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字幕のおかげで面白くなったもの

 ジブリなら思い出のマーニー。ウォルトディズニーならラプンツェル。ピクサーならカーズ。私の好きなアニメーション映画だ。

 5年ほど前までは、アニメーション映画はほとんど見たことがなかった。唯一見たことがあって内容まで把握していたのは『火垂るの墓』くらいだ。『風の谷のナウシカ』や『天空の城のラピュタ』のように、テレビで何度も放送されている映画はたくさんあるが、好き好んで見ることはなかった。

 わたしは難聴のため、人が話す言葉を上手に聞き取ることができない。話している人の口元が見えないと、何と言っているのかまるで分からないのだ。話し手の口元が読めないなんて無音と同じも同然だ、とまでは言わないが、セリフが聞き取れてこそ、話の流れやスピード感を感じ、随所に散りばめられた伏線を集めてワクワクすることができる。視覚だけでは、映像から予測するばかりで話の内容は雰囲気でしか感じ取れず、それを1時間も2時間も見る気にはなれなかったので、アニメーションの類はずっと避けて通ってきた。

 それでも半年に1回はジブリで好きなのは?と聞かれるし、地上波放送があると、今日あれやるよねー、と職場で何かと話題になるのでついていけなかった。まして、ナウシカを見たことがないとか、魔女の宅急便を見たことがないと言うと、あなたそれでも日本人なの?という反応をされるのである。

 ある時、せっかくテレビで流れるのなら久し振りに見てみようかな、という軽い気持ちでつけたのが『となりのトトロ』である。物語が始まる時、画面の右上の表示に目がいった。字幕放送。すぐさまリモコンを手に取り、字幕表示ありに設定した。おぉ、とても分かりやすい。時間の流れや行動の経緯がとてもよく分かる。今までに何度も見てきたはずなのに、内容をちっとも理解してなかったことに驚く。

 劇中でずっと入院しているお母さんは、緊急で家族の元に電話が掛かってくるほど具合が悪いということを初めて知った。サツキが何やら電話で話しているなぁとは思っていたけれど、それがメイの行方不明になるきっかけになっていたことすら、わたしは知らなかったのだ。お母さんの病状なんて、話の中では穏やかな表情しか見られないから全然気づけなかったし、エンドロールではメイが赤ちゃんと遊ぶ様子があるから、むしろ、妊娠してたのかな、くらいにしか思っていなかった。

 アニメーション映画は話の内容が分からないから面白くない。そう思っていたのが、字幕があるだけでぐっと豊かなものになった。アニメーション映画に限らず、昔の作品だからさすがに無いだろうと思っていても、見てみると字幕が付いていることがだいぶ増えた。お昼時にやっているドラマの再放送でも、ゴールデンタイムにやっている邦画の地上波放送でも、字幕付きで見ると、あぁだからこの2人は別れたのか、などの新たな発見があるので、新鮮な気持ちで見られて美味しい思いをしている。

 冒頭で紹介したアニメーション映画も、テレビ字幕の存在を知ってから見たもので、字幕の存在に気づけなかったら、きっと今でもそれらの作品の良さを知らずに過ごしていただろう。映像をしっかり見たいのよ、と時々邪魔に思える時もあるが、いつだって字幕にはとても感謝している。わたしの生活には欠かせないものである。

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