第2章:コーライティングの作法1〜お金の話は最初に!
実際にコーライティングを始める前に、身に付けておいていただきたいことが幾つかあります。欧米では当然の前提すぎるので特に説明なしで作業が始まりますが、お金のことや、マインドセットのことはとても大事です。 この章では、そういったことをまとめて“作法”として、 解説していきます。楽しくコーライティングを続けるために、ぜひ身に付けておいてください。
お金の話は最初に!
INTRODUCTIONでも軽く触れましたが、コーライティングを行なう場合、印税は参加者の頭数で等分割が原則です。それ以外の分配方法だと絶対に後でもめることになるので、このことは作業前に全員で確認しておくことをオススメします。せっかく曲が出来上がって採用にまでこぎ着けたのに、分配方法でもめてしまい、その後は二度とコーライティングを一緒にしなかったという例をたくさん目にしてきました。そんなもったいないことが起きないよう に、気を付けてください。
コーライティングをやってみると分かるのですが、例えば3人で作業をした場合、それぞれのメンバーが「自分がいちばん貢献している」「自分がいちばん大変だった」と思っているものです。そうすると、各人が「50%は欲しいな」と考えていたりして、トータ ルでは150%になってしまう。この行き場の無い“50%のオーバー” は、絶対に収まりきりません。ですから、2人であれば1人が 50%、3人であれば1人が33.3%、4人であれば1人が25%と、最初 に取り決めをしておきましょう。海外では特に取り決めをするまでも無く等分割が前提なので良いですが、国内でコーライティングをする場合は特に注意が必要です。
ここで、著作権の仕組みを簡単に整理しておきましょう。
書籍『プロ直伝!職業作曲家への道』のChapter1“作曲家が知っておくべきこと”にも書いたように、日本の音楽著作権の徴収と分配の仕組みは、完成度が高く、CD不況と言われる中、著作権の徴収額は落ちていません。放送やカラオケやインターネットサイトや さまざまな場面で楽曲が使われた使用料が徴収されているからです。
JASRACやJRCなどの著作権信託団体が、さまざまな使用者から 著作権使用料を徴収し、手数料を抜いて権利者側に分配します。 CDなら6%、音楽配信(DL)なら7.7%、カラオケなら24%などと、 使用された種類(支分権)ごとに手数料率が決まっています。
大型コンペなどが行われるアーティストの場合は、作詞作曲家と 音楽出版者が1/2ずつという分配が一般的です(1/3ずつという パターンもあります)。作家事務所が介在する場合は、作詞作曲家 分からエージェントフィーを取ることになります。
気を付けないといけないのは、実際に印税を手にするまでに、タイムラグが長いことです。JASRAC等の徴収は年4回、徴収後90日後に音楽出版社に分配され、そこから作家に払われるのは60日後というのが一般的です。当たり前ですが、徴収というのはリリース されてから行なわれます。その前にレコーディング期間がありますから、作曲家が曲を書いてから、印税を手にするまでに1年以上たっているのが普通です。採用の報を聞いて、調子に乗って高い買い物をしないようにしましょう。
さまざまなケースで考える
ではここからは、幾つかのケースを想定して、お金について具体的にどう考えるべきかを示しておきます。
■ケーススタディ1:仮歌詞がメンバーにいる場合
4人でコーライティングをして、1人は仮歌詞しか書かなかったケースで、考えてみましょう。
この場合、仮歌詞が採用されれば、作詞・作曲の著作権使用料を 4人で等分割することになります。また、仮歌詞が採用されなかった場合であれば、作曲の著作権使用料を4人で等分割します。実際には採用されなかった仮歌詞であっても、コーライティングのメンバーとして認めた以上は、このような計算になります。
■ケーススタディ2:仮歌詞を外注した場合
3人でコーライトをしていて、仮歌詞を外注するというケースもあるでしょう。例えば、仮歌さんにそのまま詞も書いてもらうような時。この場合、仮歌さんには歌唱料をワンショット(取っ払い) で支払い、歌詞が採用されたら、作詞部分の印税は仮歌さんが総取 りということになります。反対に、歌詞が採用されなかったら、仮歌さんが手にするのは歌唱料だけということですね。
■ケーススタディ3:仮歌がメンバーにいる場合
仮歌の良し悪しは、デモのクオリティをかなり左右します。そのため、仮歌専門の歌い手さんや仮歌探しサイトを利用したり、仮歌のためだけのコーライティングメンバーがいるケースも結構ありま す。悪い言い方をすれば“歌しか歌っていない”ということになりますが、コーライティングに参加している以上は、当然ながら印税 が入ってきます。外注ではない分、仲間として時間をかけて丁寧なディレクション、歌い直し、コーラス等を気兼ねなく頼めるので、 結果としてはクオリティアップを望めるはずです。
■ケーススタディ4:その他を外注した場合
仮歌や歌詞以外にも、ギターを弾いてもらう、ストリングスだけ のアレンジを頼むなどを外注する場合も、ワンショットなのかコーライティングなのかを、発注する時にはっきりとさせておきましょ う。ワンショットの場合の金額は、その発注相手と交渉すればいいので難しくありませんが、コーライティングが一般的でない日本では説明が必要になります。採用時にだけ報酬が受け取れること、印税は等分割であることをしっかり説明してあげましょう。
■ケーススタディ5:トラックメイカー/アレンジャーの取り分
客観的に見て一番作業量が多いのがトラックメイカーやアレンジャーになりますが、採用されれば彼らには“アレンジ料”が支払われます。アレンジが全部任されなくても、例えばリズムトラックだけでも使われれば、“トラック使用料”としての報酬が払われま す。印税形式ではなく、ワンショット(取っ払い)での支払いが一 般的ですが、この“アレンジ料”はアレンジをした人が正当な報酬 として独占して構いません。逆に言えば、他のメンバーは「お前の トラックが良ければアレンジ代が支払われるんだから、その分、頑張れよ!」くらいの気持ちでも良いと思いますが(笑)。もちろん、 編曲もみんなでやりとりをしたし、トラックもみんなで作ったという場合であれば、ここも等分割することになります。
また、外部のアレンジャーさんにアレンジだけをお願いする場合 は、最初から「◯万円で編曲をお願いします」と条件をきちんと提 示してください。何も言わずにお願いしたら、それはコーライティングであることを意味します。どこまでがコーライティングメン バーで、どこからが外注なのかは、常にはっきりさせておくことが、 無用なトラブルを避けるコツです。
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2022年8月付PostScript
特に補足することは有りません。変更点は、本文になる著作権管理会社JRCは合併してNexToneに会社名がかわり株式上場したということくらいですね。
以前は、コンペに採用された後に、レコード会社のディレクターを中心にスタジオワークでレコーディングされるのが通常でしたが、最近は、歌詞、編曲もセットでの採用確定(ワンコーラスのデモでコンペをやる場合が多いので)→フルサイズを作って歌詞、構成、アレンジの確認とアレンジ料(トラック買取料)交渉合意→パラデータでの納品、というパターンが増えて、むしろ一般的になってきています。
つまり、アーティスト側でボーカル録音とミックスダウンをやる以外の作業は、クリエイターサイドになっているということになります。デモテープのミックスのレベルが高いと、ボーカルデータをいただいて、ミックス作業もクリエイターが行うことになりますので、いつの間にか音楽制作のイニシアティブがクリエイターサイドに移っていますね。
僕の定義でいうと、デジタル化による環境変化で、レーベルの下請けスタンスだった「職業作曲家1.0」が、音楽制作に関する実質的なイニシアティブを持つ「職業作曲家2.0」に変化しているということになります。
次の進化段階がアーティストのイコールパートナーとして貢献できるスキル、知見、経験をもった「職業作曲家3.0」の時代が始まっているというのが僕の現状認識です。
本稿のお金の話をしっかりできるのは、当然ということになりますね。
モチベーションあがります(^_-)