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セレブが死後も稼ぐようになった理由。Forbesリスト上位13名中、ミュージシャンが9名!!

 興味深い記事でした。
 フォーブスが発表した「2023年度の最も稼いだ死者セレブリティランキング」によると、マイケル・ジャクソンが1位に返り咲きました。彼は舞台ミュージカル「MJ: The Musical」やラスベガスのシルク・ド・ソレイユのショー「Michael Jackson ONE」などで1億1500万ドルを稼ぎました。2位にはエルビス・プレスリーがランクインし、その他にもホイットニー・ヒューストンやプリンスなどが上位に入っています

 何故、亡くなった音楽系のレジェンドが稼げるようになったのかを理解するためには、ビジネス生態系の変化を知ることが必要です。順を追って説明しますね。


ストリーミングが幹となった「録音原盤市場」

 音楽ビジネス、特に録音された音源(最近はrecorded musicという言葉が使われるようになりました。従来のレコードビジネスと区別するために、日本語では「録音原盤市場」と表現されることが多くなりました)については、ストリーミングサービスからの収入の比率が大きくなり、音楽ビジネス生態系の幹になっています。

IFPIグローバル・ミュージック・レポート2022より

 世界市場において65%がストリーミングサービスからの売上になっています。
 ストリーミングサービスが生態系の幹になったことによる変化はいくつかあります。30秒以上聴かれないと支払対象にならないというルール(スキップレート)によって楽曲が短くなりました。ビルボードTOP10の2000年と2020年を比較すると、楽曲の長さは16%、イントロは44%短くなって、平均7.4秒です。これから日本にも同じトレンドは来るでしょう。

最新音楽業界の動向とカラクリがよくわかる本 P35

旧譜カタログの経済的価値が上がった理由

 ビジネス観点で最も大きい変化は、「新譜旧譜比率」の変化です。CDが主たる商品だった時代は、レコード会社の売上の9割は、1年以内に発売された商品でした。過去に録音した作品を「新商品」にするために、ベスト盤やコンピレーション・アルバムが編成された訳です。ストリーミングサービスでは「プレイリスト」が簡単につくれますので、代替されています。過去作品はそのまま消費されているわけです。
 CDは購入時で売上が一度立つだけでしたが、ストリーミングサービスでは再生される限り、半永久的に収益が分配され続けます。結果としてアメリカの2021年のデータでは、18ヶ月以上前(日本では1年ですが、アメリカでは18ヶ月以内が新譜の定義のようです)にリリースされた作品の売上が、3/4を占めています。従来との比較で「支持された名曲は長く収益を生む」とも、「初期投資の回収に時間がかかる」とも言うことができますね。

最新音楽業界の動向とカラクリがよくわかる本 P32

 これが、亡くなったレジェンドが高収入を上げている主なカラクリです。誰もが知っている名曲は、ストリーミングサービスで再生されて収益を生み続けているわけです。
 音楽は録音されたマスターデータに基づく原盤権と楽曲の著作権とおおきく2つの権利があります。著作権については、他のアーティストがカバーした場合にも収益を生むことになります。

投資対象にしやすくなった音楽の権利

 このような状況になると、過去の収益金額から、未来の収益予測が科学的に可能になってきます。楽曲の良さ、アーティストの魅力など定性的な判断ができなくても、定量的な情報だけでも、合理的な投資判断が可能になります。これが、著作権の高額取引が生まれるようになった理由=死後セレブの収益増の理由です。

最新音楽業界の動向とカラクリがよくわかる本 P36

「音楽著作権証券化」事業が有望な理由

 これは故人だけに当てはまるわけではありません。
 このフォーブスの記事でも「生きているうちに現金化するアーティストの増加だ。ジャスティン・ビーバー、ケイティ・ペリー、ドクター・ドレーは、今年音楽著作権を売却したミュージシャンのほんの一例に過ぎない。」とあります。
 今後はある程度まとまった曲数のヒットを産み出したアーティストは、著作権の全部、ないし一部を売却して現金化する動きが広がってくるでしょう。
 これは、見方を変えると、音楽ビジネスの金融ビジネス化です。音楽ビジネスのプロフェッショナルだけではなく、金融のプロがビジネスに関与することで音楽ビジネスは大きく領域を広げます。不動産の権利を小口化し。流動性を高めることによって、金融的な価値を高めたように音楽著作権の証券化は、作品の金融的な価値を上げていく期待があります。音楽は他の商品以上に、ユーザー嗜好がありますから、投資的な価値に加えて「この曲は好きだから投資したい」という定性的な理由で投資が広まることも期待できます。現状はまだ、富裕層などの特定投資家が主な対象のようですが、小口化して一般投資家層までに広がると、音楽ビジネス自体の活性化にもつながる訳です。
 ボトムラインの収益性は過去のパフォーマンスから合理的な予測が可能で、マーケティングが功を奏すると上振れ期待が持てるというまさに投資家好みの商品になっていると言えるのではないでしょうか?

カタログ価値向上のマーケティングに力を注ぐスタートアップ「POPHOUSE」

 前掲の表にあるように、欧米では既に高額著作権の取引が始まっています。英国のHipgnosis SongsやスウェーデンのPOPHOUSEが有名ですが、いずれも音楽ビジネスのエキスパートと金融のプロが組んだスタートアップです。成功事例が積み上がってきていますので、広がっていくことでしょう。
 特にPOPHOUSEは、証券化して投資を募るだけではなく、作品の価値を上げるマーケティング、プロデュースに注力しています。ABBAは、アーティスト自身の活動というより、ブロードウエイのABBAの楽曲を使ったミュージカルのヒットやその映画化が価値向上に貢献していましたね。
 今回の調査で一位になったマイケルジャクソンもブロードウエイの「MJ:ザ・ミュージカル」やラスベガスでのシルク・ドゥ・ソレイユのショー「マイケル・ジャクソンONE」の貢献が大きいとあります。本人稼働が亡くても楽曲の価値は上げられるということですね。
 ここにまたテクノロジーを活用したKISSのニュースがありました。

 これもPOPHOUSEのプロデュースだそうです。デジタルサービスにおいてレコード会社がヒット曲を生み出すことが困難になり、ユーザー主導でTiktokなどから偶発的に出るケースが多発している現状、プロフェッショナルなマーケティングの方法論は、一定の支持を得てファンベースがある既存カタログの増幅に注ぐべき時代なのかもしれません。従来のレコード会社の役割が、新たな才能を発掘して広めるというところで機能しなくなり、既存のカタログを債権化してファイナンスを強化した上で価値向上を図るということに移っているのだなと感じました。楽曲のライフサイクルのフェーズの中期以降が既存の音楽ビジネスのプロの役割になっていくようです。

日本のスタートアップにもチャンスあり!

 デジタル化で音楽ビジネスが構造変化したこと、そのため、既存の会社がが賞味期限切れを起こして機能不全になり、新たなプレイヤーが求められているということは、僕が拙著やこのnoteで様々な角度からしてきしていることです。
 亡くなったセレブが著作権で稼いだ事実は、音楽ビジネスの構造変化をまた一つ別の側面から証明していると言えるでしょう。
 市場や業界の構造変化は、スタートアップにとって好機の到来です。日本もMUSICTECHの活躍が広まるはずです。エンターテックのスタートアップスタジオStudioENTREは、そんな起業家たちと一緒に新たな事業を次々産み出していくつもりです。興味のある方はご連絡ください!


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