見出し画像

【第1話】 ドタバタ!? デスゲーム

○回想・映画館
たわんN「ああ……ダメだ」

満席の映画館。
ワクワクした表情の幼いたわん(10)、虫眼鏡を片手にアニメ映画を鑑賞中。

たわん、スクリーンを指して。
たわん「あ゛!! 変だよッ変!」

周りの客、迷惑そうにたわんを睨む。
シーッと必死に牽制する母親に。
たわん「砂浜なのに足跡ない! お化けだ絶対!」

たわんN「まただ…」

たわんを抱っこして外に連れ出す母親。
たわん「あ、今んトコおかしい!」
母親「良いから…!」
たわん「右足なのに親指右にあるッ」

たわんN「また見つけてしまった…」

ーー悲鳴。

○現在・カフェ
おしゃれな雰囲気。
女子高生がナイフ片手に店員を人質に取っている。
女子高生「コイツがどうなっても良いのか!」

怯えている客達の中に、ピンと手を挙げているたわん(15)。

たわん「はい! 人質刺しても意味なくない??」

○タイトル「ドタバタ!? デスゲーム」

○カフェ・外観
たわんの声「あれぇぇえええ!」

○同・店内
レジ前、わざとらしく探し物をするたわん。
たわん「ない、ない、ない…!」
呆れている店員、浅野志郎(65)。
店員「現金でも良いですよ」
たわん「いや、動画見てたんで絶対あるはずで」
たわん、席の下などを覗き込む。
机の裏に何か貼ってある。
たわん「?」

客、来店。
店員「(客を案内しつつ)見つかったら教えてください」

たわん、ニヤッとして近くの席の女子高生、三浦みゆき(17)に声をかける。
たわん「あの〜スマホ落としちゃって。電話かけてもらえませんか?」
みゆき「え…」
たわん、頭上で合掌。
みゆき「…電話番号教えてもらえれば」
たわん「あぁ〜りがとうござっス!!」

電話をかけるみゆき。
たわんの鞄から着信音。

たわん「(ヘラっとして)ありゃ?」
みゆき「(呆れ顔で)良かったですね」

着信履歴にあるみゆきの電話番号を見て。
たわん「ありがとうございます!!」
たわんM「連絡先ゲット〜♡」

たわん「(店員に)お会計お願いしまー……」

目を見開くたわん。
たわんの眼前に突き出されるナイフ。
たわん「…ッ!?」

ナイフを持っているのはみゆき、浅野を人質に取っている。

浅野「ヒィ……ッ」
みゆき、鬼のような形相で。
みゆき「座れ」

あっけに取られるたわん。
たわんM「いつの間に」

客の一人、山吹光一(25)が恐る恐るみゆきに近づく。
山吹「ちょっと君、なんの冗談……」

その瞬間。
床にひっくり返る山吹、みゆきの早業。
山吹「…ぐほォッ!」

みゆき「座れって言ってんだろ!!」
店内に響く悲鳴。

みゆき、浅野を人質に取りながら客達へ。
みゆき「もっと端に固まれ!」
真っ青な顔の浅野。
浅野「く…苦しいぃ」

ビビって動けない11人の客達。
ぼーっと突っ立っているたわん。

たわんM「…何だ!?」

怯えている客達。

たわんM「何か…」

青ざめている浅野。

たわんM「あ…ドッキリ?」

痺れを切らしたみゆき、大声で。
みゆき「おら! そっち移動しろ。早く! こいつ死ぬぞ!」
おずおずと端の席に移動して行く客達。

客の一人、神倉かなこ(25)が机にぶつかり皿が落下。
ガシャンッと大きな音で割れる。
かなこ「ギャッ!!」

緊張感が走る店内。
店内を見回すたわん。
たわんM「来週誕生日だし」

みゆき、一つしかないドアの鍵を閉める。
みゆき「端に固まれ早く!!」

たわんM「どこかに隠しカメラでもあれば……」
天井や壁などを見渡す。
たわんM「っつかまじかー、めっちゃ恥ずいじゃん」
店内は広くはないが、奥に個室もあるおしゃれな内装。
たわんM「ナンパしてるとこ撮られたわ、確実に」
店員は浅野一人。
たわんM「最悪テンサゲ」

一人端に寄っていないたわん。
みゆき「お前もさっさと動け!」

たわん、席に移動しつつ。
たわん「ヘイヘイ、ただいま〜!」

たわん「(ニコニコと)うわーっどうしよー。怖い怖い、誰か助けてくれーえ」

たわん、席に着き、隣のかなこに挨拶。
たわん「ど〜もぉ、ウス、雷藤たわんっす」
かなこ「どうも…?」
たわん「わざわざオレのためにアザスです」

みゆき「コラそこ! 何こそこそ喋ってんだよ、痛い目に遭いたくなかったら…」

全然聞いていないたわん、反対の隣にいる山吹に話しかける。
たわん「エキストラさんっすか? すんませんね、ほんとお忙しいのに」
山吹、腹を痛そうに。
山吹「?」

みゆき「〜〜〜!!」

たわん「こういうのって、一回いくらもらえるんスか?」
山吹「え…?」
たわん「ゲッまさかボランティア?」
山吹「えっと」
たわん「いや〜マジか! 握手してください」

たわん、山吹と無理やりブンブン握手。

山吹、たわんの手を振り払って両手を上げ直す。

たわん、隠しカメラを探してキョロキョロ。
たわんM「どの番組だろ?」

たわんを睨んでいるみゆき。
みゆき「落ち着きなさすぎ、別に逃げ道ねーよ」

たわん「わぁってますわぁってます!」
たわん、観葉植物を指差して。
たわん「アレとか怪しいっスもんね〜ヘヘ」

みゆき「え、アレで逃げれんの? どうやって?」

たわん「でも案外どこにあんのかとかわかんないもんスね〜」
たわんM「すっげぇな最近は」

みゆき、近くにあったピザをナイフで突き刺して器用に頬張る。

みゆき「うん! 美味しいこのピザ」
浅野「いやぁ…ありがとうございます」
浅野、青ざめた顔を赤らめる。
浅野「密かな自慢はポテトです…!」
たわん「いいないいな、オレもオレも!」

みゆき「食べたい?」
みゆき、ピザをたわんにヒラヒラさせて。
何度も頷くたわん。
たわん「あーん」
みゆき「あっげなーい!」

たわん「(舌打ち)んだよッけちんぼ! 意地悪! ろくでなし! モテないぞ!」

みゆき、水をたわんにぶっかける。
たわん「ッ! 冷た!!」
みゆき「大人しくしてろ」

たわん、オブジェに違和感。
たわん「!」
隠しカメラ。
たわん、ニヤニヤが止まらない。

人質になっている浅野、たわんに。
浅野「刺激しないで……」

恐る恐る口を開くかなこ。
かなこ「あの、でもこの町、有名な高校生探偵いますよ……?」
山吹「あー志木くんね」

たわん「ふぇ? 誰それ知らね」
かなこ「え、知らない?」
たわん「あ〜あとで来るってことね? 伏線的な」
みゆき「残念でしたぁ」
かなこ・山吹「!」
みゆき「今FBIに呼ばれてアメリカだって。悲しいねぇ〜」

絶望する客達。
ニヤニヤが止まらないたわん、両手を振って。
たわん「はいはーい! オレ立候補します!!」

みゆき「は? 何が」
たわん「え、人質。オレ人質なりますよ?」

一同「!」
たわん、椅子の上で正座して。

たわん「(選挙演説風に)え〜私、雷藤、雷藤、たわんでございます! 私がもし人質になった暁には…」
みゆき「はい意味わかんない〜」

たわん「その方が盛り上がるっしょ、それに…」
たわん、みゆきの胸を見る。

たわん「(ニヤけて)うふふ、えへへへ、おほほほほ。だってえ〜」
みゆき「…」
たわん「(近くの客に)ねぇ! なぁ!」

スラッとしているみゆきの足。
みゆき「まさか変なこと…」

たわん「全っ然! してないしてないマジマジ」
ジトーっと見るみゆき。
たわん「ただ、若い男の方が良くない? って思っただけ」

みゆき「はぁ、なんで? 絶対お前反撃すんじゃん」
下心丸出しのたわん。
たわん「んなまさか」
みゆき「その点、こんくらいのおじちゃんの方がさぁ」

たわん、ニヤニヤとウインクして。
たわん「手加減しますって、そこんとこわかってますって」

みゆき「やっぱり…」
たわん「それにオレ、上光高校っスよ…って知ってるかそんくらい」
みゆき「知らねーよ、なおさら却下」
たわん「え〜〜! なんで!?」
純粋に驚くたわん。
たわん「将来出世したら後悔しますよ?」
みゆき「…」
たわん「くそぉ! あの時人質にしておけばって」
みゆき「うん、しないから」

たわん「もしオレが総理大臣になったらどうします? 今のうちに人質にしときゃ絶対自慢できますよ、実は昔コイツ人質にとったことあんだよねぇ〜って」

たわん、一人腹を抱えて大笑い。
みゆき「え、何、総理大臣なりたいの?」
たわん「全然? どちらかと言うと、僕さ〜ダンサーになりたい」
みゆきN「ボクサーじゃないのね」

たわん、身軽にジャンプ。
近くの机を端に寄せ始める。

みゆき「ちょ、ちょいちょいちょい!」
たわん「ちょっと見てもらおうと思って、オレのパフォ」
みゆき「ダメに決まってるでしょ」

たわんは机を寄せながら、浅野に。
たわん「音入れできる?」

浅野「設備的には…」
浅野、みゆきをチラッと見る。

みゆき「踊っても意味ないから、はい着席〜」
たわん「え〜〜! だってプロデューサーとか? 見てくれてるかもしんないじゃん! 爪痕残さないでどうすんのさ!」
たわん、涙目。

みゆき「んじゃここでアンケートとってみる?」
たわん、隠しカメラを気にして。
たわん「…いや、ここっつーか」
みゆき「はい、ダンス精通してる人〜! はぁ〜い」

客達全員両手を上げたまま。
たわん「え、全員!?」
みゆき「(わざとらしく)すっご〜いこんなに」
ムスッとするたわん。

みゆき、ナイフでたわんに指図。
みゆき「ほら、さっさと戻れ」

たわん、しぶしぶ席に戻りながら。
たわん「へいへい、でもそんくらい将来有望株ってこと! 人質、オレに代えた方が良いと思うけどなぁ〜もったいないなぁ〜」

みゆき「将来ある人ほど人質としての価値が上がる…的な?」
大きく何度も頷くたわん。

たわん「耳元であーんなことやこーんなこととか囁いてよ! おにゃがいッ」
ウフフと妄想に浸るたわん。

そぉっと上がる手。

手の主は浅野。
浅野「あのぉ〜、このままで良いと思いまーす」
みゆき「あんん?」

浅野「こんな人、人質にしたら多分うるさいですよ?」
たわん「ちょっと…!」
みゆき「ね、しなくてもうるっさいもん」
たわん「なにその言い草〜酷すぎ〜〜」
浅野「やっぱり人質ってのは、3歩前をついていくような? お淑やかで静かで紳士的な人の方が良いと思うんですよね」

たわん「3歩前をついていく…??」

浅野、咳払いをして照れながら。
浅野「例えば? ウホンッ私…? みたいなゴホンッグォッホン!!」

たわん、気付く。
みゆきの胸、浅野の背中に当たっている。

たわん「あ、なに!? 店員さんもそっち側? ねぇずるい!! 役得反対! 職権濫用!」

浅野「いやそれにね、この店のこと熟知してるので、下手に野放しにすると、反撃するかもしれませんよ?」
みゆき・たわん「た、確かに」
浅野「でしょ!?」
たわん「いやでもさ、そんなの縄で拘束しちゃえば良くない?」
みゆき「なるほど」
たわん「強盗犯さんだっておっさんずっと抱きたくないっしょ絶対〜」

「強盗犯」という単語に反応するかなこ。

浅野「あ、カチーンそれ差別。聞き捨てならん」
たわん「え?」
浅野「あのさ、さっきから黙って聞いてれば好き勝手言いやがって」
たわん「ん? どこが黙って聞いてた?」
みゆき「あのさ……」

みゆき、浅野をさらに強く締めるが。
浅野「私だって好きでおっさんに生まれて来たんじゃない!」
たわん「そりゃそうだ? まあ、生まれた時はおっさんじゃないもんねぇ」

みゆき「…状況わかってる?」
たわん・浅野「うるさい!」
みゆき「えー」
たわん「今男と男の会話してんの」
浅野「忘れもしない、29歳のあの日。初めてスーパーで子供に、おじさんって言われた」

たわん「29!? う〜わ、えげつな」
浅野「わかるか!? それから毎朝鏡見るたびおっさんになってくんだぞ、この恐怖、絶望」
たわん「そこはわかる。オレもね、一回おっさんになるのが嫌で眠れなかった夜あるんスよ」
浅野「だろ!? これからアンタも同じ道を辿っていくんだよ」
たわん「うっわ。最悪なんだけどマジで。ハゲデブになんの? こんな風に? ガチで勘弁」
浅野「それがさ、髪の後退って意外と早いの。多分ね、君もね、10年後くらいにはもう始まってるよ」
たわん「えー…」
浅野「そのくせヒゲ生えんのも早えの」
たわん「生えんの早ぇ?」
クスクス笑うたわん。
浅野「お父さんは? 髪どんな感じ」
たわん「ダメなんすよ、うち、爺ちゃんもなんス。しかも両方とも!」
浅野「あ〜じゃあもう諦めた方が良いね。私もさ、こうなる運命わかってたから、結構若いうちから警戒してたんだよ」

みゆき「(遮って)マジで刺すよ」
浅野「ひぃ…」

たわん「あ。警戒って、どんな風にすりゃ良いんスか?」
みさき「うるさいな」

みゆき、浅野の首に刃先をあてて。
みゆき「コイツがどうなっても良いのか!」
たわん、ピンと手を挙げて。

たわん「はい! 人質刺しても意味なくない??」

浅野「…え?」
たわん「だってオレ達警察じゃないんスよ? そのおっさん知り合いでもないし」
たわん、客達に「な! だよな!」と同意を求める。

みゆき「だから?」
たわん「助かるためだったら、見殺しにして逃げられるよ」
浅野「!」
山吹「確かに…」
浅野「でもそれって倫理的にどうなのかなぁ? おっさん論語り合った仲でしょ!?」

たわん「それに」
浅野「まだあんのぉ?」
たわん「人間って油でギットギトなんだって」
みゆき、軽蔑した目で浅野を見る。
浅野「え、人間全員でしょ!?」
たわん「一回刺すともう切れ味最悪で、二人目ほとんど刺せないらしいよ」
みゆき「…」
浅野「やめてよッ! ちょっと想像しちゃったじゃん」
たわん「ドラマみたいに何人切り、とかうまくいかないんだって」

ナイフを見つめるみゆき。
たわん「そもそもさ、人質に怪我させちゃうと機動力バリ下がるから、強盗犯さんにとっては不利になる。だから怪我はさせない方が得策」

浅野「え、逆にさ。人質になってもあんま心配しなくて良いってこと?」
たわん「うーんでも、この状況だとなんとも言えないっすね〜」
浅野「え、なんで?」
たわん「店員さん死んでも、代わりに僕が人質になれちゃうもん」
浅野「おい結局そこかよ、それ目的かよ!!」

照れたように頭を書くたわん。
たわん「ば〜れちった〜」

両手をあげている客達。
山吹「あの〜、ちょっと流石に手が疲れて来たんで、おろしても…?」
みゆき「ダメに決まってんだろ!」

みゆき、たわんは手を挙げていないことに気付いて。
みゆき「お前も手上げろ!」

たわん「あやべ! すっかり忘れてたアハハ、うっかりうっかり」
両手を上げるたわん。

みゆき、浅野を突き飛ばして。
みゆき「お前も余計なこと考えんじゃねえぞ」
浅野「ひぃッ!」

浅野、たわんに耳打ち。
浅野「なんかの作戦ですか?」
たわん「へ?」
浅野「刑事とか探偵とか?」
たわん「(大声で)いやいや、そんなんじゃ」

みゆき、たわんを睨んで。
みゆき「お前な、いい加減ぶっ殺されてーのか!?」

たわん「(ヘラヘラ)すんませんすんません、えへへおっかないっスね」

たわんの後ろ、こそっとスマホでチャットを送ろうとしている山吹。
ノールックで文字を打ち込んでいるが、たわんが気付いて。
たわん「あ、ここダメっすよ、地下なんで。圏外になってました」

みゆきに聞こえて。
みゆき「圏外……」
みゆき、山吹のスマホに気付いて。
みゆき「おい! お前、勝手にスマホ触んな!」
みゆき、山吹を蹴る。

山吹「――ッ!!」

たわん、蹴りの風を受けて。
たわん「すっごい風!!」
たわん、みゆきに拍手。

山吹、悶えながらたわんを睨む。
たわん「ってかさ、携帯触るの遅すぎ。もっと早く触れたでしょ、さっきの人質総選挙のときとか」
山吹「……いや最前列だったからさ」

みゆき「よォし! お前ら! とりあえずスマホ携帯スマートウォッチ、通信機器全部これに入れろ!」

たわん、軽いノリで謝罪のポーズ。
みゆき、浅野に袋を投げてよこす。
浅野、黙ってスマホの回収を始める。
恐る恐るスマホを袋に入れて行く客達。

みゆき「ノロノロすんなよ!」

スマホを袋に入れるたわん。
みゆき「隠すなよ、一生電話触れなくなるぞ」

たわん「んで、整理すると。えーっとこれはカフェ強盗?」
みゆき「…いや強盗っつーか」
たわん「あ、立てこもり?」

スマホを集め終わった浅野。
浅野「あの…終わりました」
袋を預かるみゆき、人質の方を見るがたわんがいない。

みゆき「アイツどこ行った!?」

たわんの声「っつか、カフェ強盗ってあんまり聞いたことないんスよね」

みゆき、振り返ると、店内をうろちょろしているたわんの姿。
たわんを見る一同。
たわん「あ、こういうとこもですよね、仕込めるとしたら」

たわん、鏡に指で触れて。
たわん「この指くっつけて、鏡に映った指と自分の指がくっつけば鏡確定、くっつかなかったらマジックミラーかもってテレビで見ました。すっげぇー、全っ然わかんない」

みゆき、たわんを掴んで席に投げ飛ばす。
吹っ飛ぶたわん。
たわん「いった〜〜!!」
たわん、ゴロンと転がって。
たわん「いてててて…ちょっと! 強すぎでしょ。ちゃんと手加減してよ!」

みゆき「ごちゃごちゃうっせーんだよ!」
たわん、腕に切り傷、血がツーッと垂れる。

たわん「お姉さん力強いね、本気になるのは良いけどさぁ、もっと優しい言葉遣いした方がモテるよ?」
みゆき「ふっざけんな!!」

聞いていないたわん、浅野に話しかけている。
たわん「いや、ほんとなくないっすか?」
たわん、笑いが込み上げてきて。
たわん「カフェ強盗って。設定がさ」
たわん、みゆきを馬鹿にしたように笑い出す。

みゆき「〜〜〜!!!」

たわん「だってどうせ強盗すんなら銀行の方が良くない?」
みゆき「別に……」
たわん「例えば、コンビニのコンセント無断で充電して一円分盗んで逮捕されてニュースになんのって恥じゃないスか」
沸々とみゆきの顔から湯気が出始める。
たわん「だったら銀行強盗失敗しても良いから、何千万とか盗もうとした、とか言えた方がカッコ良くね?」
山吹、たわんの椅子を蹴る。
たわん「逮捕された後もさ、獄中で他の囚人に聞かれるわけでしょ? 何して捕まったの? って」


みゆき、たわんにナイフを近づけて。
みゆき「お前良い加減にしろよ?」
たわん、みゆきの殺気に圧倒されて冷や汗。
たわん「いやいや、冗談じゃないですか〜あ」
みゆき「冗談じゃないよ、なんなんだよお前さっきから…!」

みゆきを交わすように机の上に土足で上がるたわん。
たわん、キリッとした表情を作って。
たわん「おい、立てこもり犯! お前の目的は一体何なんだ!」

しらける一同。

たわん、舞台演劇風にオーバーに。
たわん「せめて小さい子くらい解放してやれぃ!」
しらけている一同、小さい子はいない。

たわん、空気を察して小声で。
たわん「あれ、こう言うのはなんか…違う感じ? ッスか?」

たわん、咳払いをして。

たわん「大体さ〜設定ガバガバなんだよ、立てこもり犯女の子一人ってさ。オレら協力して殴り掛かれば一発KOじゃない??」

浅野「見てたでしょ」
山吹「無理だと思うゾ…」

たわんに呆れている客達。

たわん「あ、ずっと思ってたんだけどさ。もしかして立てこもり犯さんさ、実はオレの知り合いかなんか?」

みゆき、黙ってカバンから縄を出して。

×     ×     ×

縄でぐるぐる巻にされているたわん。
たわん「いいねぇ!! 立てちゃん、緊迫感出て来たよ!!」
と、小刻みに揺れている。
みゆき「はぁ? 何が」
汗だくの山吹、小声でたわんに。
山吹「頼むから、刺激するのはやめてくれ!」

たわん「ね〜じゃあ言ってもい?」
足を挙げているたわん。

たわん「まずさ、この立てちゃんが顔丸出しの時点でオレらを解放するつもりないってことじゃん」
浅野「えええ」
たわん「何が目的の設定だか知らないけど、どうなってもオレらは結局さよならエンディング」

浅野「そんな…」
悲しみに暮れる一同。

みゆき「…そうとは限らない」
たわん「?」
みゆき「(全員に)よーし! 全員そのまま後ろ向け!」

恐る恐る体を半回転させる一同。
全員壁を向く。

みゆき「さ〜てここで問題です! デデン」
たわん「お! なんか面白そう!」
みゆき「私の身長は何センチでしょう〜? 早押しクイズです! チッチッチッチ…」

考え出す一同。

たわん「え、わっかんねぇ」
たわんM「多分胸の大きさは普通だったからBだった気がするけど…」

浅野「えっと、人質の時結構膝曲げた気がするから、150センチ!」
みゆき「はずれ〜、特別に小数点以下まで合ってる必要ありません!」

かなこ「じゃ〜160!」
たわん「162!」
「155」「159」など次々に言う客達。

みゆき「時間切れ〜〜全員不正解!!」
みゆき、机を足で蹴っ飛ばす。


みゆき「正解は、158センチでした!」
悔しがる一同。

たわん「でもそれ言っちゃダメじゃね?」
みゆき「そこのうっさいの、大好きな自分のママの身長だって言えないんじゃない?」
たわん「…」

みゆき「じゃあ続いて第二問! 私の靴は何色でしょうか! チッチッチッチッチ…」

客達、こそこそと。
「これ外したらどうなるの?」「殺されるのかなぁ」「逆に当てたら…?」等どよめいている。

たわんM「胸の大きさなら…」
たわん「ね、胸囲いくつきょういいくつ?」

みゆき、靴をトントンとして。
みゆき「まぁ、今日良い靴きょういいくつだね」
たわん「は?」

かなこ、意を決して叫ぶ。
かなこ「青のスニーカー!」

浅野「いや、革靴だったような」
たわん「ハイヒールだろ」
みゆき「ハイヒールで立てこもるかよ」

思い思いに色を口にする客達。
みゆき「終了〜〜! またしても全員不正解」
みゆき、椅子を蹴っ飛ばす。

みゆきの靴、迷彩柄のスニーカー。
みゆき「正解は、迷彩柄のスニーカーでした!」

怯える一同。
素直に悔しがるたわん。

たわん「でもなんか迷彩履いてカフェ立てこもるのってなんか可愛い」
みゆき「いちいちさ」
たわん「なんかオレ、身長158センチっていうのもなんかタイプ、やっぱもっと大きかった気がしてた」

みゆき「あのね、大概ね、犯人は実際より大きめに見えちゃうの、脳の錯覚」
たわん「次! 次! 第三問!」
みゆき「残念〜〜〜! もうありませーん」

たわん「えぇ〜〜〜もっとやりたい〜〜〜!!」

みゆき、水を飲む。
シーンとした店内。

みゆきM「あれ、こんな静かだったっけ」

たわんの背中、俯いて静かに震えている。

みゆき、足でたわんを突く。
たわん、半泣き状態で。
みゆき「ええ、どうした、急に」
たわん「別に違う…」

みゆき「情緒大丈夫か、そんなに三問目やりたかったか!?」

たわん、首を横に振って。

たわん「確かに。オレ母ちゃんがどんな服着てたかすら覚えてねぇなって思って」
みゆき「…」
たわん「毎日一緒にいるのに」
みゆきM「可愛いとこもあんじゃん」

たわん「母ちゃーん…もう一回具が何も入ってない焼きそば食べたかったよぉ。牛丼という名の玉ねぎ丼、食べたかったよぉ」

しくしく泣き出す客。

たわんM「そっか、確かにもしこれが本当の立てこもりだったら」

たわん「もっと…もっとちゃんと、いつも布団干してふかふかにしてくれてありがとうって言っときゃ良かった」

切ない表情で見下ろしているみゆき。

みゆき「さっきからうるさいよ、お前…」
たわん「なんか、今ふと思い出そうとしても、親にうぜぇとか、部屋入んなとか。なんかそういう酷いこと言ってるとこしか思い出せない」

浅野・かなこもたわんを見ている。

たわん「今日朝、出かける時も。多分いってらっしゃいとか、言ってもらったと思うんだけど、ろくに聞いてなかったから、それすらわかんない」

店のクーラーの音がブーンと静かに鳴っている。

たわん「家族と過ごした、くっそどうでもいいくだらない話。何話したのか、それも何も覚えてない。こうやってオレのために手の込んだ企画してくれてんのに。もっと…もっと」

言葉に詰まるたわん。

たわん「オレ…最低だ」

みゆき「…泣き落とし作戦なんて効かないよ」
たわん「(無理に笑って)えへ、失敗しちゃった」

たわん、ハッとして。
たわんM「いや、待て待て待て待て待て待て」
たわん、隠しカメラを気にして。
たわんM「こうやってオレを反省させることが目的だとしたら、まんまと罠にハマったことになるじゃん! 最悪」

みゆき、やれやれと。
みゆき「仕方ない、第三問」

たわん、満面の笑顔で振り返って。
たわん「よっしゃ! 三問目ぃ!」

みゆき「ねえ! 何勝手に振り返ってんの!? ダメって言ってんじゃん!」

たわん「あ、ごめごめ、割と良い演技してなかった、泣きの」
みゆき「演技…?」

みゆき、失望して鞄を漁り始める。
みゆき「(浅野に)なんか、ガムテープとかない? この店」
浅野「えーっと…ガムテープですか…」
たわん「なになに?? どんな問題!?」

みゆき「ま、良いや」
みゆき、ずかずかとたわんの背後に迫り。
みゆき「よぉし。良い子だ寝んねしな」

みゆき、ナイフの柄でたわんの頭を殴る。

ドサッと床に倒れ込み、気絶するたわん。

×     ×     ×

目を覚ますたわん、店内を見回す。
スクリーンがおりていて、不気味な仮面を被った人形が映っている。
主催者「目覚めましたか…」
たわん「!?」
主催者「これから死のデスゲームを開始します」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?