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アンチ・コーライティング派の病理から学ぶ音楽制作の構造的変化〜オープンイノベーションと芸能界の相克

 自立したクエリエイターが、個人として結びついて、音楽創作/原盤制作を行うCo-Writeという手法。欧米では一般的なやり方を日本に普及する活動を伊藤涼を一緒にやってきました。少しずつ知られるようになり、4〜5年前からコーライティングや関連する活動を批判する人たちが出てきました。その人達からの攻撃は、病巣を表すリトマス試験紙になってることに気づき、時代の転換点を示しているのかなと思い、本稿にまとめています。

 <本稿の概要>
・アンチコーライティングの2つのグループ「既存の作曲家」と「音楽出版社の国際部」
・「ブラックボックス化」ビジネスをしてきた人の「オープンイノベーション型活動」への反発
・グローバル化とデジタル化と民主化による必然的変化と守旧派の抵抗
・これから始まるコーライティングをテコにした日本音楽界の活性化

 コーライティングに反対するアンチの人たちには、大きく二種類ありました。

 1つ目は、自意識の強い既存の作曲家達です。批判の具体的な中身は論理的でないので紹介は敢えてしませんが、皆さん似たようなポジショニング、キャラクターの人たちだったのが興味深い現象でした。言葉を選ばずに言うと、僕から見て「自分のことを頭が良いと思っている、それなりに活躍しているけれど、一流になりきれない」作曲家達でした。情報感度は良いので、コーライティングの動きはチェックして気になるのでしょう。そして、自分にメリットが感じられない動きが生理的に嫌だったのでしょう。創作の一手法でしかなくて、興味ないなら放置すればよいだけなのに、激しく批判する彼らの心象風景は僕には簡単に想像できました。「自分は才能があるのだからもっと報われるべき」と、不当に評価が低いという感覚が常にあるのです。興味がなければスルーすればよいだけなのに批判したくなるのは、そんな負の感情のマグマからでしょう。実は、このタイプの人達が名実共に一流になれない理由は、音楽に対する向き合い方に真摯さが足らないからなのですが、なかなか自分で気づくのは難しいようです。作曲家だけならともかく、サウンドプロデューサーのような立場になると、人間的な器の大きさが求められます。このマインドのままだと、様々な人の立場を理解して、時には清濁併せ呑むことが必要なプロデューサー業は頼まれないのです。3〜4年前に多かったブログやTwitterでアンチコーライティングの言説を吐いていた作編曲家に、その後自分のステータスをUpできた人は居ないはずです。マネージメントの仕事をしているとたくさんの音楽家と付き合うので、長所短所や本人自身が成長を阻害する要因には敏感です。音楽のセンスはあり、努力もしているのに一流になれないのは、人間としての器量に起因する場合が多くて、もったいないなぁと思います。

 アンチ・コーライティングのもう一つの厄介な人たちは、大手音楽出版社の国際部やその周辺で仕事をしている方々(の一部)です。この人達は、いち早く海外でのコーライティングに関与していました。その情報や人脈を「ブラックボックス化」してきた人たちですから、僕たちのオープンなやり方は、気に入らなかったのでしょう。反発したくなるのはわかります。
 僕らは、プロセスや結果を情報公開しながらコーライティングキャンプを定期的にやり続けています。創作に適した環境を持つ神奈川県真鶴町の協力で行ったクリエイターズキャンプ真鶴はまさにオープンイノベーションなやり方でした。その場で作られた楽曲の試聴会は、(録音は禁止にして)公開で行いました。町民の方もお招きして、町長の乾杯で懇親会を行いました。アーティストと作曲家によるコーライティングや、プログラマーとの音楽家のハッカソンなど、クリエイターの創造性をリスペクトした企画を継続的に行っています。

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 コーライティングという手法をブラックボックス化することで、自分の立場を強めたいと思っている人たちにとっては、許しがたい所業だったのでしょう。その結果を音楽業界内で情報共有しようする動きには対しては横槍が入りました。僕も業界経験はそれなりに長いので、障害があれば無理せずに迂回する方法は知っているつもりです。無駄な諍いは極力避けながらここまでやってきています。日本唯一の公式国際音楽見本市であるTIMMのセミナーで伊藤涼が登壇する際に、怪文書まがいの妨害があったのには、さすがに驚きました。賢明なTIMM事務局がスルー力を発揮してくれてありがたかったです。LAで頑張っているヒロイズムを呼んで、アメリカ人とカナダ人とステージ上でリアルタイムにコーライティングする様子を伊藤涼ディレクションでお見せして、エイベックスアーティストYup'inがその楽曲を翌日のショーケースライブで歌うという画期的な企画が成立させられてよかったです。守旧派は執念深い方が多いようで、会ったことも無い人が、僕を人格攻撃していたことも耳に入っています。そういう人たちは自分の属する組織の中でも「コーライティングのことは自分にしかわからない」とマウンティングしているのでしょう。愚かなことです。

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 TokyoInternationalMusicMarket2018での公開セミナー。その場で実際に曲を作り翌日ライブで披露するという画期的な内容でした。

 この件に限らず、日本の芸能ビジネスでは、歴史的に言っても、情報をコントロールして、格差を作り、ブラックボックスにして利権化するということで成立してきました。巧妙にその構造をつくるのが収益の源泉でした。僕も業界人の端くれとしてその構造、パターンは知っているつもりです。というか僕の身体にも染み付いていたと思います。情報やノウハウをライバルも含めて公開することでイノベーションを加速して、その結果でメリットを得ていくという「オープンイノベーション」のやり方を、頭で理解しても身体になじませるのには時間がかかりました。その転換をできたことが僕が日本のエンタメビジネスで貢献でき得る源泉だと個人的には思っています。
 この「オープンイノベーションと芸能界の相克」は大きなテーマなので、稿を改めて書きたいと思いますが、いずれにしても芸能ビジネスを長年やっている人にとってオープンイノベーション的な手法は受け入れがたい忌避したい動きなのです。ところが現実は、音楽ビジネスもグローバルでの競争となっていて、今はこれができないとスピード感も追いつかず、グローバル世界に対応できず、どんどん弱体化していきます。音楽創作/原盤制作においては、クリエイター・イニシアティブ=音楽家が自己責任で行う音楽活動が、オープンイノベーションと同期しています。

 情報がフラット化して、誰もが等しく持ち得る世の中で、音楽家たちがインディペンデントに自立した上で繋がって、素晴らしい作品をつくりマネタイズしていく、そんな世界でビジネスレイヤーにいる僕達スタッフ側は「どんな価値が付けられるのか?」が突きつけられています。スーパープロモーターになって誰よりも楽曲を広めるのか、関連法規を熟知したエージェントとして辣腕を奮うのか、音楽家よりも音楽に詳しく映像やTECHにもアンテナを立ててクリエイティブプロデュースをするのか、ユーザーと音楽家を結びつけるサービスを作るのか、様々な可能性がありますが、日本の音楽業界という村の中で安住しているだけの人に、音楽家たちは関わる意義を持たないでしょう。

 一方で音楽家側も意識変革が必要です。ギョーカイという村社会に守られ(スポイル)されながら、信用できるオトナの言うこと聞いて音楽のことだけ考えて創っていくという「昭和の仕組み」では、ハッピーにはなれない時代になりました。コーライティングの普及は、そういう社会環境の変化が呼んでいることであると同時に、そういう環境を促進していくエンジンの役割も果たすのです。

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スウェーデンの大御所プロデューサーDouglass CarrとCWF、エニゴーとの東京でのコーライティングセッション試聴会での記念写真。ノリも最高の人格者でした。さすが一流の音楽家です。「Music is universal language」との名言は感動しました。

 オープンイノベーション型のコーライティングは日本でも市民権を得て、経産省も支援をすると言ってくれています。VIPOという経産省系助成金窓口になっている団体の幹部の方に、アジア各都市で現地の作曲家と日本人作曲家の合同キャンプ企画を相談したところ、「山口さん、もっと早く言ってれればよかったのに」と言われましたww 今年はコロナ禍で延期を余儀なくされていますが、来年からアジア・パシフィックの3〜4都市で、現地と日本人作曲家のコーライティングキャンプを3カ年計画でやるつもりです。興味のある方はご連絡下さい。試験的に昨年台湾で行ったキャンプの詳細はこちらにまとめています。

 どう見てもダサいのに敢えて、僕が「日本のコーライティングの本家です」と旗を掲げているのは、日本で定着する前にフィロソフィーが変質することを防ぐため(コーライティングした時の印税は参加クリエイターで等分するのが国際標準です。実績がある作家が取分比率を多くするようなルールは是非やめましょう!と改めて呼びかけておきます)と、反対派の人にムーブメントを潰させないためです。

 僕がコーライティングの普及を推進するのは、日本の音楽シーンの活性化にプラスになるからで、自分の利権化をするためではありません。実際、台北キャンプで作られた曲が日台で何曲かリリースが決まりました(素晴らしい!)が、僕にフィーは全く入りません。そもそもキャンプのオーガナイザーも渡航宿泊費を出してもらっただけで無償でやっています。国際間で面倒な出版権のルール設定、整理は既存の業界慣習を踏まえて最初にしました。オープンイノベーションを掲げての活動は、自分を取り巻く環境を活性化して、2〜3歩先で自分の利益を取りに行くような動き方になります。僕は日本の音楽界が活性化すると必ず自分にもメリットがあると信じているので、単にボランティアでやっているつもりはありません。むしろ、日本の音楽界がこのままジリ貧になることに危機感を持っています。

 僕たちがおおっぴらにコーライティングを語り始めたのは「山口ゼミ」を始めた2013年からですが、創作の一手法に過ぎないのに、継続的に良曲ができるだけでなく、ムーブメントになってアンチの人の病理を炙り出すリトマス試験紙になったのは面白い現象ですね。

 エイベックスの創業者が「コーライティングによるゲームチェンジ」を語り、経産省がオープンイノベーション型の国際キャンプを支援する2020年に、アンチだった人たちは何を言い出すのか、ちょっと意地悪な気持ちで眺めています。「君子豹変す」なら喜んで歓迎します。「罪を憎んで人を憎まず」ですから、是非、一緒に日本の音楽界を活性化させていきたいです。

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コーライティングについて知りたい、学びたい方はこの本をどうぞ。電子書籍もあります。


モチベーションあがります(^_-)