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ウクライナ「平和への架け箸」の舞台裏。村の鍛冶屋・山谷さんと語るものづくり企業の平和貢献のあり方

こんにちは。「竹の、箸だけ。」に、こだわり続けてきた、熊本のお箸メーカー「ヤマチク」です。純国産の天然竹を人の手で一本一本刈り取り、削り、「竹の箸」を作り続けてきました。

2022年2月24日、ヤマチクはお箸の売上をウクライナへ寄付するため『平和への架け箸』を製造・販売し、たくさんの方にご購入いただきました。ありがとうございました。

と、同時にあのとき現場で起きていたリアルな様子や、私たちが心から望んでいる継続的な支援への想いは、まだ伝えきれずにいます。

なぜ売上を寄付する活動に踏み切ったのか。現場ではどのようなことが起きていたのか。企業として、世の中に示したい意思とはなにか。

今回はヤマチク三代目・山崎が、「村の鍛冶屋」を運営する株式会社山谷産業代表取締役社長・山谷さんとの対談を通じて語ります。

平和を願う、ものづくり企業としての想いのたけ。そこには、さまざまな葛藤、悲しみ、喜び、そして決意がありました。

※村の鍛冶屋では、『村の鍛冶屋 ウクライナ人道支援エリッゼステーク8本セット』の売上をウクライナ大使館へ寄付する活動を行いました。

村の鍛冶屋

ものづくり企業にできることは?ウクライナ支援のきっかけ。

ヤマチク・山崎:そもそものきっかけは、2月24日(木)ロシアがウクライナ侵攻を始めた速報ニュースを目にしたときのことです。

21世紀に、侵攻や暴力を許していいものなのか......。テレビに映るニュースがあまりに衝撃的で、平和が脅かされていることが純粋に怖くて、グルグルと感情が頭を巡りました。

と同時に、自分にできることはないか?と思いました。

僕らはあくまでお箸屋さんです。そしてお箸は、暮らしの道具。そこに携わるものとして、戦争・暴力にNOを突きつけなければと思い至りました。

村の鍛冶屋・山谷さん:そこからお箸の売上を寄付をする『平和への架け箸』の販売につながったのですね。

ヤマチク・山崎:はい。笑顔で食卓を囲むには、平和であることが大前提ですから。社員さんたちも賛同してくれ、150膳の予約販売を始めました。

村の鍛冶屋・山谷さん:うちも完全にヤマチクの影響を受けて動きましたから。ヤマチクの青と黄色のお箸を見て、「ペグでできるじゃん!」と思いついたんです。

社員に相談すると主体的にどんどん動いてくれて、急いでエリッゼステークの在庫を確認。50セットならいける!と、その日の夕方に社員がSNSで発信してくれました。

ヤマチク・山崎:在庫を確認してから、情報をアップするまでが早かったんですね。

村の鍛冶屋・山谷さん:そうですね。社会課題に関しては、常にアンテナを張っていたのも大きいと思います。というのも、もともと地域貢献活動の一環として、ペグ エリッゼステークの売上1本につき1円を、新潟県三条市に寄付をしているんです。

寄付以外にも、SDGsの一環として福祉施設とパートナーシップを組み、鍛造ペグ エリッゼステークの梱包や修正をお願いしています。そういった取り組みの延長線として捉えられたので、すぐに反応できたのかなと。

とはいえ僕が、やりたい!と言ってから社員がSNSにアップするまで本当に早くて、すごいなぁと感心しましたね。

ヤマチク・山崎:そうなんですよね。発案したのは僕たちだったかもしれないけど、社員も同じように何かできないか?自分にできることがあればしたい!という気持ちがあったからこそ実現できたことだなと思っていて。

特にうちの社員は子育て世代が多いので、戦争報道がたまらなかったらしいんです。子供がずっと泣いている、お父さんは戦地に残らないといけない、家族がバラバラになる......。決して人ごとには思えない光景だったんだと思います。

支援の輪を広げられた喜びと、バッシングへの苦悩


村の鍛冶屋・山谷さん:その後の反響はどうでしたか?

ヤマチク・山崎: 2時間で売り切れてしまって、正直反響の大きさに驚きました。でもそれだけ僕らと同じようにモヤモヤ・恐怖心を感じている人が、たくさんいるってことですよね。

村の鍛冶屋・山谷さん:うちもあっという間に30分で完売でした。メディアからの取材依頼、SNSの応援コメントもたくさんいただいて、昔の友人から「テレビ見たよ!」「感動した!」と連絡をもらい、嬉しかったです。ヤマチクはどこよりも行動が早かったから、一気に取材が集中したんじゃないですか?

ヤマチク・山崎:テレビ局数社とWebメディアから取材依頼が来て、朝夕夜と連日ニュースに出ていました。そのおかげか、北は北海道から南は沖縄まで、全国のお客様にお買い求めいただきました。

購入ページの備考欄に「素晴らしい取り組みですね」「応援しています」と、コメントを残してくれる方までいて。お電話やSNSでもたくさんのメッセージをいただき、ありがたかったです。

あとは寄付した証が「ものとして手元に残る」。それも、ものづくりの会社の良さだなと実感しました。食卓に並ぶお箸を見て、「あのとき平和を祈ったよね」と思い返せますし。

お客さまのなかには、「自分になにができるのかわからなかったので、お箸を通じて寄付ができてよかったです」とおっしゃる方もいて、アクションを起こすきっかけになれたのかなと思いますね。

村の鍛冶屋・山谷さん:たしかに。「アウトドアで平和に貢献できると思わなかったので、購入できて嬉しい!」と言うお客さまもいました。そういう声をもらえると、やってよかったなと感じますよね。

ヤマチク・山崎:ただ反響が大きいがゆえに、ちょっと戸惑うこともあって。というのも、メディアで取り上げられる前に売り切れてしまったため、「なんでもっと多く作れないんだ」「在庫がないならテレビ出るな」といったお叱りの声も多く届きました。

村の鍛冶屋・山谷さん:うちもすぐに売り切れてしまったので、購入できなかった方から「もっと増やして」という要望もありましたね。増やしたい気持ちはあれど、あくまで寄付なので限界がありますよね。

ヤマチク・山崎:そうなんです。ご要望に応えたい気持ちは山々なのですが、すでに通常業務だけでも忙しい時期で、製造工程はひっ迫していました。

村の鍛冶屋・山谷さん:人件費や材料費はかかるが、売り上げにはつながらない。ものづくりを通じての寄付は、一気に大量に行うのは難しいです。

ヤマチク・山崎:それでも取材やお問い合わせは止まらず、再販オーダーも1500〜1600件来ていました。どうしようかと思っていたとき、「もう一度、やりましょう」と背中を押してくれたのは、社員さんたちでした。

1回目は、価格1000円のお箸を150膳販売しましたが、さすがにこれ以上の全額寄付は厳しい。このままでは大赤字になってしまうので、再販は価格を2200円にして、850膳を作ることに。本体価格630円・消費税200円・送料370円・寄付額1000円の内訳で販売することにしました。

村の鍛冶屋・山谷さん:それでも赤字なのは変わりないと思うんですが、社員さんも意を決して再販の提案をしてくれたんですね。反響はどうでしたか?

ヤマチク・山崎:850膳が、15分で完売。驚きました。お褒めの言葉を頂戴したり、応援のメッセージをたくさんいただいて本当に励みになりましたね。.......でも実は、バッシングも思っている以上に酷く大変でした。

村の鍛冶屋・山谷さん:え!どうしてですか......?

ヤマチク・山崎:再販と同時にテレビで取り上げていただいたのですが、一部だけを切り取られてしまって、寄付をしようと思った背景、再販に踏み切った社員の切実な想いがしっかり伝わらず、誤解を与えてしまったのか「どうして今回は、消費税を取るんですか?」「戦争でお金儲けをしている」「火事場泥棒みたいなやつがいるぞ」という言葉が矢のように飛んできました。

なにが一番辛いって、社員たちを傷つけてしまったことです。僕のSNSならまだしも、会社宛ての苦情はPCを開くと見えてしまう。ショックを受けている社員の姿を見るのは、辛かったです。

村の鍛冶屋・山谷さん:葛藤の末に再販を決めた山崎さん、社員さんの気持ち、再販に至るまでの背景もしっかり報道してもらえないと誤解を招きかねないですし、正義感のある方ほどキツイ言葉をぶつけてしまうのかもしれないですね。

ヤマチク・山崎:もちろん、99%の人が応援をしてくれました。「ウクライナの平和への架け箸は買えなかったけど、他の種類のお箸を買うことでヤマチクを支援します」と購入してくださる人もいて、本当に支えられました。

でもほんの一部の理不尽なバッシングが本当に悲しかった。僕らはあらゆる暴力や戦争にNOを突きつけるために、お箸を作ることでウクライナを支援をしようと決めました。でも結果として、言葉の暴力が社員たちに襲いかかることになってしまった。

もちろんウクライナの平和は大事だと思っています。でも、社員さんの暮らしや営みも守らないといけない。僕らの平和も同じく大事です。

お叱りの言葉もいち意見として受け止めましたが、正直、理不尽な電話も長文のDMも、怖かったです。一生分のすみませんを言った気がしますね。

ものづくり企業が示す平和への意思表示。継続的な支援を実現したい

村の鍛冶屋・山谷さん:うちはそこまでひどくはありませんでしたが、「政治的・歴史的背景を踏まえて、本当にウクライナが弱者なのか?」という疑問の声をいただいたりしました。

ヤマチク・山崎:そうですよね。その点は専門的な知識がないことはお詫びした上で、でも暴力を正当化する理由にはならないと考えています。

村の鍛冶屋・山谷さん:それに私たちとしては、ウクライナだけを支援したいと思っているわけではないんですよね。苦しい気持ちを強いられているのは、反戦を訴えるロシア人もそう。テレビでは報道されていない紛争やテロも世界のどこかで起きています。

もっと言うと日本だってコロナ禍による失業、貧困、虐待、ホームレス......とたくさんの社会問題をたくさん抱えている。

僕らは日頃から地域に寄付をしていたり、福祉施設とパートナーを組んでものづくりをさせてもらっているからこそ実感として感じるのですが、支援を必要としている人は、身近にもたくさんいるんですよ。

困っている人に手を差し伸べるため、自分にできることはないか?ウクライナに限らず、誰かのSOSに思いを馳せるきっかけになってくれたらいいなと思いますね。

ヤマチク・山崎:そうですよね。爆弾によって街が壊され、故郷を置いて避難せざるを得ない涙を流すウクライナの人たちの姿を見ると、美味しいご飯が食べられる。家がある。教育が受けられる。それは当たり前は当たり前じゃないと、僕自身向き合うきっかけになりました。

だからこそ今回、世の中に対してヤマチクの意思を示せたのは良かったなと思います。

お叱りや理不尽なことを言われながらも、なぜやるのか?

ヤマチクは、万人の暮らしに寄り添うためにお箸を作る会社だと、世の中に発信し、社員に実感を得てもらえた。それが一番の価値だったなと思います。

村の鍛冶屋・山谷さん:これから必要なのは、継続的な支援ですよね。なので、他の企業やブランドもどんどん真似してほしい。消費者はチャレンジする人たちを理不尽にバッシングしないでほしいなと思います。もちろん、しっかり社会の目があることは大事ですが、苦情が怖いからとアクションを起こさなくなったら、誰も声をあげられない社会になってしまいます。

企業は、大前提として雇用やサービスを守って生き残っていかなければならない。継続的な支援をしていくためにも、チャレンジする企業を見守る・応援する社会であってほしいなと思いますね。

ヤマチク・山崎:僕らは熊本地震・九州豪雨の被災によって、いかに継続的な支援が大事か身に染みて感じています。

爆弾やミサイルで学校や家、病院が次々に壊されている。食料や水、日用品が足りていない。避難した先で住む場所も見つからない人々もいる。

そんな状況が、一回の寄付や支援で解決できるはずはありません。再びウクライナの人々が日常を取り戻すまでどれほど時間がかかるかわからないけれど、ヤマチクはその日まで継続的な支援を続けます。

そのためにも、自分たちができる範囲でやる。

いつかニュースで戦争報道を見なくなる日がやってきたとしても、テレビの向こう側に辛い想いをしている人がいなくなるわけではありません。たくさんの反響をいただいた支援への情熱を、作り手も消費者も忘れずにいたい、いてほしいなと思います。


執筆/貝津美里


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