見出し画像

tunecoreがハブになる音楽生態系の補強。著作権徴収分配に続いて、YouTube広告売上が分配。「タイアップ曲の民主化」が始まる!

 今は、音楽関係者で知らない人はいなくなったTuneCoreJapanは、約10年前に起業家の野田君が、TuneCoreのアメリカ本社に掛け合うことから始めて、自分の会社(Wano)と合弁会社を作って始めたサービスです。僕はサービスローンチ前から応援してきたので、継続的にコミュニケーションをとっています。
 前回、音楽マーケティングブートキャンプのゲスト講師をお願いした時にも、近況を裏話含めて、いろいろ伺いました。

音楽出版権の新しいカタチを実践

 音楽家が音楽著作権の分配を受け取るためには、JASRACもしくはNexToneに委託する音楽出版社と契約して行うのが一般的です。音楽出版社は出版権を保有して、楽曲の開発と著作権の徴収分配を行うというのが基本的な考え方です。
 実は、海外では、その基本が崩れて、新しい仕組みが主流になり始めています。著作権エージェント型、ないしアドミニストレーション型と呼ばれる業態です。デジタルサービスが音楽消費の中心になったことで、「デジタルしかやりません」という音楽著作権徴収会社が成立するようになったことによる変化です。デジタルに特化して、出版権は作曲家側に残したままで徴収分配の手数料を受け取るという業態です。kobalt music、Downtown Musicとなどが有名です。詳しく知りたい方は、拙著『最新 音楽業界の動向とカラクリがよくわかる本』をご覧ください。
 分配手数料は20~30%が相場のようです。音楽出版権が50%(作家と出版社が折半)を比較するとお得ですね。この仕組みを日本でやろうとすると、JASRACの著作権信託制度が壁になります。出版権を持っている会社がJASRACに楽曲を預けるというのが前提になっているからです。出版権を持つというのはTuneCoreの思想的と合わないので野田くんは数年間悩んでいましたが、音楽家のために「名を捨てて実を取る」的な選択をして、TuneCore Japanが音楽出版社としてJASRAC会員になりました。手数料はアメリカ本社と同じ15%で、著作権の徴収分配を行っています。これは「日本型の著作権エージェント」にTCJがなったということだと思い、下記のエントリーを書きました。世界的なデジタル時代の著作権管理の潮流が、インディーズアーティストが先行する形で始まりました。エポックメイキングな出来事です。

動画と音楽。クリエイターの収益をつなぐ意味

 新サービス「TuneCoreクリエイターズ」は、著作権管理サービスと同様の大きな意味があると僕は思います。

 YouTubeの広告収益は、音楽においても大きな存在感を占めるようになってきています。また、YouTubeMusic等の有料サービスともシームレスに展開していて、バリューギャップ(YouTubeにおけるユーザー利用における音楽に対する支払いが極端に少なすぎる)問題も改善の方向に向かっていて、特に日本では重要な収益源です。
 「TuneCoreクリエイターズ」が広まって、動画クリエイターがYouTubeでの動画に音楽を活用するようになると、新しい楽曲が広まるきっかけになるだけではなく、これまでになかった収益が音楽に対しても生まれます。いわが、マスメディア(TV番組/TVCM)で行われていた楽曲タイアップが、YouTubeという巨大はプラットフォーム上でクリエイター同士で行われるようになるわけです。まさにクリエイターエコノミーですね。放送メディアと違って、デジタルの際は、使用状況が完全に可視化されますから、ルールさえ定めればフェアな分配が可能です。
 映像BGMといえば、日本のミュージックテックスタートアップAudioStockがありますが、最近の発表では、AudioStockからの分配だけで1000万円の収益を得る音楽家が生まれたとの発表がありました。デジタルサービスにおける音楽収入はどんどん伸びています。詳細はこちらのインフォグラフィックをご覧ください

オリジナル楽曲が欲しいYouTuberとCWF作曲家がコーライトして創ります!

 コーライティングを得意とするプロ作曲家コミュニティ「Co-Writing Farm」で、ちょうど、人気YouTuberに楽曲提供したいという話が出ていました。アーティストと一緒に創る(Co-Writie)を得意とするクリエイターが100人以上集まっているコミュニティなので、このYouTuberに歌って欲しい、一緒に楽曲を作って、デジタルヒットを出したいと思ったら、声がけしようと言って始めたところでした。このサービスが始まったことで、収益分配のルール設定がやりやすくなりました。リリースに耐えるクオリティの原盤制作をするには、相応のスキルや経験、としてエネルギーが必要です。普段の仕事だと数十万円以上のギャラをもらってやることですから、そこのリスクを作曲家側だけで取るのはそれなりの覚悟が必要です。一方で編曲ミックスなどの費用をYouTuber側が払って原盤権を持つというのも経験がなく、ピンとこないことも多いでしょう。このサービスがその隙間を埋めてくれるのではないかと期待しています。 
 上記の説明ページでは、音楽家側がBGMでの使用をイメージして許諾するケースになっていますが、YouTuber、VTuber側がプロの音楽家と一緒に、作品を創ることで、ヒット曲の可能性は高まると思います。単純な「楽曲の発注」よりも、イメージを擦りあせての「共創」から作品が生まれることが、クリエイターエコノミーの醍醐味なのではないでしょうか?
 興味を持った映像クリエイター/YouTuberの方は、CWFまでご連絡ください。僕にメッセしてもらえば、適切につなぎます。
 クリエイターエコノミーはアマチュアでもやれるという意味ではないはずです。プロのクオリティというのものにまだ意味はあると思います。

個へのパワーシフトはどんどん進む。新たな生態系の構築へ。

 デジタル化によってレコーディングは安価でできるようになりました。プロ作曲家育成の「山口ゼミ」がコンペに勝つためのデモテープを作る際に求める基準は「このままリリースすればいいじゃん。歌も本人より上手いし」だと説明しています。作詞作曲編曲ミックスがリリースクオリティになっていて、仮歌がアーティスト本人に遜色ないデモテープが作れないと、コンペに勝つことはできなくなりました。逆に言うと、プロ作曲家は自宅でリリースしてもメジャー作品に劣らない原盤が作れるということになります。ユーザーと音楽家と、そこをつなぐ利便性が高いプラットフォームが、可視化されていて中抜きは最小限という風に、音楽ビジネス生態系は変化しています。大きな組織や、既存の業界の力を借りずにヒット曲が出て、クリエイターたちが潤うと、そこから新たな生態系が育っていくのです。
 TuneCoreの新サービスが、映像クリエイター/YouTuberと音楽クリエイターを共存共栄させるきっかけになることを心底期待しています。

<関連投稿>


モチベーションあがります(^_-)