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静のマッチョネタを極めし者、井下大活躍


課題で書いた、架空の連載コラムを載せます。どうぞお手柔らかに…


東野幸治は言った。
「誰が言うてんねん、どんな芸名や」

麒麟・川島明も言った。
「(地上波で話すには)小粒すぎる」

そう、世間はまだ知らない。彼の存在を。
ネクストブレイクマッチョ芸人、井下大活躍だ。

 NSC大阪出身で、かつては「井下好井」という漫才コンビで正統派ツッコミを務めていた。いや、「勤めて」いた。
誰よりも「井下好井」という屋号に責任を持ち、それに恥じぬよう、相方に迷惑をかけぬよう、己の意思をかなぐり捨て、自分に求められていることだけを無心でやり続けた。
ライブ中のコーナーひとつ取っても、自分がやりたいことをやるのではなく、「井下好井の一員としてどう動くべきか」を優先し続けた。

甘いマスクやバキバキに鍛えた自らの筋肉を有効活用することもなく、彼は、〝株式会社井下好井〟でサラリーマンを勤めあげた。
コンビ間を唯一繋ぎ止めていたM-1のラストイヤーが幕を閉じた直後、
井下から解散を告げた。

 そして2023年、井下大活躍として、ピン芸人デビューを果たす。
芸歴16年目のことだった。「ピンでやっていけるのか?!」周囲の芸人たちは口々にそう言った。私も、そう思っていた。
どんなピンネタをするのか、全く想像がつかなかった。
そもそも、コンビ時代は一切ネタ作りをしてこなかった男である。


 ところがどっこい、井下は破竹の勢いで新ネタを下ろし続けた。
その数、2か月で15本。
そしてそのどれもがカテゴリ分けできない、全て別ジャンルのネタだった。
ツッコミ時代の面影を残すキレのいい漫談、
丸刈りの坊主頭を活かした某バスケ漫画のパロディコント、
執拗に腹筋を繰り返してネタ中にバターを作り上げる奇怪な一発芸など、
毎回繰り広げられる多種多様なネタは客を魅了した。
「(ピンは)自分で全部責任を取ればいいから、全部気楽にできる。すごく楽しい。」脱サラして、輝きを増していく井下大活躍。



 「『静』のマッチョネタを極めたいです」
これからの目標を聞かれたとき、井下はそう答えた。
中山きんに君、オードリー春日、庄司智春・・・マッチョ芸人たちの多くは大声でギャグを叫んだり、大きな動きをするのが特徴的だ。

井下が目指すのはその真逆、〝静かなるマッチョ〟。
パワーで押し切らない。暗転、SE、小道具までフル活用し、世界観のある繊細な表現で魅せる。代表作「井下サウナ」はもちろんながら、某ミステリー小説を模した「筋肉田一」も必見だ。

これから、「静のマッチョ」時代がやってくる。
R-1事務局さん、惜しい人材を逃しましたね。



▽なんちゃって紙面イメージ

スポーツ紙の連載ぽいイメージで。
26時半に書き終わったから、”丑三つ時”。

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