見出し画像

第五章:個へのパワーシフト-3-重要性増すデジタルマーケティングとデータ分析(期間限定公開)〜『音楽業界のカラクリ』サポートページ

 近年、データ分析をもとにランキングを作成するビルボードジャパンランキングの影響力が高まってい ます。デジタル化によるユーザーの行動の可視化で、デジタルマーケティングの重要性が増しています。

オリコンランキングの形骸化

 CD時代はヒット曲の指標は、オリコン週間シングルランキングでした。オリコンはCD店頭での日ごとの売上を独自の手法で調査、ランキングを作成していました。オリコンランキングの上位に入るとそのことが話題になり、マスメディアに取り上げられて、注目度が上がっていくというのがヒット曲の循環でした。
 以前のCD発売日が水曜日になっているのは、月曜日までのデータで集計するオリコンランキングに最も 有利な曜日だからです。火曜日が着店日で、熱心な ファンは、火曜日の夕方にCD店に足を運んでくれました。レコード会社はオリコンランキングを上げるために腐心していました。初回特別盤といってDVDを付けたり、タワーレコード、HMV,TUTAYAなど それぞれチェーン別の購入特典を付けたりという「工夫」は、同じ楽曲のシングルCDを複数枚購入してもらい、オリコンランキングに反映させるためでした。

 この手法を最大限活用して、オリコンランキングを 「ハック」したのが秋元康氏プロデュースのAKBグループです。グループ中央に立つメンバーをユーザー投票で決める「総選挙」の参加券を封入することで、 投票数をたくさん持ちたい熱心なファンは、数十枚と同じCDを購入しました。握手券という「体験」を付与することで、楽曲を聴くためのCDという概念を超えました。結果として、オリコンランキングは、人気の ある曲のランキングではなく、熱量の高いファンがたくさんいるアーティストのランキングに変わっていきました。毎回同じような顔ぶれが上位に並ぶためランキングとしての魅力がなくなり、ヒット曲のランキングとしては形骸化していきました。2010年度の年間ランキングは、AKB と嵐だけで占められ ています。ユーザーに支持された楽曲順位でないことは一目瞭然です。

デジタルマーケティングの時代に

 ビルボードジャパンランキングは対照的です。ユー ザーの嗜好を知ることにフォーカスしたビルボード は、CDの売上は要素の一つで、ラジオのオンエアー回数、YouTube でのMVの再生回数、Twitter 投稿数などを独自の方程式で計算し、その時点で最もユーザーから支持された楽曲というのをあぶりだしていきまし た。象徴的なのはルックアップという要素です。CDをPCに読み込んだ際は、楽曲関連情報CDDBとい うデータベースに自動で取りに行く設定になっています。ルックアップはこのCDDBへのアクセス数のランキングです。この情報があることで、複数枚購入者をマイナスとして反映したり、逆にレンタル数をプラスで見たりすることが可能になるわけです。このように精緻なユーザー動向を追ってきたビルボードランキ ングが影響力を増していったのは自然なことでした。 ビルボード・ジャパン社は、マーケティングデータとしてレコード会社などにデータの分析販売も行ってい ます。

 音楽消費がデジタルサービス上に移行したことに よって、ユーザー行動はすべて可視化されました。流行もヒット曲もデジタルサービスから生まれますから、デジタルマーケティングの重要性が格段に増しています。
 イギリスの調査会社MIDiA ResearchのKeith Jopling は、2022年3
月に、「これから数年間で、音楽における大きな成功は、マーケティングテクノロ ジーから生まれるだろう」と述べています。音楽とテ クノロジーの関係はますます深まっていくことでしょ う。グローバル市場となった音楽業界にとっての海外 ユーザーの興味喚起の方法としても、ランキングは効果的な入り口です。


音楽マーケティングの新潮流

 日本でもようやく音楽デジタルマーケティングの新 しい動きが出てきています。
 MusicAllyは2002年に元ミュージシャンたちが ロンドンで設立した音楽マーケティングに特化したコ ンサルティング会社で、世界最先端のマーケティング 情報を持っています。2019年に日本法人が設立され、世界の音楽ビジネスとデジタルマーケティングの最新情報やノウハウをまとめたニュースレターの配信、オンラインパネルトークやウェビナーなど積極的に活動しています。日本語で音楽マーケティングの最新情報が得られる ことで、日本の音楽界の底上げに貢献しています。

 マーケティングサイド側からのアプローチとしては、Modern Ageがあります。SNSを得意とする広告代理店トライバルメディアハウス内にあるマーケ ティングレーベルです。エンターテインメントに特化したプロ集団として打ち出しています。
 2021年11月には、トイズファクトリー共同プロジェクトとして次世代クリエイター育成する「INTRO (イントロ)」を設立しました。プロジェクト発足に合わせてアニメーション制作チーム「擬態するメタ」が 所属するなど、従来の枠組み、領域を超えた新たな音楽ビジネス活性化の試みとして注目されています。

 音楽マーケターの育成は、筆者も関わる音楽マーケティングブートキャンプが2021年10月から始まり ました。五ヶ月間の中で、音楽に特化してデジタル マーケティングのノウハウを学び、後半は実際のアーティストのマーケティングを立案、実施しています。 第8章でレポートを寄稿している脇田敬大阪音大教授を中心とした音楽業界の内側と連携したプログラ ムです。修了生は、音楽マーケティングラボ(MML) というコミュニティを作り、継続的に音楽マーケティ ングに取り組んでいます。
 このようなデジタル時代に適応した音楽マーケティングの取り組みは、今後、音楽ビジネスに関わる人にとって必須習得スキルとなることでしょう。

関連投稿


モチベーションあがります(^_-)