デジタル・トランスフォーメーションの意思決定が浮沈を決める時代〜エンタメ業界も構造は同じ。
●クルーズ船対応に見る日本の組織の問題点──権限とスキルの分離が組織を滅ぼす
米国在住のジャーナリスト冷泉彰彦氏のコラム。僕は基本的には社会問題についての発言はしないのですが、このニュースと分析は、日本のエンタメ業界と相似形、同じ構造を感じたので敢えて取りあげます。
筆者が指摘している「権限とスキルの分離」という指摘はその通りです。分離が起きる理由、そしてそのダメージが大きい理由は「デジタル化」への急速な環境変化です。最近のバズワードに「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」がありますが、それだけ日本の大企業や既存の業界の仕組みが「変身」できずにいるから流行る言葉なのでしょう。日本は大きな意思決定を高齢で、その分野での経験豊富な人が(しかも責任を一人に集中させずに合議的に)持つという仕組み、社会慣習を持っています。僕も日本で育った日本人なので、そのことに対して強い違和感や反発心は無いのですが、環境変化が理解できない(時には意図的に理解を拒む)ITリテラシーの無い人が意思決定をすることのマイナスが計り知れず致命的になっているのが今の時代だという認識は広く共有したいです。
エンターテイメントの世界はまさにそうで、音楽業界、出版業界、テレビ業界、芸能界、全てこの構図が当てはまります。権利者を代表して異議申し立てをするべきレコード業界が、App storeやGoogle Playでの違法アプリを放置(AppleやGoogleは申告があればバンすると明確に言っているのに)した不作為が、日本を世界一の著作権違法アプリ天国にしてしまいました。一方でSpotifyの日本サービスローンチを意図的に遅らせ、ユーザーが無料で音楽を聴くことを無闇に忌避するが故に、サービス事業者のフリーミアムモデル導入に抵抗して、日本の若者を無料の違法アプリに導きました。全てITに関する知見の無さからくる判断ミスです。
僕は日本にEnterTechを普及させる旗振り役(エバンジェリスト)を自任しているので、テクノロジーとスタートアップの活用で、僕が育った音楽業界を活性化することを精一杯頑張り続けつるもりですが、冷静かつ客観的にみると、5年後くらいに日本の音楽業界が壊滅的になっている可能性が、一定の確率であり得るのが今の状況です。音楽を聴くのはYouTubeかAppleかSpotify(もしかしたらQQmusicとTiktok)という外資系のみなり、コンサートのチケットはLiveNationが経営するTicketMasterで買う。コンテンツとしての日本の音楽家は細々と残るでしょうが、ビジネスのルールはアメリカや中国の企業に一方的に決められ、その上で踊るだけ。ついでにいうと、大きなドラマやアニメも、NetflixかAmazonの予算で作られ、決済は中国企業の顔認証で行われる、僕にはディストピアにしか見えない景色なのですが、そのことに対する危機感はどれだけ日本人が共有できているのでしょうか?百歩譲ってユーザーは良いのかもしれませんが、これからの時代にプラットフォームを牛耳られれば、コンテンツのプロデュースの中身にも影響が出てきます。日本の持つ美風など全て吹き飛ぶでしょう。日本のエンタメ業界の意思決定層がデジタル化に後ろ向きだったせいで、守るべきものが全部壊れてしまうのです。
親日で有名な台湾ではこんなニュースが有りました。
●新型肺炎で「神対応」台湾の天才IT大臣やエンジニア達に称賛の声
高いスキルを持つ若者に権限を渡す知恵が彼らにはあるようです。若ければよいという話ではないのですが、ITに関する知見がない人には、社会や産業の大きな意思決定をする資格がないという認識を日本に広めることは、エンタメ分野においても、今、死活的に重要だと、改めて思いました。
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