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音楽に関わる全ての人に有益な『ネオ・ソルフェージュ』監修しました(全文公開)

 素晴らしい本なので、是非チェックしていただきたいです。本書に僕が書いた「監修者の言葉」を全文紹介して、推薦文とさせてください!
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監修者の言葉:音楽ビジネス専攻の音大生が「ネオ・ソルフェージュ」を学ぶ理由

 この本のコンセプトである「ネオ・ソルフェージュ」は大阪音楽大学ミュージックビジネス専攻で生まれました。拙著をお読みいただいた経営陣の方から、ポップスを中心とした音楽ビジネスを学ぶコースを作るというご依頼をいただいたのがキッカケです。

 カリキュラムの骨子を作っていく際に気になったのが、「ソルフェージュ」科目の存在でした。大学卒業時に得る学士は「音楽学士」ですから、ソルフェージュを学ぶことは必須です。
 ただ、クラシック教育のフォーマットとして根付いている新曲試唱、聴音などは、幼児期からのクラシック教育を前提にしていて、ビジネスを学ぶ人にとっては、負荷が大きすぎますし、得られるメリットも限定的です。
 一方で「音楽学士」として世に送りだす以上、必要なソルフェージュ的な素養は存在するはずです。座学だけではなく、身体的に音楽を感じる能力を、音楽の専門家として身に付けさせるべきだろうと考えました。
 ミュージックビジネス専攻を立ち上げるいわば条件として、ビジネスサイドのプロフェッショナルに必要な能力、ソルフェージュのupdate=「ネオ・ソルフェージュ」講座を行うことを提案しました。
 100年以上の歴史を音楽大学に対して、チャレンジングな提案だったはずですが、ありがたいことに大阪音大本山秀毅学長には、趣旨をご理解いただいて、本書の著者である古山さんをご紹介いただきました。その成果が素晴らしいことは、本書を手に取っていただいた方にはお分かりいだだけるかと思います。

クラシックとポップスの架け橋の役割も

 古山さんがまとめ上げた「ネオ・ソルフェージュ」の草稿メモを見て気づいたのは、ビジネスを学ぶ学生にとって有意義なだけではなく、クラシック系の演奏家とポップスフィールドの音楽家の架け橋の役割が果たせるものだということでした。
 大阪音大作曲専攻卒業後に幅広いフィールド活躍してきた著者の経験が生かされているのでしょう。育ってきた出自によって音楽理論の表現の仕方は違います。比喩的に言うと同じ内容を説明するのに、英語とスペイン語くらい違ってきます。コード進行の表記の仕方はクラシックとポップスで違いますし、そもそも「和声、コード」の概念が違います。でも聴こえくるのは音楽ですから、当たり前ですが、理論より音が大切です。この本を通じて学ぶことで、出自の違いで起きがちな音楽家同士のディスコミュニケーションを回避することができるでしょう。そういう観点でも多くの音楽家に活用していただきたいです。音楽の現場では、無駄な時間が起きないことは重要です。ある程度の音楽知識がある人にとっては、アタリマエのことが書いてあるように思える本書をあらためて押さえておくことで、異ジャンルの音楽家とのコミュニケーションがスムーズになるでしょう。

マネージャーやプロデューサーに求められる「読譜力」とは?

 マネージャーやディレクターといった音楽ビジネスに携わるスタッフにとってネオ・ソルフェージュはどんな風に役に立つのか。ミュージックビジネス専攻の必修科目にした意味は、基本は音楽への理解が深まることにあります。音楽理論を通じて楽曲を捉えることは、音楽に仕事として携わる際にスタッフに最も求められる態度は客観性です。独りよがりになりがちな音楽家に対して、客観的な視点を持ってアドバイスをする際に、ネオ・ソルフェージュのスキルは役に立つのです。
 一例を挙げましょう。パソコンでの自宅作業が多くなったと言っても、生楽器の演奏を録音する機会はあります。残響を意識して空気を通した音像の魅力は、サンプリングでは再現できないことがありますので、重要な作品になるほど、スタジオにミュージシャンを呼んで生録音をする必要が出てきます。その際の共通言語は「楽譜」です。本書で詳述されているマスターリズムの意味を理解して、レコーディングの流れを理解しておくことは必須です。
 僕自身、アレンジャーやスタジオミュージシャンのマネージメントの実務経験で実感しました。子供の頃にピアノを習っていたので、譜面の基本は読めましたが、音楽界の現場で使われる譜面の表記法については現場で学んだことがたくさんあります。本書では、楽器演奏ができなくても、DTM作曲経験がなくても、音楽に携わる際に必要な基礎教養が獲得できる内容になっています。
 演奏家ではないので、細かな音符を即座に読んで弾く必要はありませんが、今、楽譜上のどこが演奏されているのか、何が起きているのかをリアルタイムに把握できるのはとても重要ですし、音楽家とコミュニケーションを取る際にとても便利です。
 リピート記号の重要性は現場で失敗しないと気づかないことが多いです。本書を読んで、会得しておくと、業界内で重宝されて、アドバンテージになりますよ。 

絶対音感と相対音感、音楽ビジネス現場で重要なのはどちら?

 本書の中でも絶対音感については触れられていますが、ポップスの現場では圧倒的に「相対音感」のスキルの方が重要です。もちろん、どんなスキルもあるにこしたことはないのですが、絶対音感については、世の中で過大評価をされているように感じています。
 日本を代表するジャズピアニストで、ショー、コンサートの音楽監督、アレンジャーとして活躍した佐山雅弘のマネージメントを20年近く務めていました。佐山さんは、子供の頃には絶対音感があったそうですが、ジャズを本格的にやり始めた大学時代に、1つの曲をあらゆるキーに移調して弾く練習を徹底したことによって、絶対音感は退化して、相対音感が発達していったそうです。耳コピの速さは驚異的で、音楽が流れていると、左利きの彼は、両手に鉛筆を持って、五線譜を斜めにして、書き写していました。もちろん一発で正確に譜面にしていきます。スピードが問われることの多いショー、コンサートの仕事ではとても役立っていました。
 アレンジャーが書いた譜面(マスター譜)を預かって、写譜屋さんに、マスターリズムとパート譜にしてきれいに清書してもらうというのが、マネージャーの重要な仕事の1つでした。PC以前の時代の話です。
 コードの流れや響きを理解することは音楽の構造を知ることですから、相対音感が重要なのは考えてみれば当たり前です。
 実は、絶対音感にも種類やレベルがあります。ピアノで弾いたら音が音名で(ソならソ)と聞こえてくるみたいな人もいますし、卓越した場合は、あらゆる音が西洋音階で聞こえる人もいます。僕の高校時代のバンド仲間で、その後プロのベーシストとして活躍した卓越した絶対音感の持ち主がいました。お酒を飲んで泊まりに来た時に「山口の家のトイレの水が流れる音がB♭なんだけど、ちょっと高く外れていて気持ち悪い」と酔っ払って言っていました(笑)。

 絶対音感がないことを嘆くよりは、ネオソルフェージュの基本を押さえつつ、相対音感を磨くことをお薦めします。

オリジナリティは、過去作品のコピーの上に築かれる

 音楽の世界では、個人の個性的なセンスやその人にしかできないと思えるようなオリジナリティが求められます。なので、音楽家は自分らしさが何なのかを、他の人にできないことを探したくなるものです。
 そんな迷走に入ってしまった時に気づいて欲しいのは、先人の作品の延長線上に自分がいるという自覚です。音楽家を仕事にしている人の9割以上は、親の勧めではありません。誰かの音楽を聴いて、天啓を受けたように音楽家を目指すようになった人がほとんどです。端的に言うと、古今東西の音楽家は、過去の作品に音楽に感動して、「人生を踏み外して」音楽を仕事に選んでいます。あなたのオリジナリティは、自分が大好きな作品達の積み重ねの先にあるのです。迷ったら、以前感動した作品を聴いてください。コピーしても良いかもしれません。心配ししなくてもあなたという身体と脳みそを通過することで、自然とあなたらしいオリジナリティは抽出されていくのです。
 グローバルで活躍しようと思うなら、みんなが注目するあなたの個性は、十中八九、日本人的なセンスです。歴史という時間、地球という空間から自分の立ち位置をイメージしてみましょう。
 そんな時にも、本書「ネオ・ソルフェージュ」は役に立つことでしょう。

DTMとコーライティングの時代の血肉となる音楽理論

 歴史的観点でいうと、デジタル革命は、音楽制作の現場も大きく変えました。かつては、プロフェッショナルスタジオとレコーディングエンジニアなしでは制作できなかったハイクオリティの音源が個人のPCでも作れるようになっています。安価で手軽に音楽が作れるようになりました。
 僕は2013年から次世代型のプロ作曲家育成プログラム「山口ゼミ」を通じて数多くのプロ音楽家の輩出に関わっていますが、卒業生によるクリエイターコミュニティ「Co-Writing Farm」のメンバーに「プロの作曲家として活動を始めるために必要な投資額」を尋ねたところ、パソコン代金を含んで23万円とのことでした。数千万円の資金と広大なスペースが必要だった時代から隔世の感があります。DTMでメジャークオリティの音源が作れる時代は、レコード会社や音楽出版社、事務所などから、個人にパワーシフトが起きています。インディベンデントな精神を持った音楽家同士が、対等な関係で共創、共作していくのが音楽創作、制作の基本になりました。個人の時代はコーライティング、コークリエイションの時代です。だからこそ、音楽家同士のコミュニケーションはより大切になっています。そして、音楽的なセンスが大切という基本は変わらず、むしろ重要性を増しています。創造性を軸に音楽家同士が「個としてつながって創る」時代に、ネオ・ソルフェージュは有益なツールです。この本が多くの音楽家のガイドブックとして活用され、音楽活動が充実することを願っています。
 同時に、作編曲家としても実力も兼ね備えた本書の著者、古山丈さんの活躍の場が広がることにも期待しています。
        山口哲一(大阪音楽大学ミュージックビジネス特任教授)

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 僕が、出版社と編集者を紹介するだけにとどまらず、「印税はいらないけど、監修者で入る」と言ったのは、初めて書籍に取り組む古山さんには、かなりのサポート、フォローが必要だろうと予測していたからでした。音大のミュージックビジネス専攻のソルフェージュの講座をベースに、UPDATEするという面倒な作業を受け入れてくださった本山学長と形にしてくれた古山さんへの恩返しとして、書籍化を企みました。
 音楽系出版社としてブランドがあるリットーミュージックで、僕が最も信頼している編集者(山口一光さん)に担当してもらい、僕がサポートして、必要があれば、補足テキストを書くつもりでいました。ところが、全くの杞憂でした。毎回のミーティングでも、3人のスレッドでも、僕が言うことは「良いと思います!」「わかりやすい!それでいこう!」「凄く良い!頑張ろう!」みたいな合いの手だけで、なんの苦労もありませんでした。
 古山さんは「ネオ・ソルフェージュ」のあるべき姿を俯瞰して理解して、構造的に捉えてうた上で、学生に必要なデティールに落とし込んでいたのです。なかなかできないことです。素晴らしく優秀な人でした。結局、僕がやったことは「ネオ・ソルフェージュ」という言葉と概念を出しただけでした。
 できあがった本書は、多くの人に有用です。有効につかわれないこともあるクラシック的なスキルを敷衍した本書が、音楽に携わる多くの人達の助けになることを期待しています。

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モチベーションあがります(^_-)