見出し画像

職業作曲家の心得[11:年間100曲作る生活をする]

 プロ作曲家育成を掲げて「山口ゼミ」を始めてから講師のお願いをすることもあって、第一線で活躍する作曲家とお会いする機会が増えました。音楽事務所社長だと、仕事する時に会うだけですし、自作自演のアーティストだと職業作曲家は必要ないので、山口ゼミを始めてからむしろ、作編曲家とお話する機会が増えました。
 そこで知ったことがあります。ほとんどの成功した作曲家は、年間100曲以上のデモを作る生活を3年間以上やっていたことです。以来僕は、受講生に対して、「年間100曲デモを作る生活をする方法を考えよう」と提唱しています。

今の日常生活の中で100曲デモを作る

 日本の音楽市場は高い成長率は望めませんが、世界二位の豊かで成熟した市場です。そして洗練された様々な用途で著作権の徴収分配できる仕組みも成立しています。年収数千万円レベルの「夢の印税生活」は今からでも不可能ではありません。近年はちょうどパッケージからデジタルへの端境期で、作曲家の年収が落ちるケースも有り、特に今年から来年はコロナ禍でJASRACからの分配額も2割強減りそうです。(そのことについては前回書きましたのでこちらをどうぞ。)
 「山口ゼミ」で伝えていることの一つは、JASRACを幹とした「日本の著作権印税徴収分配の仕組みは洗練されているけれど時間はかかる」ということです。作品リリースから作家の個人の口座に着金するまで9ヶ月から1年かかります。リリースの前にレコーデイングがあり、コンペがある訳ですから、採用が決まって喜んでから着金までは1年以上あるのが通常だということです。また、印税は売れ行きや再生数などによるので、金額感の予測は難しいですから、少なくともJASRACから出版社に分配されるまでは金額の予想は難しいです。大まかに言うと、作曲家としてはヒットに繋がりそうな「大きな案件の採用」を目指すしかありません。
 そして大切なのは、今の環境(サラリーマンなら会社勤め、学生ならバイトや学校)の中で、年間100曲のデモを完成させられる日常生活を送ることです。

月に割り、週に割り、日毎と時間に落とし込む

 月に8曲作ると、年間96曲です。年間は52週なので、週に2曲ペースを守れば104曲になりますね。どちらも単純計算ですが、目標を決める時は、一旦、単純化するのは良い方法です。
 そのためにどういう生活をするのか考えることが大切です。トップライナーであれば、ファーストデモ(メロディとコードが分かるシンプルなデモ)を毎週2曲以上作りましょう。朝型か夜型、平日休日の使い方は、人によると思いますが、コンスタントに創れる日常生活が必要でしょう。
 プロ作曲家のスタンスでのデモテープの基準は「コンペ提出レベル」をクリアーすることです。現在のコンペは、高いデモクオリティが求められます。自宅でDAWでリリースできるような音源が創ることができ、海外作曲家からとても高いクオリティーのデモが出てくる時代です。10年前とは比べられないほど「コンペ提出レベル」いわば足切りされないレベルが高くなっています。そこへの有効な対策策の一つが僕らが提唱するコーライティングの活用なのです。コンペごと、ターゲットとするアーティストごとにコンセプトを定めて、コーライトするチームを組んで、同時並行で何曲も作っていく方法が有効でしょう。

クリエイターもPDCA回そう

 作曲家に限らず、クリエイティブな仕事でプロを目指している人は、頑張ってることが多いです。以前も本マガジンの中で書いたように、問題は僕から見て「見当違いな努力」をしている人が少なくないことです。
 クリエイティブな作業は、心を自由に、脳みそを柔らかく、社会的な雑事から自由になってやるものです、そのとおりです。でも自由と無駄は似ているようで違うことです。また目的地への方向性を持たない努力は、地図とコンパスを持たずに樹海の中を歩いているように迷って、堂々巡りになりがちです。
 提唱したいのは、「PDCA回す」です。「Plan(計画を立てる)→Do(やってみる)→Check(結果や効果を検証する)→Action(改善する)」というサイクルをできるだけ早く回し続けるというのは、ビジネスパーソンにとっては「いろはのい」のような概念ですが、クリエイターでやっている人は少ないのではないでしょうか?
 クリエイターに有効なことを証明してくれた作曲家がいます。山口ゼミOGでCo-Writing Farmメンバーの2人です。偶然ですが、二人共別の一部上場企業の総合職として働く女性でした。僕のアドバイスは「PDCAとか俺よりやり方は詳しいでしょ?会社でやっていることクリエイターでも徹底してやりなよ」でした。結果は大成功。見事にスキルアップし、センスを磨き、効率的にでも制作を続け、ClariSや22/7、=LOVE などのリード曲として採用されています。いつの間にかDAWスキルも向上させて、作詞作曲だけでなく編曲もするようになりました。いまやパラレルキャリア(複業作曲家)のモデルのような存在だと思います。彼女たち自身のブログがあるので、こちらをご覧ください。「楽しく効率的に創作する」という点で、参考になると思います。

 DAWとコーライティングという今日的な武器を使って、見当違いじゃない努力を続けていく、そんな創作生活をオススメします。

「コンベ提出クオリティ」を実感して、クリアするには、おそらく「山口ゼミ」は最適です。来年1月からの冬期講座募集中。オンラインで地方や海外からも受講可能になりました。


モチベーションあがります(^_-)