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【フェアンヴィ】第2話~2024年創作大賞応募作品~

#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門

パズバ

 パズバ当日。タオは夜明け前に玄関を出た。鳥もまだ寝ているのだろう、虫の寝息が聞こえるくらいで、あたりはまだ夜の湿気が包んでいる。
 ふと隣の家を見上げ、2階の灯りを確認した。ルービスもすでに起きている。胸がざわつく。
 剣技競技の審査が始まるのは夜明けから昼までだ。タオはなるべく足音を消し、急いだ。
 
 剣技会場は去年までとは違う場所で開催されていた。パズバ会場の中でも端っこの道場ではなく普通の建物だ。参加者たちは不思議に感じつつもロビーに集まり剣を磨いたり精神統一をしている。
(来ないでほしい。来ないでほしい)
 タオは心の中で呟きながら太陽が昇るのを待った。
「女は入れんよ」
 入り口で役人の声がした。タオは飛び跳ねるように門が見える位置まで走る。
 そこにはやはりルービスの姿があった。長い髪を後ろで一つに束ねて、華奢な体が強調される体に密着した服を着ている。門番の役人はルービスの3倍は対格差がありそうだ。
 ルービスは門番をしている役人を見上げた。
「どかないと怪我をするよ。これは警告。今年は絶対に入るんだ」
 役人はそれを聞いて大きく笑った。
「笑止! お前が噂に聞く女だな。毎年来ているそうじゃないか」
「今までは実力行使はしなかった。でも、もう待てない。とにかくどいて!」
 ルービスはゆっくりと剣を抜いた。
(ルービス! なんてことを!)
 タオが駆け出そうとするのを横にいた男が止めた。
「やめときな、思い知るべきだ」
 周りの参加者も口々にけしかけ始める。会場が騒がしくなった。
 役人も剣を抜く。
「いいかげんにしろ、死なないとわからないのか?」
 言い放ち、ルービスに襲いかかった。
 ルービスは軽々と役人の刃をよけながら、役人の腰にかかった鞘をつなぎとめてあるベルトを裁った。
 鞘が落ちると場内からブーイングが起こった。役人は舌打ちをして体勢を立て直す。次に振り上げられた剣は速かった。今度はルービスもよけることはかなわず剣で受け止めた。
「!」
 役人の腕力は想像以上に強く、ルービスは腕だけではなく全身を使わなければならなかった。それを悟った役人は口元を緩め、素早く左右から剣を振る。
 連続する攻撃に、速さでは追いつくものの力では負け、ルービスは後ずさりながら剣を交わす。
「ハハハ! どうした! 元気がないぞ」
 役人は狂ったように剣を振った。ルービスはとうとう門に背中を打ち付けてしまった。役人は渾身の力を込めて剣を振り下ろすべく、剣を高く振り上げる。
 その時ルービスの目が光った。
 ルービスは門に背を向けたまま高くジャンプをして格子につかまり、背中を打ち付けた反動で役人の顔面を蹴り上げた。俊敏な行動だった。倒れこんだ役人の手を踏みつけ放たれた剣を蹴飛ばし、右腕を左足で押さえ、右足で腹を踏みつけ刃を首にかざした。
(は・・速い)
 タオは両手をぐっと握りしめた。もし自分でもとても対応できそうもない。辺りの男たちも口を開けてルービスに見入っている。
 今度は他の警備にいた役人数名が剣を抜いてルービスに向かっていった。
「来るな!」
 ルービスの鋭い声が役人たちの動きを止まらせた。
「近づけばこの男の首を切る」
 ルービスに刃を突き付けられたままの役人は顔を蒼白にさせて仲間を見た。役人たちはお互いに顔を見合わせその場に動けずにいる。

「やめろやめろ! おしまいだ!」
 突然、タオの後ろから玄関を飛び出した男が両手を大きく振りながら叫んだ。妙な形の帽子をかぶった浅黒い男だ。
 役人とは違う制服だが、主催側であることは確かなようだ。
「あ…これはこれは!」
 役人たちが一斉に頭を下げた。
「その女性を入れるようにとのことだ。馬鹿なパフォーマンスは終わりにしろ」
 男の一言で会場内は沸き立った。女性が中に入るという異常事態に落ち着かなくなる。
 当のルービスはほっとした表情で剣を戻し、倒れている役人に手を差し伸べる。役人はためらいがちにルービスの小さな手を握った。両手で役人を引き起こし、「ごめんなさい」と、無邪気な笑顔を見せてから会場内へ歩いて行く。役人はそんなルービスを目で追った。
(信じられない…あんな小さな女に負けるなんて。いったい何が起こったんだ)
 
 会場に入るとルービスは窓際に腰を下ろした。初めはおかしな雰囲気に包まれていた場内も数分経つともとの緊張感あふれる空気に戻っていた。だが、時折男たちの視線はルービスに注がれる。
 街中であっても目立つルービスの容姿が男だらけの中で際立たないわけはなかった。
 頬杖をついて外の景色を眺めているルービスは、着飾っていないためか清楚に感じられた。そこだけ絵画のように異空間な美しさだ。

 手をはたく音が張りつめた空気を貫く。見るとあの浅黒い男が立っていた。
「これより審査を行う」
 男があたりを眺めまわした。みな緊張の一瞬である。
「…会場を移す。今回審査するお方は前回まで派遣されていた者ではない。よって、前回とは方針は変わるが、公平に審査することでは変わりはない。今から中庭に移動してもらう。審査会場はそこになる。急いで中庭に移動しろ!」
 庭に続く大きな扉が開け放たれた。みな駆け足で外に出ていく。
「さっさといけ! 最後はどいつだ!」
 男は通り過ぎる男たちの背中や尻を叩いて回っていたが、ルービスが通るときには手を止めた。ルービスが不思議に思って見ると、男は二本指を額に付け、再び放した。
「GOOD LUCK!」
 ルービスは男の言葉に笑顔で応え、他に追いつこうと再び走り出した。

次話 審査 に続く…


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