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エンタメ業界は中国マネーとどう付き合うか?アメリカは?欧州は?そして日本は??


 NewsPicksでの中村伊知哉さんのコメントがあります「アメリカのエンタメに中国のIT企業が出資する。そういう時が来ましたか。かつてソニーや松下がアメリカの映画会社を買いに行った、そのカネの出し手が変わります。アメリカはそんなカネ受けていいのかという慎重論がありながらも、海外の資金を吸収して基盤を作り、その後うまいこと事業は潰して基盤だけ遺すという芸当をしばしば見せますが、本件はどうでしょう。
いやそんなことより日本です。日本のエンタメやメディアにもそろそろ中国資本からのカネが降りてくる。これに対し、のるかそるか、取りに行くのか行かないのか、戦略が問われています。」
 総務省(旧郵政省)出身で、政府の知的戦略本部の座長を務めた中村さんの言葉だけに重みがあります。僕も同じ問題意識を共有します。

 Facebookでこの記事をシェアしたら、中井秀範さん(音事協専務理事/前吉本興業取締役)が、「エンタメは、そもそもOPM(other people's money)で作るものですから。アメリカはしたたかですよ。」とのコメントを下さり、さすがプロフェッショナルで視座が高いと感心しました。
 
 日本人はこのニュースを対岸の火事と思ってはいけません。僕は日本人音楽プロデューサー、そして日本のエンタメビジネスに関わる者として、「いよいよ来たな」と感じました。グローバルメジャーに中国資本が入っていことは軽視すべきではありません。


 アニメ制作からゲームに領域を広げたマーベラスは、テンセントが筆頭株主になりました。日本のコンテンツ業界が中国IT財閥とどう向き合うのか、高い視座と数十年以上の長期的視野で考える必要があると思います。

 これは、ネトウヨ的な感情論ではありません。エンタメビジネスが、デジタルサービスが基本になっている今、ユーザーとコンテンツを結びるつけるプラットフォームがビジネス生態系の中心、幹になっていきます。そのプラットフォームの「ルール設定」に関与できるかどうかがポイントです。「contents is king」という言葉もあるように、ユーザーから支持されるヒット作品を作ることがエンタメビジネスの肝であることは変わりはありません。そのヒットの前提となる制作費の調達や分配の方法は、非常に重要です。クリエイティブが正当に評価されて、健全な再生産が行われていく仕組みにすることはエンタメビジネス全般において死活的に重要なのです。

 わかりやすいのは、スマートフォンのアプリです。iOSとAndoroidの2つに集約された(寡占が進むのもインターネットサービスの本質の一つですね)スマホアプリサービスにおいて、APPLE税などと揶揄される30%の手数料が問答無用に徴収されます。ジョブズがモデルにしたNTTドコモのi-modeは、債務保障込み(コンテンツホルダーにトリッパグレなし)で8%でした。i-mode公式サイトに選ばれるには、膨大な資料を提出する手間はあり、同じ領域では一定数以上の公式サイトは作らないというやり方でしたが、公式サイトになれれば、コンテンツ側に収益が上げやすいモデルでした。ただ、iOSにおいての最大の原因は、30%という手数料率だけでなく、アプリの審査基準の恣意性が高く、なぜ認められないか、どう修正すれば良いのかがわからない、ということです。まさに「ゲームのルール」をApple社に握られてしまっています。音楽については、著作権の許諾という国際法に基づくルールがあるので、配信サービス事業者と権利屋の間に一定のパワーバランスが成立していますが、あらゆるエンタメコンテンツのルールを外資のプラットフォーマーに握られていくのは日本のエンタメ業界にとって、非常に危険で、良いこととは思えません。プラットフォームビジネスで日系企業に頑張って欲しいと思うと同時に、一定の交渉力を担保する仕組みを保つ必要があると思います。

 ユーザーとコンテンツプロデューサーがエンゲージメントを持つ戦略もあるかもしれません。オンラインゲームは、コミュニティ性の高いものも多いですから、そこでユーザーと信頼関係を持つようなやり方もありそうな気がします。メタデータと言われる作品に関するデータベースをしっかり構築して、使いやすいAPIを用意しておくことも重要です。便利なDBはプラットフォーマーも使いたいですから、そこに交渉の余地が生まれくる訳です。

 テンセントなどの中国系企業については、中国共産党政府との関係も重大な問題です。

 香港の民主化運動についても、中国に詳しい人の中には「政治的な領域に踏み込まなければ、経済は自由にやらせるのが共産党政府の方針なので、エンタメビジネスは自由にやれる」という言説も多いです。そういう側面は確かにあるのでしょうが、管理社会を揶揄するような表現への規制は、普通に想定されます。その証拠とも言えるこんなーニュースもありました。

 中国共産党政府を賛美するハッシュタグをつけると表示が有利になるアルゴリズムがあるという話。気味が悪いですね。tiktokはおそらく中国政府のファイヤーウォールの外で(中国人以外に)ユーザー人気を得た初めての中国系ITサービスですか、そういうサービスが増えるとこうなるという現実を知っておく必要はありますね。 ネタで風刺的に中国政府を褒めるコンテンツを考えてバズらせるみたいな洒落っ気を見せるのが音楽家の役割だと思うので日本人が逆手に取って試してみてほしいです。

 まずは世界のエンタメビジネスはこういう状況になっているという認識を持ちましょう。もはや日本市場だけでは成長は望めません。日本のコンテンツは海外市場でチャンスがあります。さて、、、、??という話です。このようなマクロ次元の話と、それぞれ皆さんが抱える問題はレイヤーが違って、すぐには結びつかないでしょう。各論個別に考えるしか無いですね。ただ、長期的に方針を考える時には、音楽家であれ、起業家であれ、意識しておくべきポイントだと思います。

 私見ですが、僕は日本はEU準加盟国を目指すイメージで、プライバシー権を大切に捉え、プラットフォーマーを監視するスタンスを保つGDPR(一般データ保護規則)も意識しながら、米中二大国の間で上手くやるが方針だと思っています。米国と文化的、政治的に近く、中国と歴史的、地理的に近いことを利用するのです。2020年以降、創造性と文化力が日本人に残された優位性です。そんな話は、このnoteの中で、折に触れて、お話していきましょう。

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