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日本からグローバル市場に挑んだ起業家浅枝大志

2013年出版の本書は、僕にとってエポックメイキングな書籍です。エンタメ分野の起業家と新規事業創出をしていくスタートアップスタジオENTREを始める原点でもあります。7年前のインタビューとその後の彼らの軌跡を追いながら日本の未来を考えます
浅枝 大志 1983年生まれ。青山学院大学経営学部卒。デジタルハリウッド大学院デジタ ルコンテンツマネジメント修士課程修了。秋葉原にてメイド美容室を運営する会社を立ち上げ。2006年11月、ウェブリン(weblin.com)や、没入型の体験が可能なセカンドライフ(secondlife.com)等のバーチャルワールドプロモー ションを主軸に、様々なサービスを提案する株式会社メルティングドッツ設立。 同社、代表取締役に就任。 自らクリエーターおよびコンサルタントとして、企業参入支援を行う。著書に「ウェブ仮想社会「セカンドライフ」ネットビジネスの新大陸」(アスキー新書)がある。2011年12月、ソーシャル音楽視聴サー ビス「Beatrobo」をリリース、2012 年2月に米国デラウェア州で会社を登記、 3月には61万2500ドル(およそ5,000万円)の資金調達をしたことを発表した。

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苦労せずに音楽を知って楽しみたい
欲張りな人のために考えたのがビートロボ

 音楽が嫌いって人は世界に一人もいませんよね。でも、音楽についての会話をみんなしなくなっているというのが最初の気付きでした。以前はCDや MDで交換できたけど、iPodに入っている曲は渡せないし、貸せないですよね?でも、友達から音楽を知るって大事じゃないですか? 友達の聞いている音楽をすぐに聞けるようにするサービス。しかも楽しくカワイイ。そんなコンセプトでビートロボを作りました。自分から曲探しをする音楽マニアに向けてではなく、テレビのランキングや友達にいつも教えてもらうような、受け身の音楽ファンのための 音楽サービス。苦労をしないで音楽を楽しみたいって思ういいとこどりをしたい人のためにビートロボを始めました。

頑張らないのが格好いい文化が理解できなかった
 金八先生に憧れて、地元の公立中学校に入ったんですけれど、あれはファンタジーだと知りました(笑)。授業中に手を挙げてはいけないことを知り、文化の違いにとまどったのを覚えてます。
 一番嫌いだった文化は、頑張らないのが格好いいという文化でした。いかに努力せず良い点数や成績をとるかがステータスになるのは全く理解できませんでした。そんな、帰国子女体験をしました。

起業家の先輩に「これからは英語とビジネスと 」
 大学時代は会計士になろうと考えていたのですが、3年生の時に転機が訪れました。同じ大学の先輩のベンチャー社長と出会い「これからは英語とビジネスと」という話を聞きまして、パソコンは得意だし、英語はできるし、会計士になるつもりだったので、だったら自分に向いてるかも、いや、自分がやらずに誰がやる、という気持ちから起業家の道に入りました。最初にはじめたのは、美容室での会話に困るという自分自身のコンプレックスを解決することをテーマにして、メイド美容室を秋葉原の真ん中に作りました。

 その頃偶然ドラマの「電車男」がヒットし、オタクがおしゃれになるという共通点からお店も流行りました。 22歳の頃です。
 美容院の前には、自分自身サイトを立ち上げるなどもしてました。ファッ ション用カラコンの初期だったのですが、ギャル向けではなくコスプレイヤー向けに販売するというニッチなところを狙い、うまくいきました。モノを売るのもコト(サービス)を売るのも楽しかったです。あとは他とどう差別化するか、にいつもこだわってましたね。

一度も就職をしてませんが元気です
 大学院の進学は決まっていたのですが、ものは試しということで、就活をしてみました。電通と任天堂だけ受けて落ちました。面接で志望動機を訊かれた時に「ブランド力です」って答えちゃって(笑)。「大学院に通いながら働きたい」と正直に言ったら見事落ちました(笑)。 美容室の時は社長ではなかったので、自分で何かしたいという想いから2006年に「メルティングドッツ」という会社を作りました。SECOND LIFEは、アメリカの会社のサービスで、リアルな活動ができるアメーバピグみたいなものです。一時期、日本でも注目されましたよね。今でも収益は高いんですが今は日本語対応をやめてしまったので、日本向けのサービスを提供していた我々は 身動きをとれなくなりました。他にも、2008年にドイツの会社と提携してブラウザの中でアバターを作る、 ウェブリンというサイトを作ったり、2009年には社会人向け の「ケイレキ」というサイトも作ったりもしました。幸い注目はたくさん浴び、儲かった時期もあったのですが、リーマン・ショックでどん底に落ち、借金返済に追われたりもしました。

 日本では以前は、タイムマシンビジネスといって、アメリカで成功しているものを持ってくるというモデルで成功していたんですが、もう難しいと思います。 いろいろな失敗から学び、プラットフォームに依存しない、全部自分たちで作って、変えたいときに変えられる独自のサービスを作りたいと思ったのが、ビートロボを始めた理由の一つです

ビートプラグが音楽体験を変える
 ビートロボのアイデアは2011年の6月に思いつきました。プレイリストをロボットで表現して、選んだロボットによっていろんな音楽が聞ける。友達の音 楽ならなんでもいいわけじゃない。クラシックを聞くときもあればロックも、ヒップホップも聞く。その中でお互いにかみ合う瞬間を見つけるのをロボットが協力してくれる。

 これを現実世界でもできるようにしようというのが、ビートプラグというガ ジェットです。ビートプラグをスマホのイヤホンジャックに差し込むと画面にロ ボットが出てきて、プレイリストがもらえる。そして、音楽がすぐに聞ける。こういうコンセプトになっています。

 ビートプラグを使うことによって、
 CDをパソコンに入れる➡mp3に変えてCDを抜く➡iPodとパソコンをつなぐ➡iPodにmp3を入れるという面倒なステップを、プラグを挿すだけで実現します。 アーティストと組んだり、中身を入れ替えて友達に貸したり、いろんな使い方があります。
 現在運営しているウェブアプリ、モバイルアプリ、ガジェットの組合せで、音楽を軸にしたコミュニケーションを活性化して、音楽の文化を変えたいですね。 パソコン本体、OS、ブラウザとコンピュータの主役が移り変わるように、音楽においての主役になるべく頑張っています。音楽の権利者がいて、レコチョクやiTunesやSpotifyなどの配信会社があって、その上のレイヤーに、キュレーション、つまりプレイリストに価値が生じる時代が訪れます。Windowsユーザも、MacユーザーもYahoo!は使うように、全ての音楽サービスのユーザーが、ビートロボとビートプラグを使って楽しむ世界を目指しています。もしよかったら応援してください。ありがとうございました。

<山口の眼>
 ビートロボは、とても可能性のある会社だと思う。これからは、楽曲がクラウド上で管理されるというのが技術的な進歩による必然だ。今は、ダウンロードとストリーミングは別カテゴリーになっているけれど、将来的には、その区別はナンセンスになっていく。法律や商習慣を再構築するのには多少、時間は必要だろうけれど。いずれにしてもユーザーは、楽曲への感想や情報をソーシャルメディア上で共有していくようになる。
 そんな状況で世界的にキーワードになっているのは「プレイリスト」だ。 個人的には、もっと適した言葉に取って代わられるような気がするのだけれど、概念としては僕もプレイリスト的なものの価値が上がっていくと思う。誰がいつ、どんな理由で、あるいは気分で、どんな楽曲を楽しんでいるのかを共有するというのが、音楽の情報伝達の大きな柱になるだろう。 平たく言うと、クチコミからヒットが生まれるということで、それは昔から変わらないのだけれど、新しい技術が加速、増幅するのだ。
 そんな時代に、プレイリストをロボットでアバター化するというアデアは秀逸だ。1人のユーザーが持つ好みの多面性が複数のロボットを持つという形で可視化されている。まもなく商品化されるスマホ用のガジェット(ビートプラグ)で、存在感が強化される。講義で見た20歳の女の子達が、ビートロボのビジュアルに「かわいいー」と黄色い声をあげていた。
 浅枝さんは、日米両面の功罪を知る帰国子女の特性を活かして、ポジティブかつアグレッシブに行動している。本人も語るように失敗体験も重ねているので、まず特許を押さえるなど、若さに似合わぬ慎重さも持ち合わせている。若年層が音楽を聴く方法が、 プレイヤーから、スマートフォンに移行していくという流れの中で、楽曲やアーティストとユー ザーを結びつけるビートロボ・ビートプラグの存在は、音楽ビジネスをやる立場でもありがたいアイテムだ。音楽シーンの活性化の役割も期待したい。

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<2021年の山口の眼>
 浅枝君から本当にいろんなことを教わっています。実は今、僕がメイングラウンドに置いている「スタートアップスタジオ」という業態の存在を教えてくれたのも浅枝君でした。クレバーで英語堪能でグローバルな視野があって、事業構想力も行動力も抜群で、人情味も持ち合わせていて人から愛される、起業家として必要な資質は十分以上に持ち合わせているのですが、だからといって成功するとは限らないのがスタートアップの難しさだなと思います。
 Beatroboは特許をとってPLUGAIRというガジェットに名前を変え、勝負したのですが、苦戦しているところで、iPhoneからイヤフォンジャックが無くなるという事件が起きて、頓挫してしまいました。途中からは僕もアドバイザーとして関わり、ローソンHMVとの資本業務提携を取りまとめたりしたのですが、力及ばずでした。製造リスクや業界との向き合いを大企業に預けて、プロダクトとサービスを磨くことに専念するのが得策と思ったのですが、今となってはその僕の提案が良かったのかどうか、資金調達だけにとどめておけば違う展開もあったのかもしれません。僕自身が悔しさを感じ、勉強もさせてもらいました。
 パパとなった浅枝くんは子育てもしっかりしながら、意欲的なプロジェクトに次々関わっています。時折食事をしながら、次の浅枝大志の勝負には、StudioENTRE代表として関わりたいなと思っています。シリアルアントレプレナーとスタートアップスタジオは相性が良いことを彼との定期的なディスカッションで感じているところです。乞うご期待!

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