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Chapter6:ITイノベーターとしてのニューミドルマン <2>(クラウドファンディング、ファンクラブの未来)

『新時代ミュージックビジネス最終講義』(2015年9月刊)は、音楽ビジネスを俯瞰して、進みつつあるデジタル化を見据えてまとめた本でした。改めて読み返しながら、2021年視点での分析を加筆していきます。
アーティストと対等なパートナーとなって、音楽活動を成功に導き、ユーザーを喜ばせ、自分もしっかり稼ぐ。そんな新時代型エージェントになる方法について本章では考えていきます。

クラウドファンド活用 〜マクロ生態系の再構築

 今、日本の音楽界で一番弱っている部分は、新人アーティストの開発、 育成の分野です。
 以前はレコード会社の資金が、投資されていました。中小のプロダクションは、アーティストを発掘し、コンセプトを明確にし、楽曲力とライブパフォーマンス力を向上させて、コアなひと握りのファンをつくったところで、レコード会社にプレゼンテーションして、契約するというやり方が一般的でした。プロトタイプをつくって、投資を募るような方法です。当時は、メジャーレーベルとの契約を目先の目標設定にできました。レーベル契約が取れれば、数千万~数億円規模の投資がされ、さまざまな運営費も含めて、3 年くらいはアーティストを活動させることができるからです。数年以内に売れなければだめですが、新人育成の際 に、レーベル契約は一息つける“踊り場”のような場所でした。今は、 レコード会社に余裕がなくなったので、契約金などは取れなくなりまし た。3 年先で回収と考えてくれるレコード会社はいなくなりました。
 第四章で見たように、アメリカではこの領域のかなりの部分をクラウ ドファンドサービスが担うようになっています。


新人アーティスト向けクラウドファンド

 では、音楽ビジネス生態系の一翼を担うクラウドファンドサービスが 機能する条件を考えてみましょう。

・手数料:日本の多くのサービスの手数料は 20% です。これだとア ーティストサイドもやる気が出ませんし、ファンもしらけてしまいま す。アメリカと同等の5%+決済手数料(= 8 ~ 12%)が適切です。
・メディア力:音楽好きが集まる必要があります。音楽ファンを自覚するユーザーが集まる場所で、新しいアーティストの楽曲やメッセージ に呼応して少額でもお金を出す、そんな空気が無いと機能しません。

以下は、僕の私案です。
 ・ポイント活用:ウェブマネー普及が遅れている日本のネット上の少額課金は、ポイントが担うというのが僕の持論です。T ポイント、Pon ta、SUICA、楽天などのポイントを活用するシステムが求められます。
 ・プロの目利きの投資システムを加える:新人を売り出すためには、資金の規模が重要です。ユーザーからの資金だけで限界があるとしたら、プロフェッショナル投資も加えたいです。ユーザーから一定額集めたら、プロの目利きによるチェックを経た上で、既存の音楽出版社などが出資するという仕組みはいかがでしょう。 音楽業界からの出資と共に、コンテンツファンドなどからの投資を加え られると厚みが出ます。例えばユーザーから 100 万円、音楽業界から500万円、投資家から500万円というような形での1,000 万円以上の金額が、当たり前のようにインディーズアーティストに投資される状況が生まれると生態系が変わります。

プロのマネージャーが使いたくなるか?

 僕の中では、音楽ビジネス生態系の中で機能するクラウドファンドに 関して明確なイメージがあります。第一線のマネージャーがこれから仕掛けようと思う新人アーティストで使ってみようと思うかどうかです。 一流のマネージャーは、売れていない時期からバンドのブランドイメージは気にするので、ファンがダサいと思うサイトにアーティストを露出させることはあり得ません。一方、数百万円程度の金額であれば、自社負担でやれてしまいます。
 クラウドファンドを一流マネージャーが使うための条件は、良質の音楽ファンが集って、1,000万円以上の資金調達が見えていることです。
 既に“クラウドファンド”という言葉が、日本ではイメージとして微妙になっているかもしれません。見せ方の工夫は必要ですが、音楽、特にアーティストの資金調達に特化したクラウドファンド的な機能は音楽ビジネス生態系の再構築のために不可欠です。

新時代型FCシステム 〜ミクロ生態系の再構築

 第四章で、アメリカにあって、日本に無いものを羅列してみました。 ここには、間違い無くビジネスチャンスが眠っています。
 ただ気を付けたいのは、一昔前に流行った“タイムマシン経営”を志向しないことです。“タイムマシン経営”というのは、進歩しているアメリカで流行っているサービスを日本に持ってきて、日本語版のサービ スにすることで成功するという考え方です。
 インターネットのアクセス規制を行なっている中国では今でも有効な方法のようですが、日本では、その考え方だと“本家”にはかないません。日本で普及していない理由を分析した上で、日本に合った形に練り直して、日本人の優位性を活かした、日本発のグローバルサービスとなり得るようなモデルを考えたいところです。
 新時代型のファンクラブ構築には、大きな可能性があります。ここでは、ソーシャルゲームのやり方から学びましょう。年会費が一律5,000円というような、硬直化した制度は止めるのです。コンサートチケット販売と、CD や DVD のリリースなどを別々に行なうのではなく、アー ティストが提供できるあらゆることを一元化したプランの中で、効率よ く換金、集金するモデルをつくります。特定のファンだけを対象にした リアルイベントや、ネット生中継などのオンラインコミュニケーション を組み合わせて、ファンにとっても魅力的な制度をつくりましょう。
 新曲を発表前にいち早く聴けるなどの“特別待遇”も重要だと思いますが、 “アーティストのプロモーションを手伝わせてあげる”という発想も効果的でしょう。宣伝活動を担う、特別なファンとして公認するような仕組みです。ポスターを送って、自分の行きつけのお店に張って、その写真をSNS に上げてもらう、というような活動を、高額会員向け のサービスとして提供するのです。
 コンサート会場に VIP 席を設けたり、アフターパーティへの参加を保証するようなプレミアムな会員制度もつくりたいです。ソーシャルゲームから学ぶことは、無料会員を自然な形で有料に誘導すること、定額の会費だけでなく“アイテム課金”的なビジネスを行なうこと、高額のお金を使いたい人には気持ちよく使わせてあげることの3点です。
 また、この新時代型ファンクラブは、効率的なマネタイズだけでなく、 ユーザーがユーザーを呼び込むような仕組みをつくることが大きなポイ ントです。ピラミッド型の三角形で、底辺には無料会員が居る、フリー ミアムモデルをイメージしましょう。登録が必要な無料会員の外側が Twitter など各種 SNSでの公式アカウントのフォロワー、というような構造です。ファンクラブ限定グッズは、まさにソシャゲのアイテム課金的なマネタイズ方法になるでしょう。

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 サービス事業者としては、さまざまなアーティストを同じフォーマットに落とし込みたいという誘惑に駆られますが、ファン意識は複雑なものです。事務所やアーティストごとに、細かい美意識の相違が存在します。プラットフォームとしての拡張性と、アーティストごとのカスタマイズのしやすさを上手に設計する必要があります。裏は共通でも、表は全然違って見えるような仕組みです。ファンクラブと呼ぶ以上、アーティストとマネージャーが好んで使うサービスでなければ、普及は望めません。(次に続く)
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2021年4月付PostScript
 この章はITの話なので、2015年の記述は大昔という感じがしますね。
 本書の提言がどのくらいの人に届いたのか著者の僕には知る由もありませんが、クラウドファンディングは少しずつ一般的になり、手数料も下がってきました。残念ながら日本では、音楽系のアーティストの活動費を担う生態系の一旦というところまでは、まだ届いてないようです。デジタルサービスのトレンドも変わってきていますし、すでにたくさんある「購買(先払い)型クラウドファンド」のサービスをこれから立ち上げるのが得策とは思えませんが、音楽ビジネスが、レコード会社中心の「専属契約」への投資という形から、アーティスト個人が中心に変わっていく中、「ファンダイレクト」のファイナンスの仕組みにはまだまだチャンスが眠っていそうです。
 ファンクラブについても変化は起きましたね。従来の請け負う会社型のファンクラブ運営会社のDXでは、SKIYAKIやm-upが株式上場するまで成長しました。スタートアップではfaniconも業績を大きく伸ばしているようです。
 これからのフェーズとしては「ファンダイレクト」「アーティストダイレクト」という言葉に象徴されるような、音楽家の活動費をファンが気持ちよく、応援できる仕組みを提供する統合型のサービスがグローバルに出てくるということだろうなと思っています。ブロックチェーン技術も一般化してきている中、「コミュニティ通貨」的な発想も有効ですね。
 エンターテック分野のスタートアップを育成するStudio ENTREも積極的に取り組んでいきたい分野です。

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