独断的音楽ビジネス予測[10年目]2021はポストコロナ時代に向けたMusicTech

 新年明けましておめでとうございます。元旦に音楽ビジネスに関する予測と提言めいたことを書くのを始めたのは2012年なので、気付けば10年経っていました。
 予測は概ね当たっていたことや、デジタル化がどんどん遅れる日本を変えられなかった自分の不甲斐なさは昨年9年分をまとめて書いたので繰り返しません。この10年間の日本の音楽ビジネスの変遷と僕の憤りや悪戦苦闘ぶりに興味がある方は、こちらをご覧ください。

 2020年の予測は全く当てはまりませんでした。僕だけではなく、誰も予測できなかった新型コロナウィルスの全世界的な感染に音楽ビジネスも振り回されましたね。
 ここでも、まずコロナの影響についてです。世界的な感染拡大が収まらず、「人が集まる」ことへの「自粛」を余儀なくされましたので、コンサートはもちろんのこと、CD等の販売イベントやカラオケなど音楽ビジネスは大きなダメージを受けています。まだ確実は数字はわかりませんが、途中経過のデータ発表を見てみましょう。

●パッケージ売上は1〜2割減に留まるか?
 「デジタルコンテンツ白書」の編集委員として6月頃にリサーチした際は、3割減もあり得るかなと思ったのですが、『鬼滅の刃』やBTSといった大ヒットがあったこともあり、そこまでの落ち込みは避けられるのかもしれません。月次の発表は生産実績なので、最終的な売上数字はまだわかりません。

●デジタル配信は前年比1割増程度と伸び悩み?
 一方で、「巣ごもり効果」もあって、また世界的に見て大きく遅れているので、コロナ禍で伸長が期待された音楽配信は伸び悩んでいます。元々の数字が小さいのですから、5割増位は当然達成されるべきなのですが、1割程度にとどまっているようです。
 ただ、これはレコード協会の発表数字です。今年から目に付き始めた「デジタルヒット」は、レコード会社加盟会社(いわゆるドメスティックメジャーレーベル)外から出るケースが多いです。レーベルのシェアは随分変わるでしょうね。
 日本レコード協会の統計情報はこちらです。

●著作権分配額も1割減程度に収まるか?
 300億円程度の徴収額減を予測していた著作権使用料ですが、4月以降の使用分のJASRAC分配は前年比92%でした。使用料のルール設定によっては固定金額になっていたり、放送分などコロナの影響をすぐには受けない支分権もあるのに助けられているようです。また、分配時期を早めたり、分配先不明分の対応を急いだりとかJASRAC事務局の努力もあって、ダメージを最小限に抑えようとしています。

●コンサート入場料収入売上は大打撃。7割減は避けられず。
 やはり、Covid-19の最大の「被害者」はコンサート業界です。そもそもコンサートが開けないのですからどうしようもありません。「自粛」が求められてても、「補償」はされないという状況下で苦しんでいます。来春以降で大型野外フェスの実施を期待したいところです。

 全体を見ての僕の感想は、デジタルが進んでないな、という残念な思いと、日本人はやりくりして耐える力は強いなということです。
 危機に瀕して、なんとか乗り切ろうという思いを業界内も、アーティストも、音楽ファンも共有できているような気がします。それは素晴らしいことなのですが、コロナ禍を契機に変らなければならないこともあります。レンタルCD業はこの機会に無くなって良いでしょう。ストリーミングサービスに代替させてしまう方が、ユーザーにとっても、アーティストにとっても、レーベルにとってもプラスです。一度身についた行動様式は続きやすいというのがレンタルCD店が生きながらえていた理由だと思います。コロナで起きたニューノーマルで、感染リスクを負って、CD借りてきてリッピングするという行動は変容してもらいましょう。
 デジタル音楽市場を2000億円位まで伸ばすことに音楽関係者全体で取り組むべきが今だと思います。

●デジタルファースト、既存業界外からのヒット
 2020年はTikTok発のヒットが目立つ年でした。NHK紅白出場まで果たした「香水」の瑛人やYOASOBI、東南アジアで火がついた「summertime」など、ユーザーに様々な形で「使われて」ヒット曲になっていく形でした。既存のレコード会社やマスメディアと無関係なところでヒットが生まれることが完全に可視化された年でした。動画UGMとストリーミングサービスを活用して丁寧にPDCAを回していくデジタルマーケティングがヒットを産むようになりました。
 米中戦争に巻き込まれているTikTokがどうなるかはわかりませんが、UGM動画サービスの動向がヒット曲の源泉になるという流れはどんどん太くなっていくことでしょう。ここには通常の音楽業界関係者は、ほとんどノウハウを持っていません。音楽事務所やレコード協会加盟のレコード会社との契約がアーティストにとって無意味な時代になっている訳です。


 僕が飲み会などで冗談めかして言うのは、「メジャデビューの価値は親孝行以外に無くなったね」ということです。田舎のお母さんが近所の人に説明する時には、有名なレコード会社からの「メジャーデビュー」や地上波テレビ番組のタイアップ、シングルCDが店頭にPOP付きで並ぶことは意味があるでしょう。経済的にもブランディング的にもファン層の拡大にも、ほとんど意味がなくなってしまっているのが現状で、この状況はどんどん進んでいきます。
 音楽を大切にプロとして活動していくのであれば、スタッフサイドもアーティスト自身も、デジタルファーストでファンとのエンゲージメント(継続的な信頼関係)を深めていくことが最も大切です。

 2021年はユーザーの行動変容を踏まえた上で、アフターコロナを模索していく年になるでしょう。音楽においてはMusicTechがキーワードです。欧米から大きく遅れ、韓国、中国にも先に行かれてしまっている日本の音楽界のデジタル対応を一気に行う必要がありますし、加速していくことでしょう。 僕は、従来の音楽業界のやり方も歴史もしっかり理解して、良い部分はパーツとして活かしながら、デジタルコミュニケーションを軸にした新しい音楽生態系が日本でも成立するように全力で取り組みます、と年頭に宣言します。志が同じ人とは連携したいです。一緒にやりましょう!


モチベーションあがります(^_-)