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2020年代の専属実演家契約とは?CreateOSからレコード会社が付ける付加価値を考える

アーティストがレコード契約からの収入分配を試算できるツール「CreateOS」。ストリーミング時代の利益構造を考え直すヒント
MusicAllyのメールマガジンの記事の紹介です。世界最先端の音楽ビジネスの情報がリアルタイムに手に入るMusicAlly Japanの価値は強調しすぎることはできないくらい貴重です。是非チェックしてみて下さい。さて、先週の記事からです。

アーティストのために、契約条件の仕組みや、業界の収益構造を事前に理解するために、様々な条件をシミュレーションできる、無料のツール「レコード契約シミュレーター」としてローンチしたのが「CreateOS」です。開発したのは、アーティストや音楽業界向けにCRMツールを開発するスタートアップ、CreateSafeのCEOで、アーティストマネージャーのDaouda Leonard。 「CreateOS」では、アーティストやマネージャー、業界関係者が、様々な契約条件からのロイヤリティ収入分配をテストすることができます。CreateOSの目的は、複雑化が進むレコード契約の構造とアーティストの収益モデルをアーティスト自身がより深く理解し、透明性の高い条件で契約できるように、業界構造を学ぶことを目指しています。

 現状のRecore Deal Simulator自体は、EXCELLのテンプレートみたいなもので、プロダクトとして価値が高い訳ではありません。ただ、アーティスト側とレーベル側の収益分配の話が透明性の高い形で語られるようになったことに価値があるのだと思います。
 原盤製作費(≒レコーディングに関する費用)やジャケット製作費、MusicVideoの製作費などのコストを幾らかけて、どのように回収していくのかをアーティスト自身が意識して、レーベルA&Rやマネージャーと事前に話をすることは非常に重要です。こういうツールがあることで、透明性を担保した会話が自然にできるようになるでしょう。
 これを見て、戸惑っているアーティストがまだ日本では多いようです。日本語版が欲しいとの声もあるようですが、ここにある英語は難しいものではありません。Google翻訳しましょう。ただ、言語の翻訳の問題ではなく、それぞれの用語の意味や、音楽ビジネスの構造の理解が必要なのでしょう。やる気のあるアーティストやインディマネージャーには僕がいくらでも教えてあげます。まずは、興味関心を持ってもらいたいです。

 ここで浮き彫りになってくるのは、今、レコード会社と契約することの意味です。以前と違って、レコード会社と契約しないとできないことは今はほとんどありません。高価なレコーディングスタジオを使わなくて工夫とセンスできちんとした音源は作れます。SNSを活用した宣伝には媒体費用は掛からず、時間をかけて自分がやればできることです。有名プレイリストに載せるのも自分でアタックできます。楽曲を広めるための映像も安価での製作が可能になっていますし、音楽が気に入ってくれれば、映像クリエイターに売り上げシェア型で作ってくれるでしょう。宣伝などを手伝ってくれるスタッフ(さいきんはCrewとか言いますね)も含めて、TuneCoreJapanのsplit機能を使って、配信売上を分配してもらうこともできるようになりました。テレビの音楽番組への出演やタイアップはレコード会社抜きで取るのはまだ難しいですが、そもそもの効果が落ちているので、ヒット曲になるためにマストで必要ではありません。最近僕はよく冗談で「今、メジャーデビューする合理的な理由は「親孝行」しか残ってないね。」と言います。メジャーデビューというわかりやすさが、田舎のご両親がご近所や親戚に自慢できるというブランド価値は残っている気がします。ただ、得るものと失うもののバランスが崩れないか?というのが、この話のポイントです。
 大抵の場合、日本のレコード会社は、2年程度の専属実演家契約を求めてきます。業界では「ワンショット」と呼ぶ一回限り、作品ごとの契約だと、レコード会社の中での優先順位が下がりますので、それこそ契約する意味がなくなります。その上で、大枠として2点を上げておきます。収益分配の料率設定のこれまでの「相場」が適切なのか?と専属契約を結ぶことの功罪です。

1)料率設定が適切なのか?
 日本レコード協会に加盟しているような、メジャー(グローバル視点だとインディーズなので、正確に言うとドメスティックメジャー)のレコード会社と契約する際に、出てくる契約条件は、パッケージ(CD)をベースに作られたものです。アーティスト印税は販売価格の1%、原盤印税は12〜15%が基本です。配信サービスが音源収入の中心になった時には成立しない条件です。音楽事務所の団体、日本音楽制作者連盟のフリーペーパー「音楽主義」からの転載。

 配信サービスからの収益については、窓口手数料を決めて、残りを何%ずつ分けるのか決めるのがフェアな考え方ですが、いまだに(ドメスティックメジャー)レコード会社はその考え方に乗ってきません。

2)専属実演家契約は意味があるのか?

 法律用語になりますが、「実演」というのは、歌う、踊る、演奏する、演技をする、朗読をするなど、すべての芸術的な行為を指す総称です。「専属実演家」になるということは、契約した会社の許可なしでは、一切のエンタメ活動ができないということになります。以前は、契約金やアーティスト育成金などの名目でレコード会社が資金を提供してくれたので、バイトを辞めて音楽に専念できるような条件でしたから、正当でした。近年は専属実演家契約時に専属契約金が払われるということはほとんどなくなっています。僕は法律解釈は専門外ですが、既に契約を結んでいる人でも訴訟したら、無効判決出るのではないかと思うくらい妥当性を欠く条件になっています。
 なのに、デジタル化が進み、映像コンテンツが増えたことで、専属実演家契約の影響は大きくなっています。象徴的に言うと、YouTubeに自分の動画を上げることにも厳密には、専属実演家契約に抵触する行為で、レコード会社の許諾が必要です。実際はそこまでStrictには運用されていないでしょうが、最初にレコード会社から出てくる契約書のドラフトは間違いなくそういう条件になっています。親孝行のためにどこまで譲るのか?それほどファンベースが強くない新人のアーティストだとしても、微妙な判断になるでしょう。

 私見ですが、日本と欧米の音楽ビジネスを比較した時に、最も乖離があるのは、アーティスト側のビジネスマインドの乏しさだと感じます。日本の音楽業界は、音楽家をリスペクトして、守ってきた側面も強いですが、結果としてスポイルしてしまったのかもしれないと自省も含めて思います。時代の変化に合わせた時に日本で一番変わるべきは、音楽家の意識ではないでしょうか?音楽愛のある優秀なスタッフと信頼関係を持って素晴らしい作品を作り続けるために、今の時代に欠かせないことの一つは、しっかりとしたビジネスマインドだと僕は思っています。

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