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【音楽家必見】強烈な速度で進む「個へのパワーシフト」。世界の中心地LAから音楽制作の現状と近未来を知ろう!

  毎月、MusicTech領域で僕らが旬だと思うゲストをお招きするイベントMusicTech Radarの7月のゲストは作曲家、サウンドプロデューサーのヒロイズムさん(以下敬称略で失礼します)です。
 中島美嘉の「LIFE」で作詞からデビュー。MISIA、JUJU、中島美嘉、ナオト・インティライミ、Little Glee Monster、Da-iCE、風男塾、Hi☆Five、WHITE JAM、チョー・ヨンピル、V6、TOKIO、NEWS、テゴマス、Kis-My-Ft2、A.B.C-Zなどメジャーアーティストの作品提供は数しれず、日本を代表するソングライターの一人。WIKIPEDIAによると、代表作はNEWS「生きろ」「チャンカパーナ」「さくらガール」「SUPERSTAR」、Kis-My-Ft2「WANNA BEEEE!!!」だそうです。

ヒロイズムは音楽家における野茂英雄だ

 ヒロイズムは、日本での成功に飽き足らず5年前に家族を連れて、LAに拠点を移しました。世界のポップカルチャービジネスの中心地は、ハリウッドも抱えるLAです。日本の成功した音楽家でLAに家を持つ人は多いですが、ほとんどの場合は、別荘的な位置づけで、有名人になると外国の方が住みやすいのと、レコーディングや映像制作などで国際的クリエイターと直に付き合うのが目的です。彼のように、アメリカの市場に本気で切り込もうとして、リスクを自分で取った音楽家はほとんどいないというのが僕の認識です。もう4年以上前になりますが、SXSWに出張で行く際に、LAにも寄って、家に泊めてもらいました。そこで彼の生活を垣間見、アメリカの音楽シーンに溶け込み、結果を出そうとする姿を見て、僕は確信しました。これは出発記念のパーティでも言ったことなのですが、「ヒロイズムは音楽家における野茂英雄になる」ということです。野茂投手が大リーグに単身乗り込んで結果を出すまでは、日本人野球選手のグローバルレベルの力量は未知数でした。野茂が成功したことで、イチロー、松井秀喜、佐々木主浩と日本の超一流選手が海を渡り、田中、ダルビッシュ、そして今、大リーグの歴史を塗り替え始めた大谷翔平が現れる訳です。少し前から、大リーグでは、日本のプロ野球で超一流の選手は、アメリカでも一流、日本で一流なら大リーグの一軍で通用するという「相場観」ができた気がします。日本人音楽家のクリエイティビティは世界レベルで高いので、海外の音楽シーンを肌で知る人が増えれば同様に、結果は出てくるはずです。バントとかヒットエンドランとか牽制球とかの、小技が上手な「日本型野球はセコい」というイメージが、イチローが首位打者を何度も取ることで変えていったことがアナロジーとして重なって見えます。音楽でも似たようなことになるはずだなーと感じています。僕なりにはグローバル市場の中での日本の音楽ということをずっと考えてきて、日本人のポピュラーミュージックにおける音楽家やエンジニアなどのクリエイティビティの高さと世界に挑戦しない姿勢を、国内だけで盛り上がっていた「野茂以前の日本野球」と類似性を感じていました。そこに本気で取り組んでくれたヒロイズムに対しては心からリスペクトしています。

 僕が彼と出会う機会を作ってくれた山口ゼミを一緒にやっている「相方」伊藤涼をヒロイズムの対談が、ビルボードに載っているのでご覧ください。

加速度的に進む世界の音楽界の「個へのパワーシフト」

 さて、今回のイベントを企画する直接的なキッカケは、新規事業のためのリサーチでアメリカのクリエイターたちの動向を知ろうとヒロイズムにZOOMミーティングをしたことでした。hashtuneというサービスで、ブロックチェーン技術も使いながら、作曲家自身がコントロールできる、いわゆる「歌もの」楽曲のマーケットプレイス、端的に言うと「楽曲コンペの民主化」を志向したサービスです。プロダクトのベースはできていて、α版的な運用で実際の作曲家とインディーレーベルで売買が成立するところまではやっているのですが、スタートアップスタジオとしてやる以上、事業の拡張可能性(スケーラビリティ)が非常に重要です。それぞれの国のインナーサークル(どの国にもギョーカイはあります)だけで成立している楽曲コンペを国境を超えて展開するためにどうすればよいかというのが、ヒアリングのテーマでした。

 その時の内容が衝撃的でした、一言でいうと「世界の変化は俺が思っていたよりもだいぶ早ぇー」ということです。音楽創作/原盤制作の領域でも強烈な「個へのパワーシフト」が起きていることは認識していました。プロフェッショナルスタジオを使わずに音楽家が自宅のPCでクオリティの高い音源を作れることで、原盤制作費が大幅に低廉化しました。音楽(正確に言うと、録音原盤)市場の幹がデジタルサービスになったことで、音楽家が直接配信をできるようになり、レーベルの存在意義が揺らいでいます。
 この原盤制作費の低廉化デジタルサービスへの直接配信という2つの、音楽家個人へのパワーシフトが、アメリカ音楽界にも大きな変化を与え始めているというのがヒロイズムの証言でした。

 もはや、作曲家はレコード会社のA&Rや音楽出版社に自分の楽曲を売り込むことに興味を失い、アーティストも直接、才能あるクリエイターと一緒に作品を創る(コーライティング)ことに行動し始めているという話です。これは、音楽制作(録音原盤市場)における、究極的な「個へのパワーシフト」です。コンペどころか、A&Rを経由せずに音楽家同士がつながっていく世界が始まっている。その状況を踏まえて、hasutuneのビジネスモデルも再構築しています。周回遅れが4周くらいになる日本の状況ですが、必ず同様の変化は起きますから、日本の作曲家たちに、この事実をシェアしたいと思いました。
 ブラックボックスを作ることでビジネス上で優位性を保つという「情弱ビジネス」はもう終わっています。ほとんどの作家事務所は、コンペをブラックボックス化することで、特に付加価値を付けずに、「決まった時は」3割から5割の(僕から見るとあり得ない)高いフィーを取っています。そんな中で、コンペに参加するだけで、「作曲家として活動しているつもり」になっている日本人作曲家にちゃんと現実を見させることは、山口ゼミ/Co-Writing Farmを7年やってきた僕の責任でもあると感じています。

 とりあえず作編曲家で食えているというプロの音楽家には、是非、話を聞いてもらって、自分の立っている場所が砂上の楼閣だと知ってもらいたいです。ヒロイズムも多分、包み隠さず話してくれると思います。

K-popの躍進は日本人音楽家にとって大きなチャンス

 日本人音楽家に知ってほしいことをもう一つつ付け加えると、K-POPの世界的な成功は、日本人音楽家にとってチャンスだということです。
 今や世界中の音楽関係者の興味はK-Popに向かっています。個々のポイントは、その人たちは「韓国人と日本人の区別はつかない」ということです。アンケートを取ったら、韓国の首都は東京、日本語と韓国語は同じ言葉と思っている人が2割くらいいるというのが僕の感覚値です。
 実際、ヒロイズムは数年前から「ヒロってK-Popみたいの得意だよな?」って連絡が増えたそうです。最初はムカついてたけど、これはチャンスだときづいて「もちろん得意だよ」と答えているそうですww K-Popは日本から始まったという歴史的事実もあるので、韓国の躍進を利用して、チャンスにできるのは日本人音楽家が今持っている世界における優位性です。
 日本の音楽業界の「村の掟」だけ守ってお行儀よく仕事していて、幸せになれる時代はもう終わっています。ヒロイズムからLAの状況を聞いて、未来を考えましょう!

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モチベーションあがります(^_-)