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[音楽ビジネスの学校2020レポート:5]宇多田ヒカル、いきものがかりの宣伝プロデューサーが語る「聴かせるマーケティング戦略とコンテンツストーリーの重要性」
第五回のゲスト講師は、ソニーミュージックの梶望さんにお願いしました。日本のレコード会社では宣伝マンに対して「メディア担当」との対比で「アーティスト担当(アー担)」と呼び、あまり「宣伝プロデューサー」という言葉は使わないのですが、梶さんは間違いなく、音楽分野で日本一の宣伝プロデューサーです。宇多田ヒカルがデビュー以来在籍した東芝EMI(現ユニバーサルジャパン)からソニーミュージックに移籍する時に、一緒に転職しています。制作担当がアーティストと一緒にレコード会社を移る例は珍しくありませんが、宣伝担当の移籍は記憶にありません。それだけ、アーティストからも信頼され、会社からも実績が評価されたのでしょう。今回の「音楽ビジネスの学校」でも迷わず講師オファーしました。
結果は、期待以上の素晴らしい内容でした。冷静な市場分析と、現場で実際に結果を出しているリアリティは、僕も勉強になりました。
そのエッセンスをピックアップして紹介しようと思います。梶さんは音楽マーケティングを時系列で段階に分けて説明してくれました。
1:音楽マーケティング1.0 (1998)~モノビジネスの時代
消費者がCDを持つことに価値を見出していた時代、梶さんは、宇多田ヒカルのアルバムを700万枚売りました。おそらくこの記録が今後破られることはないでしょう。
デビュー前にローカルFM局で火を付けて、ガラケー向け「着うた」なども活用した「足し算のマーケティング」の様子を教えてくれました。僕にとっては既知の懐かしい話ですが、若い世代には新鮮でしょう。
2:音楽マーケティング2.0 (2010)~モノ消費からコト消費へ
消費者の主たる関心が「所有」から「体験」に移り、特に非日常的(アクティ ブ)な体験が伴う経済活動が重要になったとの指摘から入ります。
そこでは「掛け算のマーケティング」が有効とのこと、事例としてAIの「ハピネス」のコカコーラとのコラボについて語ってくれました。twitterを始めとしたSNSも巧妙に活用した施策です。
3:音楽マーケティング2.5 (2016)~マーケットはトキ消費へ
“宇多田ヒカル”でなく 作品 “Fantôme”を語らせるという宣伝戦略を取ることで、「作品の時間的価値創造」を行ったそうです。
時間が体験の中心になったというマーケティング理論は数多く語られていますが、それを具体のしかも音楽のプロモーションに落とし込んだ事例を僕は他に知りません。切れ味抜群のお話でした。
4:音楽マーケティング3.0 (2019) サブスクマーケット(黒船)の到来
ここからが、ストリーミングサービスにフォーカスした話になっていきます。
能動 → 受動 (検索しない。選ぶのはストレス)
所有 → 共有 (在庫コストの低減)
マス → パーソナル (データ/AIによるサービス最適化・細分化)
音楽を買わせるマーケティングから、音樂を聴かせるマーケティングに目標が変わったのです。発売日前に話題を盛り上げていく施策から、発売後に中心が移ります。
梶さんは、「ブランディングって何?」という問いかけに、「長く愛されること」と答えて、マーケティングタームに翻訳します。そして、可処分精神 × LTV(ライフタイムバリュー) を基軸とした新たなKPIの設定が必要だと指摘しました。
今でもCD売上に依存した経営を続けている日本のレコード会社の中核スタッフが、あっさりと言ってのけたことに感動を覚えました。
5:音楽マーケティング3.51 (2020) WITHコロナ時代の課題
コロナ禍が起こす「分断」に対して音楽ができることとしては。「究極のパーソンなライズが分断をなくす」との指摘でした。アーティストと向き合って対話をしながら宣伝戦略を考え、具体の施策にする梶さんならではなの、哲学的な発言で、こちらにも感銘を受けました。
5:音楽マーケティング3.52 (2020) WITHコロナ時代のヒット作り
学びの多い講座でしたが、僕が一番驚かされたのは、最後のパートでした。
「デジタルの世界だけでヒット曲は作れるのか?」
に対する梶さんの回答です。以前は、明確に「NO!」だったのが、考えが変わったそうです。
その例として挙げられたwacci 『別の人の彼女になったよ』の話は僕の知らない話で衝撃的でした。この曲が広まったきっかけは、You Tubeの無名のユーザーコメントだったというエピソードです。興味のある方はYouTubeのコメント欄をご覧ください。一つのコメントに対して500の返信と16万のいいね!が付いています。「オトナの仕掛け的な宣伝」の限界をしみじみ感じます。「メディアの民主化」はこんな現象も呼ぶんですね。
さて、梶さんのまとめは、「仮説」と前置きをしつつ、
サブスクマーケットにおいては パーソナライズと時間さえ制すれば デジタルだけで完結するヒットは作れる
というものでした。そして、それが「トキ消費の進化系」であると。
半年ごとには梶さんと話して、音樂マーケティングの最前線をキャッチアップしていきたいと思った日でした。ありがとうございました。
「音楽ビジネスの学校」は次回は未定ですが、継続してやっていくつもりです。他にも沢山イベント、セミナー実施していますので、peatixをチェックしてみてください!
モチベーションあがります(^_-)