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AWAの聴き放題ARTISTプラン270円が安すぎる件について

 AWAが新しいアーティスト単位で聴き放題になる「ARTISTプラン」を始めました。浜崎あゆみ、AAA、倖田來未といったエイベックスの主要なアーティストが参加していますし、非常に可能性のあるサービスだと思います。AWA自体もユーザー数では伸び悩んでいるようですが、良質のサービスです。プレイリストが作りやすく、アプリもサクサク動きます。おそらくはサイバーエージェントの開発ノウハウが注ぎ込まれてるのでしょう。プロダクトとしてのクオリティは高いと、リリース当初から注目していました。
 そう思いながら詳しく見てみたら、月額270円という安すぎる料金に驚き、落胆しました。何故、アーティストの価値の毀損に繋がりかねない安い値付けをするのでしょうか?

 ●AWAが“1アーティスト聴き放題”の新プランを公開 浜崎あゆみ、AAA、倖田來未などでライブ優先予約や限定メッセージ配信なども
     https://realsound.jp/tech/2019/04/post-348383.html

 そもそも、日本でのストリーミングサービスの月額金額は安すぎます。Spotifyがサービスを開始する時に、世界一のシェアを持つレーベル、ユニバーサルミュージックと話し合って定めた基準は、iTunes StoreのeAlbum1枚分の金額を月額料金にするというルールだったと言われています。
 各国でこの基準で欧米では、9.9ドル/ポンドが月額料金になっています。この基準で言うと、日本では1500円前後の値頃が目安になります。実際、Spotifyは月額1480円にするつもりでサービスを準備していました。ところがレコード会社側が、高すぎるとの意見で、980円になっています。

 もちろん、日本はCDが高すぎるという見方はできると思います。アルバムが3000円に対して、アメリカでは9〜12ドルですから、2.5倍以上の金額になっています。せっかくの、そういう市場の価格をレコード会社側が自ら壊す理由はどこにあるのでしょうか?
 そもそもサブスクリプションビジネスにおいて、pricing(値付け)は最も難しく、かつ重要なマーケティングの要素です。権利者側に発言力があり、配信事業者が一方的に値付けできない音楽ビジネスのメリットを活かしてないことが残念でなりません。

 間違った判断をしてしまう理由について、僕は2つのことが透けて見えます。

 1. i-mode公式サービスの成功の呪縛
 スマホの前のガラケー時代は、NTTやKDDIなどの通信会社がその内容を担保してユーザーに提供する、公式サービスが全盛でした。ジョブスは、i-modeとソニーのウォークマンから今のアップルの音楽サービスを考案したと言われるほど、よくできた仕組みでした。類似サービスの乱発は認めず、ユーザーはTOP画面からディレクトリー型でサービスを選びます。着うたという音楽配信サービスが大きな市場となり、レコード会社が主導した「レコチョク」というサービスがシェアの7割以上を占めて高い収益率を誇りました。YouTubeのMusicVIdeoと着うたの組み合わせで、新しいタイプのヒット曲も生まれました。
 この時が月額料金は300円〜500円だったのは、キャリア会社の基準でした、i-modeはファンクラブなど他のサービスも行い、低い手数料(10%以下)で、債権回収までキャリアが受け持ってくれる権利者にとっては夢のような生態系でした。(老獪なジョブズは低い料率だけは真似せずに、アップル手数料は30%でコンテンツ事業者を苦しめているのはご存知の通りです)
 この経験が、「日本のユーザーの月額課金は300円程度が適切」という根拠のない確信を呼んでしまっている気がします。imodeはあくまでNTTの通信網の中に閉じられた仕組みです。インターネットに開かれたスマホサービスと料金の基準が同じではありません。適切な料金設定について、音楽業界側がもっと敏感かつ巧妙であるべきでしょう。

 2. レコード会社が音楽ファンを信じていない

 「音楽は無料ではない」と、違法ダウンロード撲滅を訴え、法律における罰則化まで音楽業界は求めて、実現しました。僕はこの法律自体は賛成です。議員の方にお会いする機会があれば、音楽業界人の一人として立法実現のお礼を言うようにしています。ただ、罰則を強化しても売上は増えません。業界のエネルギーの方向としては、立法化が一番の方法とは当時から思っていませんでした。
 僕が問題だと思うのは、デジタル化が進んでいる中で、レコード会社が音楽ファンを信じていないというメッセージがでてしまっていることです。思い出したくない「コピーコントロールCD」導入もありました。業界をあげてレコードから転換したCompactDiscの規格をはみ出してノイズデータをいれてコピーをガードしようという、しかも全然ガードは不完全、という悪夢のような出来事でした。
 音楽が人生の一部に、生活の中で無くてはないものになっている人を音楽業界は大切にしなければいけません。CDバブル(今となってはバブルと言うべきでしょう)の時代に、TVCMやドラマの主題歌で聴いた曲を、音楽ライトユーザーが購入して何百万枚とCDが売れました。その成功体験がレコード会社の呪縛になっているような気がします。まさにエイベックスはミリオンセールスの象徴でしたからやむを得ないとも思います。

 しかし、今こそ音楽業界は、i-mode公式とCDバブル、2つの成功体験の呪縛から解き放たれるべきです。

 アーティストがベースに居る音楽ビジネスでは、ユーザーとのエンゲージメントが最も重要です。このエンゲージメントの濃さを活かすして、企業とのコラボなどをSNSで展開していくのがこれからの音楽ビジネスの柱の1つです。音楽ファンを信じず、音楽の値付けを下げていくレコード会社は、アーティストにとってどんな存在意義があるのでしょうか?
 
 音楽業界の発展は音楽ファンと共にしかありえない、ということを改めて考えていただきたいです。そして若い起業家たちは、ここにビジネスチャンスがあると思ってほしいです。
オトナたちがつくった仕組みは、時代とずれてしまい、新しいサービスが待望されています。 昨年11月に設立したエンターテックをテーマにしたスタートアップスタジオVERSUSは、エンタメ分野で起業を志す人達と一緒に新しいサービスを作っていく場です。興味のある人は、ご連絡ください

VERSUS公式サイト


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音楽プロデューサー/エンターテック・エバンジェリスト/「デジタルコンテンツ白書」(経産省監修)編集委員、スタートアップスタジオ株式会社VERSUS代表取締役。 プロ作曲家育成「山口ゼミ」「ニューミドルマンラボ」主宰。『新時代ミュージックビジネス最終講義』ほか著書多数。
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