
源光院、中村楼、中村旅館跡、九雲堂跡、かにかくに歌碑と京都市内には磯田多佳にゆかりのあるところがいくつかあるそうです。涼しくなったらぜひ行ってみたいですね。磯田多佳が歩んだ歴史について深く知りたくなりました。
谷崎潤一郎の京都を歩く -4- 磯田多佳
東京紅團(東京紅団)
まとめ
今回は明治時代の文豪たちを虜にした一人の女性を取り上げました。男女のすれ違いって今の時代でも十分起こりうるトラブルです。
待ち惚けを食らった夏目漱石。持病があるのに京都市内を歩き回っただなんて。滑稽に見えますが人生最後の恋と考えるとあまりに切なくて哀しくて。
いくらモテるからって人の心を軽々しく弄んじゃいけないよ、ということでこの話はここまでにしておきたいと思います。ご精読ありがとうございました。
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