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第3章:コーライティングキャンプ事情1〜キャンプの実際

2015年4月刊行の『最先端の作曲法・コーライテイングの教科書』(リットーミュジック)は、日本におけるコーライティングムーブメントを予見し、牽引する役割を果たしました。2022年視点で読み返し、世界のクリエイターが取り組み続けているコーライティングの意義と改めて解説します。

 欧米では、コーライティングセッションやコーライティ ングキャンプという企画が、ひんぱんに催されています。 それはいったいどのようなものなのかを、この章でひもといていきましょう。また、僕達が初めた日本初(?) のキャンプ、IZU Co-Writing Campの模様もお伝えすることで、クリエイターにとってのキャンプの意味も見 えてくるのではないかと思います。

キャンプ or セッション

 欧米では一般的な作曲法であるコーライティングを、日本人クリエイターにも試してほしい。僕たちはそんな思いで本書を書いているのですが、実は現地ではことさら、co-writingというような言い方はしなかったりします。概念としてco-writingというものは広く共有されているけど、わざわざ口にはしない、そんな感じでしょう か。
 だからコーライティングセッションのことは、song writing sessionとか、単にwriting sessionと言うだけだったりします。コーライティングキャンプであれば、song writing campという感じです。 それくらい、欧米ではコーライティングは普通のことなのだと言え るでしょう。
 ちなみに、コーライティングキャンプとコーライティングセッションの違いは、大雑把に言えば泊りの合宿形式かそうでないか、ということ。欧米でのコーライティングの実際を知るために、この 2つのコーライティング法を見ていきましょう。

■主催者はだれ?

 キャンプであれセッションであれ、必ずそこには主催者がいま す。よくあるのは、クリエイターが企画するというパターンですね。 欧米の場合は自分で出版も持っているビジネス感覚に長けたクリエ イターが多く、そういう有力なクリエイターが、抱えているアーティスト向けの曲を集めるためにキャンプやセッションを主催するという形です。あるいは、音楽出版社がテーマを設けて主催するという 場合もよくあります。あとは音楽出版社が後ろに控えていて、そこ に関係のあるクリエイターがリーダー格で主催するというケース も、多いですね。
 いずれにしても、何らかの形で音楽出版社がかかわっているわけです。逆に言えばこれは、ある程度 “出口” がはっきりしているということでもあります。“こういうアーティストに曲を提供できる” ということが見えていないと、優秀なクリエイターは集まってくれ ませんから、これは当然と言えば当然ですね。有名プロデューサー やA&Rがゲスト参加するようなことも “売り”になるので、それなりにコネクションがないと、コーライティングキャンプ/セッ ションを主催することは難しいと言えるでしょう。

コーライティングセッションの実際

 セッションは、イベント性などはあまり盛り込まれておらず、作曲という作業を重視したものになっています。
 スタジオだけが用意されていて、参加者は勝手に好きなホテルに 泊まり、食事も好きなところで摂る。“◯時集合、◯時解散”という感じで、主催者側としても気軽に企画ができるというメリットが あります。
 ロケーションとしては都心部が多いですが、ちょっと郊外であっても、ホテルを自分で取る場合はセッションに分類できると思います。基本的には、参加者の1人のスタジオ(音楽出版社のスタジオ の時もあるし、個人の自宅スタジオの時もある)に集まってセッショ ンをします。クリエイター同士の面識が無かったり、海外からのゲストだったりするとブッキングは音楽出版社がすることが多いのですが、仲間のクリエイター同士が「ちょっと紹介するよ!」的な感 覚で集まってしまうこともあります。そういう時は、音楽出版社は出口だったり契約に関してフォローアップする役割になります。時間的には3時間~8時間くらいが一般的。ファーストデモだけ作ってあとはネットで、ということもあるし、がっつりトラックまで仕上げるって場合もある。その時のメンバー次第で臨機応変に行ないます。人数もまちまちですが、2人か3人がほとんど。たまに多くのメンバーがブッキングされているときがありますが、そういう時ほど面子のレベルが低かったり、出口がはっきりしていない時が多いように思います。
 出来上がった曲をレーベルA&Rやアーティスト側に聴かせることを“ピッチング”と言いますが、メンバーの契約する音楽出版社がピッチングをしたり、個人でピッチングしたりと、比較的ゆるい感じのことが多いです。これもセッションの最初に、“どのアーティ ストをターゲットにするか?“ ”どのマーケットに向けて作るか?” などの話し合いをするところから始めることが大事になってきます。
 あとは、あるアーティストが曲を探しているとか、コンペがあるという情報があると、クリエイター同士が「やらない?」と誘い合って自発的なセッションが発生することもあります。この場合は出口がはっきりしているので、そこに向かって行くだけとなります。

コーライティングキャンプの実際

 セッションに比べてキャンプは、いろいろ盛り上がる企画も用意されていて、ちょっと“お祭り”のような感じがあります。
 みんなが同じホテルに泊まり、送迎バスでスタジオとホテルを行き来し、食事はケータリング。20人以上のクリエイターが、そうやって同じ時間を過ごすことになるのです。費用としては、キャンプ参加費、ホテル代、食事代がワンパッケージになっています。
 時期的には春先から夏にかけてが多く、ギリシャの島にあるスタジオだったり、スウェーデン郊外のオーシャンビューのスタジオだったりと、魅力のある場所を選ぶのも主催者の腕の見せどころで す。メンバーは、主催者の地元国はもちろん、ヨーロッパ各地から いろいろなバックグラウンドのクリエイターがバカンスを兼ねて集 まってきます。この時点でみんな、既に普段のテンションとは違っ てくるわけですね。
 そして、例えば3日間のキャンプであれば、1日目夜:試聴会、2日目夜:試聴会、3日目夜:パーティといった感じで、要所要所でイベントが挟まれ、さらに盛り上がりを演出します。しかもパーティにはスポンサーが付いていて、お酒は飲み放題だったり......。まさに“お祭り”という感じですね。
 ゲストも日替わりで、名前のあるプロデューサーやA&R、アー ティストなどが参加し、直接講評をしてもらえる。また、参加者の作品は後日、クローズドな形でネット試聴が可能になり、それをレコード会社のディレクターに聴かせるようなことも可能だったりします。
 こんな感じで、ロケーションの非日常性から始まり、さまざまな 仕掛けでクリエイターを楽しませてくれるのがコーライティングキャンプです。
 また、それまで全く知らなかった人間と一緒に曲を作り、寝食を 共にするということは、とても濃密な体験となります。「同じ釜の飯を食う」という言葉がありますが、まさにそんな感じで、キャンプで知り合ったクリエイター同士が仲間になることが多いのも納得でしょう。短時間の圧縮された作業だからこそ、化学反応が起きるのだと思います。

海外のコーライティングに参加するには

 コーライティングキャンプ/セッションについて、簡単に説明してきましたが、「面白そうだからぜひ参加したい!」と思っている 読者の方も多いのではないでしょうか?
 でも残念ながら、海外にコネクションの無い “一見さん” がコーライティングキャンプ/セッションに呼ばれることは、ほぼありません。プロフィールに魅力が無い参加者がいることは、コーライティ ングキャンプ/セッションのクオリティを左右しますから、応募してもハネられてしまうのです。逆に言えば、ネットでオープンな形で参加者を募集しているようなコーライティングキャンプ/セッションは、それほど期待できないことになります。
 ですから、まずは国内で実績を積んで、海外の人から一緒に作業をしたいと思われるようになるのが常道です。そのためにも、国内でコーライティングをどんどん行ない、曲を作っていきましょう。
 その上で、Facebookなどを使って海外のクリエイターともどんどん交流していきましょう。
 欧米では、作家同士がFacebookでつながっていて、盛んにコミュ ニケーションを取っています。その流儀に則って、Facebook上で 会話を交わし、「じゃあ、今度1曲書いてみようか?」というところまで持っていけたら、しめたもの。現地に赴き、コーライトをして実力が認められたら、クリエイター仲間にも紹介してもらえるはずです。そこから、道は開けていくでしょう
 ちなみに、伊藤がヨーロッパでキャンプに参加した時、全くキャリアの無い17歳の若者が飛び込みみたいな形で入っていたことが あります。彼はその若さでトラックメイカーとしてのセンスが素晴らしかったので、それなりに才能があれば、現地在住だとそういうこともゼロではないようです。しかし日本から行くのであれば、やはり国内でキャリアを積んだ上で、出版社などの後ろ立てがないと難しいのが現実です。
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2022年8月付PostScript/真鶴キャンプとレコ大受賞

 欧米の音楽シーンでは一般的に行われているsong writing camp/sessionについて、日本語でオープンに記されたのはこの本が最初だったと思います。この頃から韓国は欧米型のコーライティングを積極的に取り入れて、K-Popの世界進出を後押しする力になったことは、拙著『最新音楽業界の動向とカラクリがわかる本』にも書きました。
 僕らのキャンプはその後、神奈川県真鶴町に拠点を移し、地元の皆さんの協力をいただきながら、新しいイベントとして発展していきました。TVKが制作してくれた短いドキュメンタリーがあるので、是非、観てみてください。コロナが落ち着いたらクリエイターズキャンプ真鶴も復活させたいです。 

 本書を読んで、コーライティングの存在を知り、山口ゼミを受講したKAZ KUWAMURAは、この本にあるような「海外武者修行」をして、プロのソングライターとしてキャリアアップしていきました。シンガー・トップライナー型で、コーライティングを基本にする活動スタイルですが、2021年にはDai-CE「CITRUS」でレコード大賞受賞作家になりました。J-Popでもコーライティングの効用が証明されてたと言えるでしょう。
 ちなみに、TOP画像は、LA在住のヒロイズムが帰国した時に、LAで活躍する作家たちを連れて参加してくれたCo-Writing Farm主催のキャンプの記念写真です。

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モチベーションあがります(^_-)