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Chapter5:新時代型エージェントに求められる専門性 <6>(異業種コラボレーション)

『新時代ミュージックビジネス最終講義』(2015年9月刊)は、音楽ビジネスを俯瞰して、進みつつあるデジタル化を見据えてまとめた本でした。改めて読み返しながら、2021年視点での分析を加筆していきます。 アーティストと対等なパートナーとなって、音楽活動を成功に導き、ユーザーを喜ばせ、自分もしっかり稼ぐ。そんな新時代型エージェントになる方法について本章では考えていきます。

異業種の企業と連携する

 この項では、これからの音楽ビジネスに欠かすことのできない、企業とのコラボレーションのあり方について考えます。
 従来から、テレビCMへの出演や楽曲の利用、コンサートへの企業 協賛などがありますが、アーティストと企業の関係は非常に遠く、型にはまったものがほとんどでした。
 アーティスト側の事情が理解できない企業宣伝部と、企業の論理に合った発想ができないマネージャーの間を、レコード会社を介して、大手広告代理店がコントロールするというやり方です。
 双方を調整する広告代理店にとっては、アーティスト側と企業が直接 コミュニケーションすることは、自分たちの存在意義が下がりますので、遠ざけておくという力学が働きます。斬新な組み方や、お互いのブ ランドをすり合わせるような展開は非常に難しい状況でした。
 旧時代の仕組みの象徴として、“テレビCM の著作権使用料免除”という慣習があります。著作権者は楽曲をJASRAC 信託する際に、この商品のテレビ CM については使用料を免除したいと届けることができるという、JASRAC が特例的に認めているルールです。レコード会社やアーティストも原盤使用料を免除するのが業界慣習ですから、テレビCM でどんなに楽曲が流れても、直接的な使用料収入は発生しないということになります。認められるのは登録時に一度だけという条件があるので、既発表曲に は適用されません。広告業界、音楽業界の人が、有名アーティストの楽 曲がテレビCM に使われると、「おー。予算かけたね!」と驚くのは、 使用料免除の仕組みが両業界の人には常識だからです。
 地上波テレビを中心としたマスメディアが圧倒的な影響力を持ち、 CD ビジネスから大きな収益が上がる時代には、そのやり方で問題ありませんでしたが、今は状況が変わっています。CD で儲からないのに、 なぜCMに楽曲を無償で提供しなくてはならないのでしょうか? 矛 盾ではあるのですが、これも「一度決めてしまったルールはなかなか変 えられない」の一例です。

お互いにメリットのある企業とのコラボの形


 企業との組み方は、テレビ CM タイアップやコンサートへの協賛だけではないはずです。お互いにメリットがあるコラボレーションのやり方は、無数に考えられます。
 新時代型音楽エージェントは、企業や商品の本質を理解して、アーティストの戦略とすり合わせる能力が必要です。
 日本でこの分野の第一人者は、トライバルメディアハウスというマーケティング戦略会社の高野修平さんです。2015 年に、ブランドを持つ企業と音楽を結びつけるための部署 Modern Age を立ち上げました。
 僕は音楽愛があふれている音楽ファン目線の彼のブログが好きで、知 り合いました。彼にとっては最初に接触した音楽関係者だったこともあり、“高野応援団長”も勝手にやらせてもらっていて、一回り以上年下ですが、尊敬できる友人です。
 高野さんに“異業種との連携”について、話を伺いましょう。


INERVIEW :高野修平

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音楽業界を拡張する 音楽マーケティングの新しい形
 2015年は、“デジタルマーケティング支援会社”トライバルメディアハウス内に、日本初の音楽マーケティング部署の“Modern Age(モダンエイジ)”が設立された年として記憶されることになるだろう。同部署を率いる高野修平氏は、“音楽を日常の国にする”ことをテーマに掲げ、 一般企業から音楽業界、インディーズバンドまでをパートナーにして、 積極的に活動を続けている。音楽愛に溢れる若き俊英に、“Modern Age” 設立の経緯と、今後の展望などを伺った。

Modern Ageの業務内容

 ̶Modern Age 設立の経緯は? 
高野 もともとトライバルメディア ハウスの中で二足のわらじを履いて いたというか、音楽の仕事と、音楽 じゃない仕事の両方をやってきました。でもふと、僕が今後やりたいのはこういう世界なんだよなと思ったんです。音楽業界の方々と一緒に音楽の素晴らしさを届けるコミュニケ ーションデザインの仕事と、音楽とは縁もゆかりも無い企業やブランドさんへのコミュニケーションデザイ ンの仕事。どちらも使う脳みそや経 験は全く異なるもので、でも共通項も多くあって、これらを融合した仕事を今後していきたい。そして、何より海外では当たり前にある音楽マーケティングのエージェンシーを作りたいと思っていました。そう考えると、個人の力にはどうしても限界があって、所属するトライバルメディアハウスの資産や武器を、もっと音楽と融合させたら、“ブランドマーケティングの未来を作りたい”とか“、音楽を日常の国にする”とか“音楽業界を拡張したい”という僕のテーマに対して打てる手立てが増える んじゃないか? そう考えて、代表と相談して設立しました 
 ̶̶ アーティストと企業のコラボは、Modern Age の守備範囲ですか?
高野 それは大きなミッションの1 つです。ただ、コラボの相手はアー ティストじゃなくても良いです。音楽サービスや音楽メディアということも考えられますから、主語は必ずしもアーティストである必要は無いと思っています。ちなみにModern Ageの具体的な業務内容は、音楽を通したコミュニケーションデザインという領域です。その下に、デジタルにとらわれないプロモーション、 コンサルティング、新規事業開発、 マーケティングリサーチ、広告、コンセプト開発、タグラインのコピー 開発という主に7つの支援領域が現状あります。

ブランドパートナーシップ とは? 
 ̶音楽業界や音楽と組み合わせやすい業種というのはありますか?
高野 ハマらないというものは無いと思います。音楽はどんなものにでも融合できるのが強みです。中でも、 海外で顕著なのはコカコーラ、ペプシ、レッドブル、スプライトといった飲料系などのブランド群です。ただ、低価格帯だけかというと、そうでもありません。車などの高価格帯もマッチします。重要なのは、ブランドと音楽を結びつけるコンテクストプランニングだと思います。
 ̶ ブランドはイメージも非常に 大事ですよね?
高野 ブランドと音楽を結びつける場合の目的では、ブランディングの側面も強いです。コンビニに行く時に、「今日は伊右衛門を買うぞ ! 」という人はまずいなくて、何となく伊右衛門や新商品を買っているわけです。その場合、ブランディングやイメージ戦略はすごく大事だと思います。だから、比較的日常的で身近 なものと相性が良いんでしょうね。
 ̶̶ 完全にコモディティ化したものも、音楽と組み合わせることで再生できるかもしれないと?
高野 世界観がハマれば、リブランディングも可能でしょう。ただ、これからはフィフティフィフティの関 係性になっていくと思います。要は、 今まで特に日本では、どちらかがど ちらかに組み込まれるパターンが多かった。CM やドラマのタイアップが分かりやすい例ですが、アーティストが組み込まれている形ですよね? でも今後は、もっと並列、かつ中長期的な関係性のもとに存在するカタチがあっても良いのかなって思います。それを“ブランドパートナーシップ”と言いますが、そういう形が増えてほしいですね。新しいブランドと音楽のスクラムのカタチ を目指していくのも Modern Age の重要なミッションの1つです。
 ̶ これまではアーティストと企業コラボは、大手広告代理店が取り持 つ大規模な形しかなかった。企業の担当者とマネージャーが直接話し合うような機会は無いから、ユーザーから遠い企画になりがちですね。でも、これだけソーシャルメディアが 普及したんだから、商品のユーザーとアーティストや音楽シーンの親和 性が高ければ、小さな規模でも効果的なことができるはず。音楽ビジネ スという観点でも、この分野はこれからとても重要になると思います。 
高野 その際に「自分たちだけに 旨味があれば良い」という感覚で双方が組もうとすると、うまく行かな い。「一緒に持ち上がった結果、お互いにハッピーだったね」という考 え方でないと、たぶんうまく行かないと思います。新しいタイアップの カタチを作る、それを僕は“レイヤーマーケティング”と呼んでいます。

物語を作れる能力
 ̶̶Modern Age での成功例がたくさん出てくると、音楽業界的にとっても大きなプラスだと思います。
高野 音楽業界とブランドを接続することができる、文脈を作ることができるというのが、トライバルメディアハウスの中にある Modern Ageの意味だと思うんです。要は、どちらの世界も分かっているから、できること・できないことを判断できるし、逆に新しい付加価値を提案するができる。音楽とは全然関係が無い多様なブランドさんとのお仕事 がメインの会社の中にあることで、有機的につなげられるものがある。 音楽を通したコミュニケーションデ ションデザインなら、Modern Ageはきっと貢献できることがある。そこが強みだし、これからも実践していきたいことですね 海外で当たり前になっている音楽マーケティングを日本でもやるんだ! という思いは設立初から持っています。誰も拓いていない道を開拓していきたい。生意気にもそんな想いです。
 ̶̶ アメリカでは、レコード会社 の宣伝部に転職するとか、よくあるそうでが日本では滅多に聞かないですね。
高野 もちろん、レーベルの方がコーラに行った方が話は早いでしょう。でも、そこで物語を作る能力というのはまた別だと思うんです。やっぱりただ両方の業界を知っている も優秀なマネージャーはマーケター だけではダメで、デジタルマーケティングとかマスマーケティング、コンテクストプランニングを分かった上でないとできない。
 ̶̶ ̶̶物語を作れる能力が不可欠だとして、音楽におけるコミュニケーションデ ションデザインはどのようなものですか?
高野 やはり1つはコンテクストを作れるかどうかではないでしょうか。ブランドコンテクスト、メディ アコンテクスト、アーティストコンテクストすべてを、どう紡いで全体 的に一貫した物語を描けるか。特に 音楽の場合はアーティスト本人に意志が存在するので、どんなに周りが言っても、本人が嫌だったら成立しない時があります。そういった場合も多いので、強度なコンテクストを作るチカラが、今後ブランド側も音楽側も求められてくると思います。

事務所の未来像
 ̶̶ そういう意味では、これまでも優秀なマネージャーはマーケターだったし、これからは、ますますそうあるべき時代ですね。
高野 まさにそうですね。これから の事務所はより一層マーケティング会社になるべきだと思います。そのためには、物語を作る能力も今まで以上に必要になると思いま す。マーケティングと言うと左脳的でロジカルな感じで、冷たい感じも抱きやすいので、拒否反応を示す人も多いのですが、結局は、素晴らしいものを届ける仕掛けと仕組みのことです。マーケティングは、心が動くものがあって初めて機能するもの です。
 ̶̶  事務所の仕事は、現状では結構 B to B の側面が強い。でもソーシャル時代の事務所は、B to C のビジネ スノウハウをもっと持たないといけないですね。コンサートの集客だけできれば良い時代ではないですから、B to B to C 的なスキルが必要です。
高野 究極な話をしてしまえば、 Modern Age がプロダクション機能を持っても良い。そういう感じで、 いろいろな垣根がどんどん取り払われていくのかもしれませんね。
 ̶̶ やはり僕の思った通り、高野さんはニューミドルマンですね。バグのノウハウも全部提供するので、 良いアーティストが見つかったら、 一緒にマネージメントもやりましょう。
高野 ぜひお願いします。楽しみです

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2021年1月付PostScript
 6年前の貴重な記事です。僕も高野君もブレずに続けていることは理解頂ける内容かなと思います。彼との付き合いはもう10年以上になります。「音楽ビジネスの学校」の紹介の中で、経緯は書きましたので、こちらをご覧ください。

 この日にも話して、ここにも書きましたが日本における企業とアーティストの関係は、まだまだ未成熟です。ユーザーとのエンゲージメントを大切にするD2Cの時代には、アーティストと音楽が果たせる役割は大きく、視点を変えれば、マネタイズチャンスがたくさんあるということです。意識改革して取り組んでいきましょう。企業とアーティストの連携はもっともっとやることがあるので僕が何ができるかを考えています。

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モチベーションあがります(^_-)