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第3章:「コネクテッドカー」から「ロボットカー」へ(前編)

『10人に小さな発見を与えれば、1000万人が動き出す。〜ビジネスに役立つデジタルコンテンツの話』(2015年6月刊)から

 2000年代になって「若者の車離れ」という言葉を聞く機会が増えましたが、僕 は、この種の情緒的な世代論は、まず疑ってかかるべきだと思っています。若年層の 人口が減少し、景気がよくない状態の日本で、以前のように自動車が売れないのは、 不思議なことではありません。
僕はもはや若者ではありませんが、実のところ自動車の免許を持っていません。高 校を卒業した後、浪人時代に教習所に通いはじめたけれど、教官がムダに威張ってい たのが不快だったのと、バイトが忙しかったことで、免許をとるにいたらず、そのま ま今にいたっているだけです。若いころは「音楽業界で免許を持ってないマネー ジャーはお前だけだよ」と、からかわれていました。アメリカならもっと楽にとれる という話を聞いて、出張の機会に、英語の勉強と人生経験を兼ねて、アメリカの運転 免許をとろうかなと漠然と思ったりしていましたが、いまさら、お金と時間を使っ て、免許をとる気持ちにはなれません。東京都心で暮らしていれば、自家用車を持つ 必要はありませんし、僕が生きている間に、自動車は「自動運転」になり、運転技術 を証明する免許は不要になると思っているからです。
あらゆる産業で必要とされている「再定義」ですが、産業革命の象徴であり、アメ リカを中心とする現代社会と資本主義の象徴でもある自動車の再定義には、深い意味 と大きな影響があります。

蒸気自動車から電気自動車への 進化

 最初の自動車は、1769年に蒸気自動車として発明され、 世紀には、ヨーロッ パで馬車に替わる交通機関として用いられるようになりました。1876年にはガソ リンエンジンが発明され、広まっていきました。 世紀に入るとアメリカのフォード 社が、フォードT型という大量生産できる自動車を販売し、さらに広く普及するよう になりました。
 1920年代にアメリカでは「モータリゼーション」と呼ばれる時代が到来し、自動車が社会全般に広がりはじめました。それに伴い、一般市民が生活必需品として利 用するようになったのです。日本でも高度成長期と共に、1960年代にモータリ ゼーションの波がやってきました。カラーテレビ、クーラー、自動車(カー)の3C が新「三種の神器」といわれたのは、テレビの章でも述べた通りです。消費者にとっての自動車は、不動産を除けば、最も大きな買い物です。利便性と購 買欲を満たす最大の消費財として存在しています。アメリカが国力を高め、世界の覇者となる過程で、自動車はアメリカの強さの象徴 でもありました。大量生産、大量消費、物質文明のシンボルとして自動車は位置づけ られています。
 また自動車業界は産業界においても大きな存在感があります。膨大な量の部品を組 み合わせてつくりあげる自動車は、多くの会社が関わる裾野の広い業界で、雇用面で も大きな効果が望めます。日本では、トヨタ、日産、ホンダなどの大企業が育ち、日 本産業界の主役を担っています。
そんな現代社会の代表的存在である自動車が、フォードT型発売から100年余を経て、新たに「再定義」される時代がやってきました。
 次世代自動車というと、電気自動車(EVカー)をイメージされる方が多いかもしれません。ガソリンを消費して、排気ガスを出す自動車のマイナス面が指摘されるようになって久しく、環境基準や規制が強化され、各自動車メーカーは排気ガスを減ら すための技術革新を競い合っています。空気を汚さない電気自動車が注目を集める理由は、石油の埋蔵量に限界がみえてき たこと、自動車の排気ガスに含まれる二酸化炭素が地球温暖化に影響を及ぼしている ことなどによるでしょう。
 ただ、本稿のポイントは、環境問題視点ではなく、デジタル化、クラウド化、ソー シャル化といった急速なテクノロジー進化に起因する本質的な変化です。

次世代型自動運転車、 グーグルカーの衝撃

 近年コネクテッドカーという概念が登場しています。この言葉は、自動車がイン ターネットに常時接続された状態、またはネット接続に対応した車のことを示しま す。カーナビが著しく進化し、さまざまな用途に使えるようになっているとイメージ するとよいでしょう。
 たとえば、音声認識技術と通信機能を組み合わせて、相手の名前をいうだけで電話 をかけたり、目的地をいうだけで、その場所の天候を調べて必要な物を教えてくれた りします。
 もう一つ先の時代を見据えた概念として「ロボットカー」や「自動運転」も提唱さ れ、研究開発が進んでいます。これは、コネクテッドカーの次のステップで、運転する必要がなく、車が自動的に目的地に連れて行ってくれるということを意味していま す。あのグーグルが、自動運転を行うロボットカー「グーグル ドライバーレスカー」 の開発を行っているのです。
グーグルがフォードやフォルクスワーゲン、トヨタのライバル会社になる時代が来 るとは、誰が予測したでしょうか。世界最大の動画共有サービスのユーチューブを所 有し、検索の世界を制覇して、インターネットにおける巨大企業として存在している グーグルは、社会や人々の生活に革命的な変化をもたらす可能性がある分野の研究に は積極的です。
 グーグルカー(通称)もその一環で、グーグルの機密施設で次世代技術の開発を担 うグーグル XーLabの中のプロジェクトの一つとして行われています。スタンフォード人工知能研究所出身のエンジニアと、「グーグルストリートビュー」 の発明者が共同で主導している本格的なプロジェクトです。
天候などの目的地の状況、経路となる道路情報などを収集し、コンピュータで解析して運転開始を指示します。走行中は、GPSを使い、現在地と目的地をリアルタイ ムで比較しながら、コンピュータが車を制御し、走行させます。レーザーカメラや レーザースキャナーを用いて、他の車両や歩行者、信号などを識別して運転され、人 は何もしなくてよいのです。テストコースでの走行だけではなく、アメリカのいくつ かの州では、すでに公道でのテスト走行が法的に許可されています。2014年4月に は、自動運転車の総走行距離が、100万キロメートルを突破したと発表しました。
 フォルクスワーゲン、ポルシェ、BMWなどの自動車会社を擁するドイツでは、ア メリカ企業であるグーグルへの期待と警戒が交錯しているようですが、グーグルと共同で自動運転の研究をする会社も出てきています。CDU(ドイツキリスト教民主同 盟)の政策綱領に、「近い将来、消費者がクルマの購入を決断する上で、車載デジタ ルシステムのパフォーマンスが、自動車メーカーのブランド力と同じくらい大きな要 因になるだろう」と記されているのは注目です。
 日本でも、日産とホンダは、2020年までにロボットカーの販売を行うと発表し ています。国土交通省も、高速道路のみでドライバーが乗車しているという限定つきながら、自動運転を想定した法整備などにとり組みはじめています。究極の自動車ロボットカーは、もうSF映画の世界の話ではありません。ただ、広 く普及させるには、法律、社会慣習など、解決すべき課題が山積です。人間社会には 技術的な問題や経済的合理性だけでは、割り切れないことがたくさんあります。
 ですから本章では、ロボットカーを遠くにみすえながら、まずは目の前に起きてい るコネクテッドカーの到来から、話をはじめましょう。

ドライブ体験が変わる

 自動車がインターネットに常時接続すると、どんな体験が起きるのかをリアルに感 じるために、ドライブ中の音楽体験について考えてみましょう。
ドライブに音楽はつきものです。音楽ファンの中には、車内のオーディオを充実させて、車でのリスニングを楽しむ人も少なくありません。コアな音楽ファンでなくて も、ドライブ中に音楽を聴く習慣を持つ人は多いのではないでしょうか。
 もちろんラジオとドライブも好相性です。
 車がネットに繋がることでラジオの楽しみ方も広がっています。世界最大のメタデータプロバイダー「グレースノート」の音声認識技術「Entourage Ra d io 」を使うと、ラジオから流れた曲の関連情報がすぐにわかるようになりました。 ジャケット写真やアーティスト情報などがリアルタイムに提供されます。ジャズなら 澄んだ色音を、ヒップホップなら低音を響かせてなど楽曲のジャンルに合わせて、スピーカーを最適化するサービスも提供されています。スポーツ中継を聞いていれば、 選手の情報や、他球場の結果などのデータも表示可能です。音声認識によって自動的 にデータベースと照合され提供されるという仕組みです。
 コネクトテッドカーに進化することによって、従来のカーナビ+カーステレオという車内サービスがより高度化します。近年では情報(information)と娯楽を(entertainment)を組み合わせた造語で「インフォテインメント」という概念で説明されるようになりました。 車の中で、目的地をいえば、最短のルートを教えてくれるだけではなく、到着地の天気、気温やおすすめのレストラン情報なども教えてくれます。目的地が近づけば、 空いている駐車場の情報も伝えてくれるでしょう。
 アメリカでは、パーソナライズド・ラジオPANDORAや音楽ストリーミング サービスが広く普及していますので、それらのオンライン音楽サービスと、グーグル マップや情報サービスなどを、自由に組み合わせて、ストレスなく使えることが求め られます。
 製品ライフサイクルという視点でみれば、一時期普及していたワープロ専用機が使 われなくなり、汎用的な機能を持つパソコンとワープロソフトの組み合わせに替わっ た導入期と似ています。カーナビやカーステレオという単機能のツールではなく、コ ネクテッドカーという乗り物の中で、ユーザー自らが簡単に、自分専用に組み合わせ て、サービスやコンテンツをアグリゲーションする時代になっているのです。

車載インフォテインメントOSを 巡る戦い

 ドライブ中の車内のインフォテインメントについては、すでにスマートフォンと車載OS(Opersting System)との戦いがはじまっています。従来型 のカーナビは、スマートフォンで利用できるグーグルマップなどのナビゲーションシステムに対して、すでに優位性を失っています。自動車会社も指をくわえてみているわけにはいきません。アップルやグーグルに負 けないように、安全運転の確保を最大の理由として、自動車専用のOSを開発し、車 からのオンラインアクセスを自社で確保しようと必死です。
 今、まさに本格的なコネクテッドカーの時代を目前にして、車載OSの覇権をどこ が持つのか、熾烈な戦いがはじまっています。スマートフォンでは、「グーグルのア ンドロイド」と「アップルのiOS」とが双璧となっていますが、グーグルやアップルにイニシアティブを渡したくない自動車会社は、Tizenという自動車向けOS を採用しています。Tizen は、リナックスという無料でオープンなシステムを 元につくられているからです。

 この分野は、方向としては間違いなく進んでいますが、まだ結論が出ていませんね。モータライゼーション、自動車社会は、近代社会の象徴です。それば大きく変わることは間違いなく、公共交通とUberに代表される自動車のシェアエコノミーがシームレスに繋がる時代が始まろうとしています。エンタメビジネス視線で、そこにどんなチャンスがあるのか、コンテンツプロデューサーがしっかり見据えていることは重要だと思います。
 CASE革命と言われる(C=コネクテッド、A=自動運転、S=シェアリング、E=電動化)もしっかりチェックしておきましょう。わかりやすい本があるので、推薦しておきます。

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