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序章:時代を変える3つのポイントを知ろう

『10人に小さな発見を与えれば、1000万人が動き出す。〜ビジネスに役立つデジタルコンテンツの話』(2015年6月刊)から

 インターネットが登場する以前は、コンテンツに対して利用者が対価を払うのは当然のこととして受け入れられていました。インターネットが広まって、無料で消費できるコンテンツが爆発的に増えたことで、消費者がコンテンツにお金を払うことに疑問を持ち始めた時に、各分野のコンテンツ産業がどのような対応をしようとしているのか?その狼狽ぶりや改革の様子には、ビジネスパーソンにとって、多くのヒントが隠されています。

 デジタル化の進展で様々な変化が起きていますが、本書では、3つのポイントから捉えていきます。

 1)コンテンツのクラウド化 = 「所有から利用」に、ユーザー行動が変わる 

 2)モノのオンライン化 = リアル社会とネットが一体化する

 3)ソーシャルメディア普及 = ユーザーの意見や行動が可視化される

 この3つの変化に伴い、あらゆる産業が、自らの役割や社会における意義を「再定義」し、ビジネススキームやノウハウを「再構築」する必要に迫られています。ビジネスパーソンも自分の役割を今の視点で「再定義」して、自己のスキルを「再構築」しなければ生き残れません。
 税理士を例にとるとしたら、以前のように税務署に提出するために勘定科目を仕分けして、帳面をつくるだけの仕事をしていたら、無料や格安のクラウド型の会計ソフトなどにとって変わられてしまうでしょう。小規模な会社では、経理専任社員がいなくても、経営者が自分で手軽に税務書類が作れるようになっています。
 一方、会計的な視点が不要になった訳ではありません。細かい作業は、できる限り効率化しても、経営者に適切なアドバイスができるベテラン税理士へのニーズは減ることは無いでしょう。税理士という資格にぶらさがっていても、将来は厳しいですが、多くの企業を見てきた経験には価値があります。デジタル化の一つの側面は、表層的なスキルのメッキをはがし、本質的な価値をむき出しにすることです。
 本書の中で、その状況を見ていきましょう。

1) コンテンツのクラウド化は、「著作権」を塗り替える

 コンテンツビジネスを語るときに欠かすことのできない著作権ですが、英語では「COPYRIGHT」です。COPYというのは複製という意味です。著作権の概念と、それに伴うビジネスは、印刷技術と共に広まっています。元来が「複製する」というとこから始まっているのです。コンテンツのクラウド化は、この「複製」を根本から覆しています。音楽の章で紹介するストリーミングサービスは、いつでもどこでもスマホなどで音楽が好きなだけ聴けるサービスですが、ここには「複製」は存在しません。
 サービス事業者がクラウド上で管理するコンテンツに「アクセス」する権利をユーザーに与えているのです。
 誰もがスマホやタブレットを持ち、常時ネットに接続できる状態の社会になると、個別のデバイスでファイルを管理する必要は無くなります。必要な時にアクセスすることができれば、その方が便利です。
 「所有から利用へ」というのは、あらゆる分野で起きている消費者行動の変化の傾向ですが、コンテンツの場合は、デジタルファイルに還元されているので、その利便性が顕著にわかります。
 ただ、これまでの法律や商習慣は、「複製」を基本に作っていますので、「アクセス権」ビジネスには、辻褄の合わないことがたくさん出てきます。今のところ、強引に「複製権でのルール」を当てはめて運用されていますが、本来は、「複製権」と「アクセス権」を組み合わせたハイブリッド型のルールを作るべきなのです。
 クラウド化は、音楽体験も変えています。気に入った楽曲を友人に聴かせるのに、以前はMDやカセットに、最近だとCD-RやUSBメモリで渡すことが必要でした。今は、フェイスブックのシェアボタンを押すだけで、友人知人に薦めることができます。サービス事業者はユーザー行動が把握できますので、データ分析から、好きなアーティストや楽曲のオススメをすることができます。このアーティストが好きなユーザーに別のアーティストを紹介するといった「リコメンデーション」の精度を高めることができるのです。


2) モノのオンライン化は、バーチャルを現実社会に融かす

 「リアルとバーチャルの融合」は、近年はIoT(Internet of Things)という言葉で表現されています。全てのモノがインターネットと繋がることで、これまでは考えられなかった体験をユーザーに提供することができます。自動車やテレビが従来の機能を超えて、新たなサービスを提供するようになります。テレビとは何なのか?商品の意味そのものを「再定義」する必要がでてきますし、企業はビジネスモデルを「再構築」しなければ生き残っていけません。
 近年注目されているウェアラブルデバイスについては、一章を割きました。ウェアラブルデバイスは、IoTの代表的な存在です。あらゆるサービスがインターネット上に存在して、それをいつでもどこでも使えるということが、新たなビジネスの可能性を生んでいます。
 「自動車が渋滞情報を知って、自動的に道を選択してくれる」「冷蔵庫の中身から、調理が可能なレシピを冷蔵庫が教えてくれる」「朝起きた時の体調を腕輪が把握し、その日の天候、気温から、オススメの服装をクローゼットから選んでくれる。」
 これらのことが、技術的には既に可能になっています。精度も上がっていくでしょう。社会的な習慣を変えたり、時には法律上の問題があったり、広く普及するのには、課題もありますが、テクノロジーが生活を変えていく、時代の流れは止まりません。
 僕らがSF映画で観てきた光景が、まもなく日常生活になるのです。


3) ソーシャルメディア普及でユーザー主導が進む

 ソーシャルメディアが普及したことで、ユーザーの投稿を誰でも見られるようになりました。レストランの冷蔵庫でのバイトの悪ふざけが、あっという間に広まって、レストランが閉店になったニュースもありました。すべての行為が可視化されたことで、これまで以上にユーザーの発言力が強まります。供給する側が何かを押しつけても、「上から目線」と拒否されてしまいます。ユーザー決定権を持つ時代の到来が、出版社や新聞社やレコード会社やあらゆるB to C企業を翻弄しています。そしてUGM型サービスの爆発的な普及が、アマチュアクリエイターのコンテンツを大量に生み出すなど、ユーザーが関与する領域がどんどん拡大しているのです。
 ITサービスの分野では、「グロースハッカー」の役割が大切だと言われています。「グロースハック」とは、仮説を立て、結果を計測、検証し、その結果をプロダクトやサービスにフィードバックするという作業を、短期に頻繁に繰り返すという方法のことです。ユーザー行動が全てを決めるITサービスにおいては、この方法が有効だと言われ、科学的に仮設を立てて、検証する役割の「グロースハッカー」の重要性が叫ばれています。事業者側が一方的に長期にわたる精密なプランを立てても、ほとんどの場合は、その通りにはなりません。サービスの基本形ができたら、ともかくはユーザーに提示してみて、反応を見ながらサービスの変更、調整を継続して、繰り返していく。このグロースハッカー的なやり方が、もっとも効果的だと言われています。ユーザーがすべてを決める時代ですし、そのユーザーの意思が、可視化されている時代なのです。

 時代はどんどん変わっていきますが、そこには一定の法則があります。僕が尊敬する田坂広志さんの著書『未来を予見する5つの法則』から引用すると「世界は、あたかも、らせん階段を上るように、発展する」そうです。社会は螺旋状に変化していきます。世の中の変化は、行ったり来たりしているように見えて、実は戻ってきた時は、同じ場所ではなく、もう一つ上の層に上がっているのだと。
 例えば、ネットオークションの仕組みは、指し値や競りで商品を購入する仕組みです。これは、市場経済が広まる前の商取引の形式がインターネットの進化によって、実現したとみることができます。eラーニングという「個別学習」ができる仕組みは、同じ年齢の人々が集団になって学ぶ国家による教育制度の前の、「寺子屋」の発展系とも言えるわけです。
 自分の持っている知見やノウハウは、時代の変化で陳腐化しているように思えるかもしれませんが、しっかりと時代の先を捉えて、意識を変れば、新しい活かし方が見つかります。

 それでは、螺旋のように進んでいく時代の次の行き先を見ていきましょう。

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<2020年のPost Script>
 5年ぶりに読み返してみて、「そうだよね」という感想ですww 僕だけに先見性があった訳ではなく、当時、デジタル化の進化を理解している人なら誰もが思っていたことが書かれています。なんか書きっぷりが熱くて恥ずかしいですが、この通りに5年間進んできているなと改めて確認します。

 もう当たり前のことになってしまって驚きはありませんが、エンタメビジネスという視点だと、「クラウド化」「IoT化」「SNSがインフラに」という3つがポイントたというのは今でも言えることだと思います。クラウド化してなければ、サブスク型のビジネスモデルは成り立ちませんし、スマートスピーカーが音楽にとって重要ですし、LINEもTikTokもSNSですし。これまで流れは加速しながら、今後も続いていくという捉え方で大きくは間違いないのだと思います。

 こんな感じで、書籍を引用しながら、自分が5年前に書いたことの「答え合わせ」をしながら、これからの5年を考えていく機会にしていきますので、お付き合いください。

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