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BTSvs日向坂48では無く、ビルボードとオリコンの盛衰から見る「ヒット曲」の変化と「次」への視点

 6月7日のビルボードジャパンHOT100で、CD売上50.4万枚の日向坂46『君しか勝たん』を抑えて、BTSの『Butter』が1位になったことが話題になっています。
 4〜5年前までは、メディアもネットユーザーもランキングといえば、オリコンのことしか話題にならなかったのに、ビルボードJAPANの存在感が大きくなったんだなと感慨深く思いました。音楽とランキングのこれまでの経緯と意義について「ヒット曲」の構造的な変化という視点で書いてみたいと思います。

「ヒット曲」の基準値だったオリコンシングルランキング

 まず、指摘したいのは、オリコンではなくビルボードのチャートが話題になっていることです。日本では長らくメディアもファンもヒット曲といえば、「オリコン」でした。
 パッケージの売上データに注力するオリコンに対して、Billboard Japanを運営する阪神コンテンツリンクの皆さんが磯崎さんを中心に、丁寧に「ヒット曲とは何か?」を考えて、あちこちからユーザー行動データを集めてランキングをチューンアップしていきました。CD売上、ダウンロード数、ストリーミング数、ラジオでのOA数、ルックアップ(CDをPCに取り込んででCDDBに楽曲名などのデータを読み込んだ枚数。これによって複数枚購入が是正され、レンタルCDでの利用が反映されます)、Twitterでの話題度、Youtubeでの動画再生回数、カラオケという8つの指標を組合せてを作られています。僕も以前から、チャートのあり方や世の中での広め方を、相談乗ったり、説明を受けたりしてきているの、ご苦労は知っています。1週間のシングルCD売上一本槍で、デジタルをスルーしていたオリコンについては、デジタルコンテンツ白書で「オリコン週間シングルーチャートの形骸化」と小見出しを付けて、5年以上続けて書き続けてました。今回の話題のなり方で、やっと「山が動いた」のだなと感じました。

オリコンをハックして、葬送した秋元康

 日本のヒット曲の基準は「オリコン週間シングルランキング」でした。火曜日に店頭に届き、水曜日から発売された枚数を週毎に集計したものです。(オリコンがあるので楽曲の発売は基本的に水曜日なのです)レコード会社やレコード店の発表を受け入れるだけではなく、独自の調査にもこだわり、信頼のブランドを作っていきました。そこにはしっかりとした「正義」があったと思います。マス・メディアもオリコンランキングを信頼し、例えば、ニューカマーのアーティストを地上波テレビの音楽番組(「Mステ」とかね)に出演させるには、オリコン20位以内が条件みたいな使われ方もしていました。オリコン1位を狙う著名アーティストは、同様のアーティストの発売日を気にして、水面下で調整を試みるみたいなこともありました。音楽業界人にとって、仕事をする上で、オリコンランキングは最大の指標だった訳です。
 しかし、時代は変わりました。ユーザーから支持された楽曲をヒット曲と呼ぶのだとすれば、発売日から一週間のCD売上だけで判断するのでは間違えます。その矛盾をあぶり出したのが、秋元康さんです。
 AKB48は、シングルCDに握手券を同封するなど、ファンに同じ種類のCDを購入させる動機づけを行いました。以前から、「初回特典盤」でDVDを同梱したり、カップリング楽曲を分けて、「シングルCD」をコアファンに複数枚買わせることで、オリコンチャートのアップを狙う手法はありましたが、握手券という手法は、露骨にハッキングしました。結果的に、シングルCDの売上がヒット曲の基準ではないのだということを可視化し、オリコンランキングの葬送曲を奏でたことになりましたね。

誰もが気づいた「ヒット曲」の変化

 何百枚も購入したファンが封も開けずにCDを捨てていることが明らかになって、社会問題化するなど、オリコン週間シングルランキングというのは、そのアーティストのために、特定の日に沢山お金を使ってくれる熱量の高いファンのパワーを示すものであって、楽曲として広く支持されていることを示す指標ではなくなっていることが、世の中にも少しずつ広がっていきました。新聞やテレビも「音楽ランキングといえばオリコン」というのが少しずつ崩れていきましね。視聴者の行動を把握していこうと考えれば、いくつかの基準を組み合わせるビルボードのようなやり方のほうが、効果的です。Spotifyの再生回数やバズチャート(ユーザーがシェアなどで反応したことのランキング)もグローバル、国ごと、都市ごとなどと見えるようになりましたから、より「日本で一つ」というオリコンランキングが陳腐に見えてきたのでしょう。デジタルを加えた総合チャートを作りましたが、影響力は下がり続けているように感じます。
 長く続いて、広く受け入れられた、洗練されたやり方が、デジタル化で生活が変わったことで適合しなくなってきているのだけれど、なんとなく変えられずに地盤沈下していく、日本の様々な場面で起きていることが音楽ランキングでも起きたという風に僕は感じています。みなさん、音楽以外の分野に当てはめて考えてみて下さい。

新規ファン獲得や海外ユーザーへの興味喚起という役割

 さて、そもそもランキングって何のためにあるのでしょうか?
 心理学等での調査があれば教えていただきたいのですが、人間の好奇心を刺激するのが、ランキングなのだと感じます。
 知らないアーティストの楽曲がランキングの上位にあると、どんなアーティストなのだろう?と興味を持ちますよね?アーティストや楽曲とのファーストコンタクトは様々なケースがあります。世界の音楽ストリーミングサービスは10年以上前から「Discovery」「Serendipity」などというテーマを掲げて、ユーザーに新しい楽曲やアーティストを出逢わせて好きになってもらうということに取り組み続けています。それはアルゴリズムだったり、プレイリストの作成だったりするのですが、一番パンチがあるのは、今のところはランキングではないでしょうか?
 これは海外のファンを獲得する時に、顕著です。アニメやコミックや食などを通じて、日本のユニークなカルチャーに興味を持ってくれている外国人はたくさんいます。「日本の音楽はJ-Popっていうんだ?」と興味を持った時に、おそらく入り口はランキングでしょう。これまでは、オリコンランキングの上位は限られたアーティストで、CDしかリリースしていないから聴けないというケースも多く、大きく機会損出をしてきたなと感じています。これもやっとですが、変わるタイミングですね。

BTSをグローバルに押し上げたコアファンのパワー

 オリコンランキングの矛盾が可視化されていくが中で、ジャニーズやAKBグループはコアファンが動くだけだ、これまでの「オリコンランキング」が歪んでいたのだ!楽曲の良さではない!という、趣旨の言説も観られるようですが、一面的な見方だと思います。「ヒット曲」はたくさんの人に支持された楽曲であるのですが、ヒットするために必要なのは、楽曲のクリエイティブな力だけではなく、コアファンの支援も重要です。
 実際、BTSを筆頭としたK-Popが米国市場で成功するには、コアファンの献身的な支援が大きな力になりました。在米韓国人、韓国系アメリカ人の支援が大きかったという分析もあるようですが、いずれにしても、コアファンの熱量が米国市場でメジャーな存在に押し上げていきました。
 ヒットは、楽曲の持つポテンシャルが時代に受け入れられて生まれるというのは古今東西の真理ですが、同時にファンが持ち上げて、ヒットにしていくという側面もあるのです。

日本のアイドルのグローバル市場挑戦開始への期待

 コアファンの熱量では、ジャニーズやAKBグループの日本人ファンも負けていません。「デジタルとグローバル」に変化した音楽シーンは、ファンの熱量が国境を超える時代です。ジャニーズ事務所も日本市場向けに「サブスク解禁」みたいな時代錯誤な方針ではなく、「海外市場でチャートインする」という目標への方針転換を期待します。
 日本のもう一つの武器は、層の厚い多様なクリエイターです。数多くの作曲家から良曲を集めるコンペの仕組みも洗練されています。AKBやジャニーズで「米国市場でヒットポテンシャルのある楽曲」というテーマのコンペが出てくることを楽しみにしています。アメリカ市場にフォーカスして海外に拠点を移したヒロイズムやRyosuke “Dr.R” Sakaiといった日本人作曲家も出てきています。彼らの活躍の場も増えていきますし、海外進出を本気で考える日本人も増えるでしょう。僕は「ヒロイズムは作曲家界の野茂英雄になる」と以前から言ってきています。(本人はイチローになると言ってますww)彼らが切り拓いた道を追うことで、日本人音楽家からダルビッシュや大谷翔平のような存在がでてくると僕は信じています。
 もちろん最初から上手くいく訳ありませんよ。でも、挑戦しなければ始まりません。LDHなども含めて、日本のアイドル音楽市場がグローバルターゲットに変わることで、何かが始まることに期待したいというのが僕の趣旨です。ファンの熱量と、日本人作曲家のクリエイティビティは世界基準で見ても十分武器になるというのが僕の認識です。

 オリコンシングルランキングが廃れ、ビルボードが注目されるようになった日本の音楽シーン。デジタルに重心が移ることは、グローバルとグラデーションで繋がることを意味します。2021年6月に書いた僕の「妄想」=日本のアイドル曲のグローバルでのチャートインが、いつ、どのような形で実現するか、楽しみにしたいです。もちろん僕もそのためにやれることは何でもやるつもりです。何をやればよいのかは、いくつかのポイントがあります。また稿を改めて書きますね。

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