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読書整理:朽ちるインフラ / 根本 祐二

memo

これは読んだ本に関する私的なメモです
有料設定ですが全文読むことが可能です

プロローグ

フィクションとしての最悪のシナリオを提示し、今回のテーマの重要性を訴えている。2022年現在このシナリオの通りにはなっていないが、それは回避されたということではない。

このフィクションには地震や津波などの天災は一切登場しない。言い換えると、自然災害の面からは極めて恵まれた状況を想定したとしても、我々がそれに安住して、老朽化対策を取らなかった場合には、最悪の自体は避けられないことを意味しているのである。

本書p26

ここで想定されるバッドエンドは決してアンラッキーの積み重ねによるシナリオではなく、確定事項であることを筆者は強調している。

第1章 崩壊寸前の社会資本

「まずはその幻想をぶち壊す」とでも言うべきか。アメリカと日本のインフラ(主に橋)がぶち壊れる例を総務省や国土交通省のデータとともに紹介し、「橋は落ちない。なぜなら行政が作って行政が維持点検しているからだ。」という意識を、「橋も古ければ壊れる。なぜなら行政が維持点検しきれないからだ。」と塗り替えていく。率直な感想として思う。古ければ壊れる。多ければ管理しきれない。そうだよな。

第2章 莫大な額にのぼる更新投資

インフラ更新の重要性が理解されないパターンを、市民・行政・議会などはおそらくこのような反応を返すだろうという形で分類している。さらに、現在公共投資がどのように扱われているか、そして独自の計算手法を元にこれから将来どれほど大きな問題になるかを明らかにし、公共投資の問題は地域で解決が必要であると述べる。
そしてその解決手段の一つとして、PFIを含んだPPPの活用が有効であることを主張する。
試算の詳細は本書に譲るが、内閣府に対する説明でも用いられたものであり、計算の構造上概算でしかないとしても、これまで述べられた問題の大きさにより一層の現実味が加わり説得力は非常に強い。

社会資本老朽化の認識には、数値という客観的根拠とそれを国民の前に広く知らしめる透明なプロセスが必要だ。そうしなければ本気にならないからだ。客観主義、透明性はまさにPFIが求めるものである。

本書p93

第3章 各自治体の更新投資をどう計算するか

この章では金額が大きすぎて他人事になりかねない第2章でとりあげた問題を、地方ごとに計算する手法を紹介している。さながら保険営業のライフプラン作成装置の如く、いつどれだけどんな出費が必要かわかるような手法を紹介している。
自分の自治体にこの手法を試すとどのような結果がでるか気になるところであるが、ある程度細かなデータが必要なため、現時点で例えば自ら独自試算することは難しく、部局レベルの取り組みとして動かなければ難しい印象を受ける。我が自治体はやっているのか?本館は80年ぐらい経ってるけど大丈夫か?少し怖い。

第4章 各自治体の老朽化対策の実践例

この章では実際の取り組みの紹介が中心となるが、下記の点に注目したい。

①選択と集中による優先順位付けの正当性

行政の体質として公平性という幻想に足を引きずられ続ける問題がある。優先順位をつけることは、明らかに公平性から逸脱した行為と捉えられがちだということである。
具体的に本書事例では、子育て世代のための機能を優先させると、公民館や図書館は劣後せざるおえず、それに対して市民反発があったことを取り上げている。図書館が重要な施設でないと言うのか?これに対する筆者の回答は堂々としている。

図書館や公民館が必要だと言う意見は当たり前ですが、そのために耐震化や子育て支援機能を劣後にするものではありません。

本書p127

これは本当にあらゆる分野においてもっと行政は主張した方が良い。確固たる目的と責任を持って優先順位を判断することは、決して公平性を侵害するような悪ではなく、むしろ、顕在化してくる反対意見だけを拾い上げて組み込み、目的を見失った挙句に責任を市民側にもあると主張することの方が悪なのではないか。(個人の見解)
補足:この件について後述で「全体最適化の観点から選択と集中」という言葉を使い、非常に重要な視点であることを筆者は主張している。

②調査、分析、方針設定というフローの重要性

全ての自治体事例はデータを精査することから始まり、問題点をオープンかつ明確にし、それに対する解答として方針を打ち出して進められている。ここでテキストにすると当たり前の工程だが、この工程が現実で実現しずらいことは行政に限らず民間企業でも理解されるのではないかと思う。
この工程がいかに前提条件の共通認識形成に非常に有効であるかを、本章は暗に主張している。あたりまえだが、公共施設が古いから更新しようという話ではなく、何が古くてどれを優先すべきでそれは自分たちが目指す先にあっている投資なのか、それを考えてから動いている、それ故に動くことが可能だったという印象を強く受けた。言ってることは普通だが、やれてることが凄い。
補足:これについても後述で「客観的な情報の把握」という言葉を使い、重要性を筆者は主張している。

第5章 崩壊させない知恵

この章ではタイトルの通り、健全に公共施設やインフラを維持していくために必要なアプローチが記されている。
はじめに、仕分け、多機能化、マネジメント、長寿化、広域連携のような手法を駆使し、公共施設及びインフラのライフサイクルコストを下げることを推奨。特に仕分けの章では、市民から上がりそうな意見を採用することでどのようにお金が動くか、市民にも十分理解を得ることの重要性を事例含めて入念に解説している。また、そのほかにも収益を得ること、資金調達段階で施設の必要性が精査されることなどが、インフラ維持に必要な取り組みとして取り上げられる。
ただし、本章において重要なのは上記のノウハウの吸収ではなく、それらの手法が行政だけでは決して成立しないと理解することだろう。行政、民間、市民が一体となって取り組むことが重要であり、その手法としてPPPが解答になりうることが述べられる。
補足として、本章で紹介された知恵をもとに、老朽化対策が震災復興にも適用可能であると述べ、当時の震災から最小時間・最小費用で復興するために行政が取るべきアクションがまとめられているが、これは逆に各自治体が老朽化対策にゼロから取り組む場合の参考フレーム として機能しうるものかもしれない。

第6章 どのように対策を進めるか

第5章はどういった手法が存在するかという紹介だったが、第6章が触れているのはそれらを行う際にどう言った土壌が組織に必要かということが簡潔かつ明確に述べられている。箇条書きにするとおおよそ下記となる。
・データによる正確な把握と共通理解
・専門部署によるマネジメントと適切な権限の委譲
・第三者委員会の設置
・情報のオープン化と市民参加や民間提案の活用
・全体最適のための選択と集中という意識形成
そしてこれらを提言として発信することが、なによりも一歩目につながるということを示唆してエピローグへ移る。

エピローグ

プロローグ同様にフィクションとしてグッドエンドが語られるが、これまで本書を読んできた読者にとっては見事な伏線回収に感じられる。しかし、エピローグで筆者が伝えたいのは、ノウハウがうまく機能していることではなく、次の2点と感じる。
・問題意識が地方から国全体へ波及することで希望が見えたこと
・バッドエンドとは比べ物にならないくらいに戦い抜く道になること
その後の「おわりに」では筆者から官の立場の人間にたいして穏やかに檄を飛ばして本書は終わる。最後にその中から一つを抜粋。

個別最適化の行動を取らないでほしい。必要なのは、地域全体、国全体を考えることだ。自分が関係する分野を優先させることは誰でもできる。ましてや自分の雇用を守ることを優先してはならない。納税者はそのような仕事をみなさんに頼んではいない。

本書p286

所感

全体の所感

全編を通じて地方自治体に対する経営指南書のようだなぁと終始感じた。決してネガティブな意味ではない。書いてあることはそのまま実践できるのではないかと思うほど網羅的かつ丁寧で、非常に説得力が感じられる。本当にこの本が出てもなお何も地方が変わっていないのだとしたら、現在進行形で悲劇の真っ只中なのだろう。ただ、一職員としては危機感を非常に感じたものの、自分が職場でどうこうできる話ではないという気持ちも終始もちろんある。だからこそ個人として何をするのかが求められているようにも受け取った。

noteでの記録について

今回はじめてnoteで整理しながら読むことを行ったが、それはもうしっかり時間がかかった。通常の倍どころですまない。それを考慮してもメリットと感じたのは下記3点である。

・本文の構成理解が進んだ(あくまで構成の理解であって本質の理解は別)
・正誤はさておき自分なりに何を受け取ったかが整理されたし残った
・思考しながら読むので眠気が一切こない(疲れはする)

ちなみにこの効果「だろうね」ということで、人によっては読みながらでもできるわーいという人も多いと思う。正直自分もある程度理解力はある方だと自負したいが、ここで感じたのは単純に解像度の問題。書き記すことで、よりリアルにとは言わないが、画質の悪い写真ぐらいにはなったのではないかと思う。読むだけだとピクセルアートぐらい。

現時点では余裕がある限り継続すべきと判断するけど正直めちゃくちゃしんどい。いつでもやめる準備は万全にできているので、とりあえず続けたいと思う。


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