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デジタルコンテンツを「作品」に戻す?NFTが担保することの音楽やアートへの価値とは?

 NFT(Non Fungible Talken)への注目が集まっています。音楽やアートでの活用事例も増えてきて、新しい市場としての期待値も高くなっています。率直に言って、投機的な動きも含まれていて、過熱すると揺り戻しがあるでしょうから、期待値が上がりすぎて、落胆が大きくなることが心配です。改めて、NFTの著作権的な観点での価値について、見解をまとめておきたいと思います。

クラウドによって、著作権はもう死んでいる

 最初に触れる必要があるのは、著作権の仕組みが既に機能不全に陥っているという現実です。著作権はCOPYRIGHTという言葉からもわかるように、「マスターと複製」という考え方から始まっています。著作権の入門書に印刷機の発展の話が出てきて「聖書が最大のベストセラー」と書かれていたりしますよね?マスターを複製することでビジネスが成り立ち、そのルールとして著作権ビジネスは発展してきました。

 デジタル化によって、楽曲はデジタルファイルに転換され流通されるようになりました。インターネットが広まったことで簡単にコピーされ、拡散されてしまうようになり、「コンテンツは無料になる=FREE」という言説が一時期広まりました。(その予測は間違いであったことは既に証明されていますね?)

 ただ、クラウド上にコンテンツを置き、アクセス権をコントロールすることでマネタイズするというビジネスモデルになったことで、「マスターデータとその複製」という著作権の基本的な概念が通用しなくなっています。従来の法律、業界慣習、商習慣は実は合理性を失っているのです。改めてあらゆる法律、商習慣を決め直す必要があります。(正確に言うと、従来の「複製型」ビジネスも残っているので、クラウド型と両方に対応したハイブリッドなルールを作る必要があります)
 ただ、現実には著作権ビジネスは世界中に広範囲に広がっていて、利害関係者も無数に存在するので、すべてのルールを決め直すことは不可能です。合理性を失っている「複製型のルール」を無理くり当てはめて、「木で竹を接ぐ」形で凌いでいるというのが今の音楽を始めとする著作権ビジネスの現状なのです。

 ブロックチェーンで著作権管理を行う仕組みが成立するまでの10〜20年間は、この「無理して、複製時代のルールを読み替える」ことが続くのだろうと僕は思っています。BCによる著作権管理は大きなテーマなので、稿を改めて書こうと思い舞うが、NFTの価値を抑える上で、最初に確認しておきたいポイントです。   
 音楽著作権ビジネスの世界の状況について詳しく知りたい方は、音楽とスポーツの分野で世界的に活躍する日本一の弁護士山崎卓也さんとの電子書籍がりますのでこちらをご覧ください。

技術革新によって社会は螺旋的に成長していく

 著作権ビジネスという観点で、NFTが提供してくれるのは「マスターデータ」の復権です。作品を創ったアーティスト、クリエイターがNFT技術を使って、「これがマスターだ」と担保することができます。デジタルファイルになることで、失われた「マスターとコピー」という複製型のビジネスを再生させることができるのです。

 もちろん単純に先祖返りするのではなく、ひとつ上のレイヤーに進んでいます。「歴史は螺旋状に発展する」というのは、ヘーゲルの「弁証法」に基づく考え方だそうで、僕は田坂広志さんの著書から学びましたが、まさにNFTが著作権にもたらしているのは、この螺旋状の発展です。元に戻ったようで、高いところに進んでいますね。

マスターの再生と現代型のパトロネージュの実現

 インターネットがもたらす「民主化」は、大きな資本や会社から、音楽ビジネスにおけるイニシアティブを「個人」にパワーシフトさせています。レコード会社や音楽出版社が資本を投下して、権利を獲得して収益を最大化し、その分配を音楽家に与えるというモデルから、権利そのものは音楽家個人が持ち、レーベルや出版社は便益を提供して収益分配を受け取るという「As a service型」に音楽ビジネスは急速に変わりつつあります。これも、ラジオなどのマスメディアと共にレコード産業が成長した時代以前に「先祖返り」させているようにも見えますね。

 NFTは、この「個へのパワーシフト」を加速させる役割も果たすでしょう。というか相乗効果で進むという表現が適切かもしれません。
 デジタルメディアが世界を覆う時代に、音楽家個人がマスター音源の存在をNFTによって担保できるすることは音楽家の力を強めることに貢献します。
 NFT付きの作品をオークションで売買することで高額の売却益を得る例が増えてきました。新しモノ好きによる加熱という側面もあり、投機的な動機が強すぎる事例もあるかもしれません。ただ、僕が注目するのは、この動きは、音楽家に対するパトロネージュの再現の可能性を感じるからです。中世ヨーロッパでは富裕貴族が音楽家を支援、育成していました。大衆消費社会の到来で市場でのヒット曲が富をもたらす形に変わりました。
 今は、既にエスタブリッシュメントされたアーティストの作品に高額が付く例が目に付きますが、市場の成熟に従って、新進の音楽家に対して、パトロン投資的な気持で作品を買い上げて、成功した時に売却益を得て、また新しい音楽家に投資するというサイクルも期待できます。
 これまでは、レコード会社や音楽出版社という専門の会社が担っていた(そしてビジネスモデルが時代遅れになったことで担えなくなっている今)新しい才能の発掘という役割を次世代型パトロンの投資によって行えるとしたら、これも一つの「民主化」の形と言えるでしょう。

「コンテンツ」を「作品」に戻して再醒

 印刷機の発明や中世貴族のパトロネージュを想起させるような、螺旋状の発展を音楽やエンタメ全般のクリエイターにもたらすという期待感を僕はNFTに対して持っています。適切なサービスを通じて、このムーブメントを育てていきたいです。僕が代表を務めるスタートアップスタジオStudio ENTREでも、もちろんNFT関連事業は検討しています。来月には情報公開できると思いますので楽しみにお待ち下さい。「NFT×エンタメビジネス」で、新規事業を真摯に考えている起業家や、NFT作品のリリースを検討している音楽家の方は、お気軽にご連絡下さい。
 デジタル化で「コンテンツ」と捉えられるようになった音楽を価値ある「作品」として再生させ、流通させるためにNFTを活用していきましょう。

<参考>


モチベーションあがります(^_-)