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音楽NFTが業界を破壊するという嘘。個へのパワーシフトの中で生態系を補完する。そして技術は使い方次第。

 新しいテクノロジーの登場は大きな期待と様々な思惑を呼びます。音楽はデジタル化という革命的変化の実験場であり続けています。NFTについても音楽は、活用法の実験場になり始めています。

 中には、過激な推測もあるようです。ジョアン・ウエステンバーグというエンジェル投資家は、既存の音楽業界に恨みを持っていることは、この記述からも感じられます。

 私は16歳で音楽業界に入り、5年間ツアーに明け暮れ、貧乏暮らしだったが、持っているお金はすべてキャリアを築くことに注ぎ込んだ。ツアーの宿はボロボロ、寝るときはソファに倒れ込み、機材は修理のテープだらけ。ひどいライフスタイルだが、ミュージシャンなら皆、その苦労を理解している。
 ストリーミングの収益では次のツアーのガソリン代はおろか、コンビニで食べ物も買えない。音楽でのキャリアは生きるための日々の戦いとなり、音楽を作り、演奏する余裕はほとんどなくなってしまった。

 よく読むと、問題はストリーミング事業者ではなく、デジタルサービスが音楽消費の中心になった時代に、レーベルなどの既存の音楽事業者と音楽家の契約が公平さを失っていることを指摘していることがわかります。

スポティファイ上の「著作権保有者」はストリーミング収益の最大70%を獲得するが、ほとんどの場合、著作権保有者は実際はアーティストではない。これはクリエイターに報いる適切な方法とは言えない。

 音楽ビジネスが、デジタル化によって、強烈な「個へのパワーシフト」が起きていることは事実です。CD(フィジカル)が消費の中心だった時代には、CD製造、流通、マスコミへの宣伝といった、ビジネスプラットフォームを提供していたレコード会社が、デジタルサービスへの窓口を担う立場になって、存在感は著しく下がっています。ところが、アーティストとの契約は、プラットフォーム時代の条件をベースに結んでいるところに公正さに欠いてしまっている理由なのです。そのことについは、以前書きました。

 そのことと、NFTを安易に結びつけるのは乱暴な論理に僕は感じています。デジタル化による個へのパワーシフトで、ビジネス意識が高く、ファンベースがあり、レベルの高い音楽制作が自力でできる音楽家は、NFT関係なく、自力で稼げる環境は既に整っています。
 音楽関連の調査会社Midia Reserchによると、2020年のデジタル音楽市場における「Artist Direct」の比率は6.3%、毎年比率が上がってきています。
NFTとは関係ありません。

 また、NFTはブロックチェーン技術の一つですが、音楽ビジネスの構造を根本からブロックチェーンが変えることは間違いありません。アナログ時代に積み上げた、仕組みはすべてアップデートが必須です。著作権の登録管理、徴収、分配、それぞれにイノベーションが起きるでしょう。音楽家自身が自らの作品を管理し、即時に近い形で報酬を受け取る仕組みをブロックチェーン技術が可能にします。
 テクノロジードリブンの視点からだと、ブロックチェーンが全てを上書きして置き換える音楽ビジネスの一側面がNFTであるという言い方もできると思っています。

 一方で、NFT作品の過熱ぶりに大物ミュージシャンからのアンチテーゼも語られています。数々の名作を作ってきた音楽家が、クリプトアートと仮想通貨が牽引する状況にFAKE感を覚えるというのは、感覚的に理解はできますね。

 イーノ氏は「NFTは、アーティストがグローバル資本主義から少しばかり恩恵を受けるための手段であり、金融化(financialization)のミニチュア版に過ぎないと思う。なんと素晴らしい。これのおかげでアーティストもまた、ちっぽけな資本家というクソったれ野郎(asshole)になれるんだよ」とエレガントな言葉でNFTを売る行為について説明しました。

engadget日本版

 こういうことをミュージシャンが言うのは痛快で、個人的には好きなのですが、NFTが技術ですから、ニュートラルな存在です。音楽家がassholeになるかどうかは、使い方次第だということは改めて言っておきたいです。

  音楽家にとって有益なコミュニティ形成のためにNFTを使っていこうというのが僕の基本的なスタンスです。ビルボードに寄稿しているので、ぜひお読みいただきたいです。英語版にも少し内容を補足して掲載されています。


モチベーションあがります(^_-)