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読書整理:RePUBLIC 公共空間のリノベーション / 馬場 正尊

memo

これは読んだ本に関する私的なメモです
有料設定ですが全文読むことが可能です

この本の使い方

この本は、理論と実践とアイデア、この三つから構成されている。
(中略)
この本はどこから読んでもいいような構成になっている。

本書 p2

理論では問題意識、実践では事例、アイディアではちょっとしたアイディア(だが現状実現できないもの)を記載している。なお、文章構成が理論→実践→アイデアだというわけでなく、要素としてこの三つの要素で書いているということであり、実際の目次は公園や水辺などのエリアにフォーカスしてまとめられている。
それぞれのエリアテーマごとに理論/実践/アイディアが散りばめられるように語られ、大体見開きでまとまっている。筆者曰く、どこから読んでも良く、何かを始めるきっかけになればいいとのこと。

公共の意味を問い直すために

筆者は実体験から公共が「行政の私有地」になっているのではないかと違和感を覚え、「公共」とは何かを問い直し、公共空間を少し変えることで「公共」という概念そのものを自然に変えていきたいと唱える。
近代化のプロセスで明確に線引きされた私有と共有の関係性ではなく、曖昧さをもった冗長的な空間、commonと表現される空間にヒントがあるのではないかと考え、公共空間は管理する側ではなく使う側の論理で空間を捉えるべきだと主張する。

公園をリノベーション

それぞれが細かいので解説は本書に預けるが、実現しているもの、実現していないもの混ぜこぜで、公園の可能性がわかりやすく感じられる章になっている。様々なアイディアが発散されているいるが、読んで気付くのは全て公園単体の話で語られていないこと。公園とその他何かしらとの関係性として、公園の可能性を模索しているように感じられる。
筆者が最初に述べた「曖昧さをもった冗長的な空間」という考えが、スケッチや事例によってぼんやりとだが確かに輪郭を得ている。こうした可能性を見ていると改めて考えることになる。「公園はみんなのものなのでダメです」という言葉の中にいる「みんな」とは一体誰なのだろうか。

役所をリノベーション

この章はめちゃくちゃアイディアにあふれている。一方で、いかに取り組むことが難しい領域で、アイディアの域をでないかということが、問題意識をさらに浮き彫りにしている気がする。
実際に外から見ても中から見ても、どう考えたって役所という建物はその存在自体が壁を作っているのは明白なわけで、ここにあるアイディアが今後実現させられればと願うばかりである。
個人的にはまちづくり部署はまちにあるべきというのはもっともで、なんなら商店街という場所が役所になってしまえば面白いと思う。〇〇課のとなりはパン屋だったり郵便局だったり、課と課を行き来する職員と普通に買い物する一般の人と、混じりあってめちゃくちゃ面白そう。

水辺をリノベーション

鴨川の川床が全ての規範というのがよく感じられ、水辺の良さが伝わってくる。一方で、水が豊かすぎる地方在住民としては「水辺」に何かを求めるのは、非常に都会的な発想なのかもしれないとも正直感じる。実際事例として上がるのは、鴨川、品川、勝どき、北浜などであり、自分からすると「そこまで川は物理的に近くないぞ…」という気もする。
それはそれとして、実際に社会実験からエリアを変えてしまった北浜の事例などは、もっと掘り下げて学ぶべき内容だと感じた。

学校をリノベーション+interview清水義次

この章は清水さんのインタビューがあるため濃いものの、事例としては2つしかなく、やはり役所同様に活用の難しさがあるのだろうと感じる。筆者はアイデアとして余裕教室の開放や、プールや体育館といった学校独自の資源の活用に活路が見出せるのではないかと唱えるが、自分の地元の状況も踏まえて考えると、なかなか険しい道のりとも感じられる。

ターミナルをリノベーション

筆者の主張としては交通の結節点をそれのみで終わらせるのではなく、コミュニケーションの結節点として変容させてはどうかと提案している。
空港とショッピングセンター、バスターミナルとクリニックなど、ターミナルがターミナルとして存在するのではなく、ターミナルそのものが別の機能を持った集客装置として機能することを求めているようだ。そしてそのハイブリッド化には、非日常空間としてのターミナルが日常空間へと変わる可能性をもたらす可能性があることを伝えようとしている。

図書館をリノベーション

図書館そのものは本を貸し出す施設として普遍的な機能を維持しつつ、その図書館がどのような使われ方をされるのが良いのか、現代的な図書館はどんなものかを探ろうとしている。
オガールの事例がここで出ないのはオガールがもはや図書館単体で語るような規模ではなく、やはりエリア全体の話だからだろうか。代わりに漫画ミュージアムやCCCの手掛けた図書館の事例が掲載されている。

団地をリノベーション

現在私の住む富山県では使われなくなった旧県職員住宅をリノベーションしてSCOP TOYAMA(https://scop-toyama.jp/)という施設の整備を進めている。オリジナルのアイディアは富山工業高校生の2017建築甲子園優勝のプラン、実際に手掛けているのは仲建築設計スタジオ(https://www.nakastudio.com/)で、本書182-183p掲載の「団地に住んで、団地で働く。」を文字通り実践しようと試みている。
筆者は団地ならではのオープンスペースには新しい公共空間のあり方が見えると述べるが、それと上記事業の設計を新ためて重ね合わせると、ようやく少し建築の意図の片鱗を掴んだような気分になる。

interview森司

個と公の関係性を探るという文脈において、本書の目指すところと、話者の表現が目指す先は親和性がある。という点から話が始まり、アートとパブリックスペースの重なる部分を浮き出そうとしているようなインタビューとなっている。そのようにアートを捉えたことはなかったし、ある意味これもまたアートの境界を曖昧にして読者へ引き渡す、筆者なりの試みなのかもしれないと感じられる。

おわりに

いつの時代も社会を変えるのは確信犯的な楽観主義。

本書p206

リノベーションの実践こそが価値観の変革を唱える自分なりの手段であることを述べ、日本はまだ変革を受け入れられるはずだと可能性を示して本書は終了する。

所感

すべの話がほぼ見開きで完結するため、テンポよく読み進めやすく、かついつでもやめれるしいつでも再開できるとても軽快な本であった。あまり公共空間のリノベーションの重要性や必要性を、切実に唱え説教するような内容ではなく、あくまで事例やアイデアを提示することから筆者の唱える「曖昧な冗長的な空間」の魅力を提示し、これができたらワクワクするだろ?とビジョンを共有されているような印象でした。


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