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自民党の憲法改正案!参議院の合区解消は必要なのか?!

以前、タイトルの画像を初めて見たとき、思わず吹き出してしまった。北海道が"でっかいどう"と言われる理由がよくわかる。人口1,2位の東京都と神奈川県を余裕で飲み込んでしまっている感じが凄い。

衆議院総選挙の結果を受け、国会では憲法改正の議論が本格化しそうだ。改憲に積極的な日本維新の会が躍進し、国民民主党の玉木代表や立憲民主党の泉新代表も議論に前向き姿勢を示すなど、近年かつてない程、改憲に向けた雰囲気が高まってきた。憲法改正の議論が活発に行われることには大賛成。1946年の交付から70年以上、一度も改正していない「日本国憲法」。今後、新たな価値観や日本の進むべきビジョンが新憲法に反映されるよう期待している。

さて、どの党よりも憲法改正に前向きに取り組んできた自民党の改憲案を、皆さんはご覧になったことがあるだろうか。4つの改正・追加の項目で構成されていて、自衛隊の明記(位置付け)や緊急事態への対応などが話題にあがることが多いが、実はこの中に参議院の選挙制度についても提案がされている。「都道府県単位の選挙制度を維持し、必ず1人以上は選出する」との内容だ。

かつて、参議院を廃止して一院制にとの議論があったが、日本国憲法第四十二条に「国会は、衆議院及び参議院の両議院でこれを構成する。」と明記されているため、憲法改正をせずに"参議院を廃止"することはできない。また、第四十七条「選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。」とあり、唯一の立法機関である国会でしか、選挙制度を変更することはできない。法律というのは極論だが、議論をしても最後は多数決で決着できるので、選挙制度の法改正も与党が主導すれば、いかようにも決めることができる。では、なぜ自民党は憲法を改正してまで、「参議院議員の選出方法」を変更したいのか?今回は、この点をテーマに意見したいと思っている。

これまで国会は、国政選挙の度に裁判所から「一票の格差是正」を要請され、選挙制度や定数変更を余儀なくされてきた。参議院では、1992年に最大で一票の格差が6.59倍にまでなったが、近年、最高裁判所は「違憲」としない許容できる範囲として、3倍以内と表明している。よって、国会では、この格差内に収まるよう議論がされてきた。

その中で、2016年の参院選から、初めて導入されたのが「合区」制度だ。近隣の県を合わせて選挙区とし、「鳥取・島根」「徳島・高知」の2つが誕生した。これまで、都道府県から1人以上は議員が選出されてきたことを考えると異例といえる。案の定、この合区については全国知事会をはじめ該当の県から強い反対意見が繰り返し出されている。実際に合区された選挙区では投票率が低下するなど、有権者の関心が薄れたとの批判の声もあった。これを解消するためか、2019年参院選で再び選挙制度が改正され、比例区に「特定枠」が導入された。これは、あらかじめ政党が比例名簿の登載順位を決定できる仕組みで、自民党は合区で選挙区から出馬できなかった、三木候補(徳島県)と三浦候補(島根県)の2人を、比例名簿の1,2位とし優先的に当選させた。

これまで、近年の参議院の選挙制度について紹介してきたが、つまり自民党は、あえて憲法を改正してまで「参議院の合区を解消し、都道府県から1人以上選出」を強く訴えているのである。

私は以下の3点を理由に、この改正案に強く反対したい。

1つ目は、一票の格差の裏付けになっている憲法14条1項「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」を事実上、無視しているからだ。改正案の一例として考えられるのが、米国上院議員の選挙制度だ。全米50州から選出される上院議員は各州の定数が2つずつで、人口最大のカリフォルニア州も、少ないハワイ州やアラスカ州も定数は同じ2である。つまり日本に例えると、人口が最大の東京も、最小の鳥取も同じ定数になる。

しかし、上記の憲法14条1項で触れた、〝一人一票という投票の平等〟は憲法に厳然と存在するため、自民案の「都道府県から1人以上の議員を選出する」とした場合、一票の格差の基数を人口の最小選挙区にする必要があり、格差が拡がるほど議員定数を増やすしか対応できない。つまり、無限に参議院の総定数が増やることになる。比例区を廃止して、すべて選挙区に振り分ける想定もあるが、各団体等が推薦する比例区議員から大反対が予想される。とにかく、憲法の中に相反する条文が存在し、両立させるためには相当のパワーが必要だろう。

2つ目は、国会議員の役割は地方の声を反映することが主ではない。外交や防衛、税制や社会保障など国の根幹に関わる重要政策を議論するのが役割だ。もちろん、選出された都道府県に選挙民がいる以上、その地域の声を代弁するのはもちろんだが、むしろ首長や地方議員が担うべき仕事であり、あくまで国会議員は補完的な役割を果たすべきだ。

また、地方の声を聞くためなら、必ずしも都道府県が単位でなくても良い。例えば、東北や中国、四国といった地方ブロックとして、地域をどう発展させるか、国会議員なら各地方の整備局等と連携しながら、広域的な将来ビジョンを考えることも大切だと思う。実際に衆議院の比例区選出議員は同様の役割を担っている。憲法を改正してまで、選挙区を都道府県の枠組みにこだわる必要はない。

3つ目は、党利党略で自民党にとって都合の良い選挙制度にしたいとの思惑がみえるからだ。一票の格差を是正するため、合区で減った定数を都市部の複数区に移行してしまうと、大選挙区になるため、公明、共産、維新、国民民主、れいわなど少数政党の議席獲得を利することになりかねない。

現在、参院選で一人区と呼ばれる定数1の選挙区は全部で32。これまでの構図をみても、自民党vs野党第一党の構図がほとんどだ。ちなみに、政権交代の引き金ともなった2007年参院選では、1人区29選挙区中、自民党は6議席、野党は23議席を獲得し、歴史的な大惨敗となった。自民党にとって1人区でいかに勝利できるかが重要なポイントであり、衆議院選挙の小選挙区のように一対一の構図をつくり、そこで競り勝てれば参議院の第一党がみえてくるわけで、合区して一人区が減るというのはもってのほかである。

また、自民党は各都道府県連が独自の強い縄張り意識を持っている。よって、合区した2つの県連で調整を行ったり、対象県にとって、国会議員を選出する機会を失うことには物凄い嫌悪感があると思われる。自民党という組織を円滑に運営していくための選挙制度でなければ、党内に余計な軋轢ぐ生まれかねない。まさしく、今回の改正案は自民党のためのものと言っても過言ではないだろう。

さて、最初に紹介したタイトル画像を思い出して欲しい。北海道(定数3)は、20以上も国会議員を選出する都県の面積があるにも関わらず、3人しか参院議員が選出されていない。残念ながら、選挙制度は面積を一切考慮していないからだ。民主主義の根幹でもある、国民(有権者)を基準に決められているからだ。その代表である国会議員の規範となる「日本国憲法」の改正に関して、仮に"自己保身"で改正案が出されたとしたら言語道断だ。憲法改正を党是とし、議論をリードしてきた自由民主党から、このような案が出てきたことは本当に残念でならない。せっかくの憲法改正議論が変な方向にいかないよう、各党には冷静な議論を期待したい。

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